新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.2

オピニオン インプレ
新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.2
  • 新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.2
組み合わせるホイールによって豹変する走り
いい工場で丁寧に作られている
しかし不安になるのはパイプの薄さである。キャノンデールのスーパーシックスEVOは、あそこまでの軽さを持ちながらチューブを握ってもほとんどたわまない。形状的に強い丸断面ということもあるのだろうが、700g以下とは思えないほどチューブが強いのだ。その理由をキャノンデールのエンジニアに聞くと、「それがバリスティックカーボンだよ」 とウインクされた。どうやら秘密はレジンにあるらしいのだが。
ビューラSLのチューブは角断面というカタチもあり、握ると簡単にたわむ。担当者に聞いたところ、現状で十分な強度が確保されており、何ら問題はなないとのこと。体重制限もなく、かなり頑丈にできているという。しかし、扱いには十分に注意するべきだろう。
ヘッドチューブからダウンチューブの中をのぞいてみると、わずかにシワが見られるため、製造にはブラダーかそれに類するものを用いていることが分かる。しかしカーボンフレームの中ではトップレベルにスムーズな内壁である。個体差も少なそうだ。一流の技術を持ったいい工場で、丁寧に作られているのだろう。なお、試乗はいつも通り様々なホイールで行った。フレーム単体の性能を評価するためである。
コンプレッション系ホイールとの相性抜群
走り出しての第一印象は、快適性が高く、しなやかさを上手く活かすタイプのフレームで加速も良好、というもの。柔らかくはないが硬すぎもしない。軽量フレームながら操作に対して返してくる反応は正確で、走りに綻びは見られない。しかし、先輩達の絶賛とは少し異なるものだった。とりあえずは一通りの性能が出ており十分に速いが、キシリウム系やニュートロンなど普通のホイールで平地を流しているぶんには、しかしこれといって特徴のないバイクなのである。
高負荷域に持って行っても印象は変わらない。キレ味抜群の最新鋭車に比べると、切っ先が少々丸まっている感触がある。反応のよさ、機動の正確さはいまだ最高レベルにあるルック・695らと比べると、半歩劣るのだ。
ダンシングなど、トルクの脈動が大きくなるペダリングでは、フレームのしなやかさが活きてくるのだろうか、印象が良くなる。坂で軽めのギアでダンシングしたときには軽快感が強くなる。ただそれも、ビッグギアでベタ踏みするとしなりの往き戻りのリズムが合わなくなる。このビューラSLは、スイートスポットが狭いのだ。
サコッシュ店長のアドバイスに従って、ライトウェイトでも走ってみた。確かにホイールの実力差以上にキレ味が増す。しかしもっと驚いたのが、コリマのMCCで走ったときだった。走りの各要素がピタリとまとまるのである。ダンシングで登っているときの軽快感、絶妙な剛性感は理想的なものへと昇華する。類いまれなる登坂能力を持ったバイクへと生まれ変わるのだ。
最初は筆者私物のエアロプラスMCCで走っていたのだが、たまたま別件で借りていたウィニウムプラスMCCでも走ってみた (ニールプライドもコリマも代理店はトライスポーツだが、もちろん偶然である)。リムハイトが違うにも関わらず、ビューラはどちらのMCCとも相性が抜群だった。ビューラSLとコリマMCCとのマッチングを知ってしまってから、走行距離が一気に伸びた。
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勢いと実力のあるニールプライド、勝負はこれから
ホイールとの相性は今後のロードバイクの課題
フレームセットの他に完成車も用意されるビューラSL。9000系デュラエース&キシリウムSLSで72万円。機械式アルテグラ&アクシウムで42万円。特にアルテ仕様は魅力的かもしれないし、SLSやアクシウムは決して悪いホイールではないが、しかしビューラの場合はコストを優先して安易なホイールを入れると失敗する可能性が大きい。ホイールの性能差以上に失うものが多いのだ。思い切って飛び道具的なホイールを組み合わせることをお勧めしたい。
不思議なことに、ルック・695などにライトウェイトやコリマのMCCを入れても腰を抜かすほど走るようになるわけではない。フレームの基準がすでに高いレベルにあり、ホイールでドーピングしても伸び代が少ないからだろう、ホイールの性能差をそのまま現出させるのみで、予想の範囲内に性能向上が収まるのだ。
しかしビューラは違う。相性のいいホイールを入れれば見事に化ける。場合によっては超一流最新鋭フレーム以上の走りを見せてくれる。コンポジット系ホイールの使用を前提として仕立てられているのかもしれない。ホイールを入れ替えて乗り味の変化を愉しむというような付き合い方はできないかもしれないが、このビューラをビューラらしく走らせるには、「軽くて硬い」 という分かりやすいホイール ライトウェイト、コリマのMCC系、ファイアクレスト系ジップ、D3系ボントレガーなどを組み合わせるべきだろう。もしかすると、ISM 3Dを手に入れてリムが軽くなったMY13以降のR-SYS SLRあたりも合うかもしれない。思い出してみれば、同業者が絶賛したビューラSLには、いずれも軽くて硬いホイールが付いていた。
最初の印象が嘘のような変わりようだが、フレームとホイールのマッチングとはそんなものである。それに、ビューラのようなしなりを活かすタイプのフレームはホイールとの相性による良し悪しが大きく出ることが多い。性能に大きな影響を与えるホイールが容易に交換できてしまい、そのホイールの性格も多種多様という、スポーツバイクならではの難しさである。フレームとホイールとのマッチングをどうコントロールするかは、これからのロードバイクの課題になるだろう。
レベルの高い快適性にも驚かされる
前述したように、快適性が高いことにも驚かされた。ただホワンホワンにソフトなのではなく、衝撃を丸めた後、それをしっかりと減衰させて飲み込んでくれるのだ。非常にレベルの高い乗り心地である。
同じ軽量フレームでも、ヒルクライムで陶然となれるほどの一体感と引き換えに高負荷域では綻びを許したボッテキア・エメ695とは違い、ビューラSLはスプリントでもよく伸びる。感覚としては、この小さなリブが効いているように思う。少ない素材で剛性確保に四苦八苦するライバル達をあざ笑うかのような単純な解決法だが、カタログのお飾りではなくちゃんと仕事をしていることが気取れるのだ。スーパーシックスEVOよりも芯がしっかりしているような印象すら受ける。薄いパイプで軽さを前面に押し出しつつ、リブや角断面など形状の工夫で超軽量フレームが本来持っている危うさをなるべく排除してきたという印象である。
というように、ビューラSLは複雑だが素晴らしいライディングフィールを持ったフレームだった。軽いが勘所はしっかりと押さえてあり、ハードブレーキに対する耐力も高い。快適性も望外に高い。走行性能は組み合わせるホイールによって大きく左右されるが、相性のいいホイールを組み合わせれば、敏捷で高い登坂性と操安性を持つ実に魅力的な一台となる。アリーゼとディアブロには未乗車だが、聞くところによるといい出来らしい。ビューラに乗ると分かるが、このブランドの実力はかなりのものである。ニールプライドは、新興ロードバイクメーカーとして理想的なスタートをきったのだ。
2014モデルとして、ラインナップにコンフォートモデルを加えるというニールプライド。現在の流れを考えると正しい戦略であり、ビジネス上不可欠なボリュームモデルとなるはずだ。しかしこれからのニールプライドに必要なのは、ビューラSLの上をいく超高性能車を手駒に加えることだろう。大手有力メーカーを慌てさせることのできる、コストをある程度無視した少量生産の超高性能車。歴史の浅いニールプライドが、ルックやタイムの鼻をへし折り、キャノンデールやトレックやスペシャライズドを青ざめさせれば、ブランドの価値は一気に高まる。たった3作目にしてビューラSLをここまでの完成度に仕上げてきたニールプライドには、勢いと実力がある。真価が問われるのはこれから。勝負はこれからだ。
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