【澤田裕のさいくるくるりん】自転車でたどった福島の今 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【澤田裕のさいくるくるりん】自転車でたどった福島の今

オピニオン コラム
緑に覆われた山際を行く仲間たち。ここは計画的避難区域から外れている
  • 緑に覆われた山際を行く仲間たち。ここは計画的避難区域から外れている
  • 警察関係者から教えられたあとで、この看板も見つけた
  • 「りょうぜん紅彩館」にも、線量を示すデータが毎日掲示されている
  • 最終日に立ち寄った「あぶくま洞」。教会の伽藍内部のような景観に圧倒される
天候に悩まされた3連休、みなさんはどのように過ごされましたか。僕はクラブのツーリングで福島を訪れました。被災地を取材する知り合いに同行した2011年以来、3年ぶりとなります。

◆3年前に想いをめぐらせながら

福島駅から走り始め、通り雨に遭いながらも伊達市霊山町へ。急坂を上った先にある「りょうぜん紅彩館」はこぎれいなうえに料理がおいしく、しかも料金は7500円~1万円とリーズナブル。翌日の天気を気にしつつも、満ち足りた気持ちで床に就きました。

翌朝、小ぶりになったとはいえ雨は降り続いています。早朝に予定していた霊山の山登りはあきらめ、阿武隈山地を縦断するルートを目指します。メインとなる国道399号線はアップダウンが激しく、「酷道」と評されるほどのタフな道です。

宿から2km余りで、佐須峠を越えて飯舘村に。原発事故により全村民が立ち退きを求められたこの村には、3年前も立ち寄りました。持参したガイガーカウンターで側溝の放射線量を測ったところ、毎時20マイクロシーベルトを記録したことが思い出されます。それでも今は伝わる情報も減り、一部では住民の避難も解除されたものと思い込んでいましたが…。

いや、大きな間違いでした。家々に人の気配は感じられず、農地は荒れるに任せています。沿道のいたるところに除染作業中の幟が立ち、汚染された土壌を詰めた黒いビニール袋がうずたかく積まれています。出会うのは工事関係者と警察関係者ばかり。村人の姿は見当たりません。その警察関係者から、国道399号線は通行禁止が続いていることも教えられました。

◆人が暮らしている安心感と計画的避難区域

全村が原則として宿泊できない区域に指定されたままであることは、帰宅後に調べて知りました。当然ながら商店も閉じたまま。お腹は空いてきたもののどうにもなりません。ふたたび峠を越えて川俣町山木屋地区に足を踏み入れますが、ここも計画的避難区域ということで変わりはありませんでした。

宿から40km近く走行して、ようやく営業中の商店を見つけたのは二本松市田沢地区。店先で食べたカップラーメンのおいしさもさることながら、そこに人が暮らしていることに言い知れぬ安心を得ました。計画的避難区域とそれ以外とを隔てるものはありません。しかし事故の影響が身に迫る地域と穏かに見える地域との余りの落差に、どこか国境を越えたかのような感覚を覚えたのも事実です。

◆現実に目を向ける

その後のツーリングは順調で、3日目は好天にも恵まれました。夏井川に沿って延びる県道は下り基調なうえに交通量も少なく、自然とスピードも上がります。その途中でひと休みしていると、1台のクルマが通りがかりました。停止したドライバーはサイクリストの集団に、「どこからやってきたのか」と問いかけます。「関東から」と答えると、彼は「よそからやってきて、(原発事故などなかったかのように)遊びほうけている奴らを見ると腹が立つ」と言い捨て、その場から去っていきました。

見ず知らずの僕たちに対し、彼がなぜそう感じたのか。さまざまな疑問が沸き起こりますが、飯舘村の姿とともにこれも福島の現実だと思わざるをえませんでした。
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