8月下旬になるとフランスは一気に秋めく。「ツール・ド・フランスが終わるとフランスの夏は終わり」などと言われるのだが、近年はその言葉とはほど遠い残暑が続いていた印象が強かった。
しかし、今年のフランスはちょっと違う。真夏の暑さを感じることなく、肌寒い薄曇りの毎日。そしてオラージュと言われる局地的な雷雨に見舞われることも多い。今年のフランスは夏がなかった。
そんなフランスのレースシーズンもあと2カ月ほどでオフを迎えるが、先日フランスの新聞社が興味深いランキングを発表した。
ワールドツアーに登録されている約450選手の中でレース走行距離が多い選手は…というランキングだ。1位はヨーロッパカーのペリーグ・ケムナーでツール終了時まででレースの総走行距離は1万3213kmだった。そして同じくヨーロッパカーの新城幸也は1万2342kmで、堂々8位にランクイン。選手たちは「よく働くなぁ~」と言い合っていたが、選手たちにとってみれば走ることが仕事。要するにこれは『働き者ランキング』と言えるのかもしれない。
上位にランクインされていた選手たちはツール後も次々とレースを走っているが、年間の走行距離はいったい何kmになるのだろう。
以前、このコラムの中でフランス人にとって家族がツールに出場するような自転車選手というのは名誉なことで親戚中の自慢だ。という話にふれたが、同時に家族はたくさんのことを我慢しなければならないのも事実だ。
チームメイトには子供がいる選手も少なくないが、グランツールに出場すれば約1カ月間パパが家にいないという状態なのだから、奥様方の愚痴が漏れ伝わることもある。さらに家にいる時間は練習と体力回復のために費やされ、食べるものも制限されるのだから、シーズン中はフランスの一般的な家庭のように週末ごとにパパとアウトドアを楽しむとか、長期バカンスを取るということもできない。
小さな子供たちを連れて人混みの中レース会場に来るにも大変ことだし、落車や怪我の心配をしながら祈るように無事の帰りを待つのだ。
ある選手の奥さんは「普通のパパたちのように、もう少し子供たちと一緒に家にいてほしいと思うけど、テレビでパパが走っている姿を見られるのは、うちの子たちだけの楽しみだし、頑張っている姿を見ていれば、わがままを言わなくなったわ」と言っていた。
華やかなレースの舞台に立つ自転車選手の生活は家族の理解と支えのもとに成り立っているのだと感じる。選手たちは待っている家族のために過酷なレースに耐え、長期の遠征を乗り切るのだ。
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