「真理ちゃん自転車」ってご存じですか。昭和40年代末頃にブリヂストン自転車がリリースした、正式名称「ドレミ真理ちゃん」。女の子用(幼児用)自転車なんだけど、男の子用の「ドレミ仮面ライダー」の対になる形でヒットした。
「真理ちゃん」ってのは、当時のトップアイドル天地真理のことでね(当時は、どのテレビチャンネルを回しても真理ちゃんが映っていたもんだ)。前カゴの前面と側面に貼られたプレートの中で、白雪姫に扮した彼女が微笑んでる。
ところが、かつての少女、現在私と同世代の女性たちに「真理ちゃん自転車」のことを聞いても、必ず「真理ちゃん自転車? 知らない」という反応を受ける。
そんなバカな、貴女がたの何人かは確実にこれに乗ってたはずだよ。え、なんでだよ、と、私は思う。
だが、彼女たちは「ヒキタさん、記憶力いいわねぇ」なんて笑うばかりだ。
これ、思うに、男女の自転車への思い入れの違いなんだろう。だって、男の子たちは「ライダー自転車」を必ず憶えてるもの。それは、男の子にとって、ライダー自転車こそが一番の宝物だったからだ。乗った自分自身は、間違いなく仮面ライダー本郷猛そのものだった。だいいち男の子と女の子では「乗り物」に対する思い入れが違いすぎる。我が子(5歳と3歳の男の子)を見ていても分かるけど、鉄道、バス、クルマ、と、男の子たちにとっての乗り物ってものは、ある一時期、興味のすべてを注ぎ込むものとなる。その乗り物の中で、自転車ってのは、最も身近で、唯一自分で乗れる乗り物なのだ。
ところが、女の子にとっては違う。ある時期まで数あるオモチャのひとつ。で、その時期を過ぎると、ただの移動手段となってしまうってわけだ。
でも、ここが皮肉なところでね。
単なる実用品として乗ってきた「元女の子」たちは、長じて頻繁に自転車に乗るようになる。だからあのシンプルな自転車のことを「ママチャリ」というのだ。ただし「歩行の延長」として。
それに比して、乗り物好きな「元男の子」たちは、やがて本物のクルマに乗ったり、本格的な鉄ちゃんになったりして、いつしか自転車に乗らなくなってしまう。一部のマニアを除いては。
実はこのことが、現代日本の自転車事情に大きくモノを言っていると思われるんだけど、その話をするとまたまた例によって長くなるんで、また別の機会に。
《疋田智》
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