【MLB】“新人王”候補の千賀滉大に胸中複雑…… 「日本球界のエースをルーキー扱い」に疑問を呈する | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【MLB】“新人王”候補の千賀滉大に胸中複雑…… 「日本球界のエースをルーキー扱い」に疑問を呈する

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【MLB】“新人王”候補の千賀滉大に胸中複雑…… 「日本球界のエースをルーキー扱い」に疑問を呈する
  • 【MLB】“新人王”候補の千賀滉大に胸中複雑…… 「日本球界のエースをルーキー扱い」に疑問を呈する

福岡ソフトバンクホークスからニューヨーク・メッツに今年移籍した千賀滉大投手が大リーグの新人王候補に挙がっている。12勝7敗、リーグ2位の防御率2.98は「ルーキー」としての実績としては立派である。投票結果はまもなく出るところだが、日本のメディアは野茂英雄氏(1995年)、佐々木主浩氏(2000年)、イチロー氏(2001年)、大谷翔平投手(2018年)に続いて日本人史上5人目のMLB新人王受賞なるかとわくわくしている。

◆【速報】千賀滉大は新人王ならず 12勝&202奪三振で2位も…大谷翔平以来5人目の快挙逃す

■「日本球界のエースが新人王」には疑問

オリンピック(五輪)でも、大リーガーの主力選手が出たワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも日本は優勝しているのだ。千賀投手はWBCには自分の意思で出場しなかったが、長年その日本球界のエースとして君臨した投手をつかまえてルーキー扱いをするとは日本野球界に対する敬意が足りないという論調には触れたことがない。

一方のNPBでは、海外のプロ野球を経験した選手には新人王の資格を渡していない。それは現役バリバリの大リーガーはもちろんのこと、韓国や台湾のプロ野球から来た選手がいきなり活躍しても、国によって格上か格下かの区別などせず、一律に新人王選考対象からは外される。ただし今年、大リーグでヒットも放った日本ハム加藤豪将内野手には特例として新人王の資格をなぜかNPBは付与した。これには少々驚いた。

MLBには、PGAツアーやNBAやNFLなどと同様、それぞれの競技でアメリカが世界最高峰のリーグ/ツアーという強烈な自負があり、他国のプロリーグでいくら実績があろうとルーキーはルーキーだということなのだろう。

1995年に野茂氏が新人王を受賞する前後に、その点を指摘するアメリカのメディアがあった。日本のプロ野球で(当時は独立リーグがなかったこともあり、NPBという表現も一般的ではなかった)4年連続最多勝と最多奪三振を獲得した投手に新人王というのは、日本の野球界にむしろ失礼になるのではないか、という論調だったと私は好意的に解釈したのだが、一部日本のメディアに「野茂の新人王にイチャモン」といういささか品位に欠ける見出しが躍ったことを私は記憶している。

あれから28年が経ち、しかし、日本は過去最強の布陣で臨んだアメリカを倒してWBCの優勝を飾った国である。

NPBから来た選手だけは新人王資格は渡さない、くらいの規定を設けてもいいのではないかと思う。日本のファンもメディアも、無邪気に千賀投手の受賞を望んで、という場合ではない、と私は思うがどうだろう。

その点、受賞した選手たちはどう思っているのかわからないが、少なくとも「今さら自分をルーキー扱いするのは日本野球を見下しているようで気分がよくない」という趣旨のコメントは見たことがない。ありがたく受け取っているように思える。受賞できなかったときにこう言ってしまうと負け惜しみに聞こえるし、受賞した場合もMLBから見ると気分を害する人もいるかもしれない。ここは受賞選手ではなく、日本のファンやメディアのほうが「MLBに今や肩を並べるNPB出身選手を新人王対象外にする時代ではないか」と提起してはどうだろう。「それは困る、自分は新人王がほしい」、というような日本人選手がいるとは思えないのだが。

大リーグで新人王が制定されたのは1947年のことである。当初は以前の日本の沢村賞のように両リーグを通じてひとりが選ばれたが、3年目から各リーグからひとりずつになり、すべてのシーズンでひとりずつ選ばれてきた。

当たり前のようなことではあるが、実は日本ではそうではない。両リーグ分立と同時に1950年から各リーグひとりずつ選出でスタートしたが、突出した成績を収める新人が現れなかった場合「該当者なし」ということがしばしばあった。調べてみると50年代にはなかった該当者なしが、60年代には7回、70年代には2回あり、63年は唯一両リーグ該当者なしであった。その後80年代90年代とすべて誰かは選ばれており、2000年のパ・リーグで該当者なしという年があり、今のところそれが最後になっている。

幼少時代の私がこの「該当者なし」という日本語を覚えたのはプロ野球の新人王発表でのことで、おそらく65年から66年あたりのことだろう。

沢村賞の場合は「賞の権威を守る」ということで該当者なしが今もあるが、新人王ではそうではない。2021年のように新人で3割を打った牧秀悟内野手も24本塁打を放った佐藤輝明内野手も受賞できなかった年(受賞者は栗林良吏投手)もあるかと思えば、この数字で取れるのかなと疑問が残る年もある。牧選手や佐藤選手のような例を思えば、思い切って該当者にすればいいのにと私は思ってしまう。

2年目以降の選手が受賞するときも、確かに5年以内で通算投球回数30イニングの投手と60打席以下の打者は有資格なのだが、多少数字が劣っても新人が受賞するべきと思ってしまうのだが、どうなのだろう。 ◆細川成也と大竹耕太郎は“大化け” 伸び悩む選手のため球界で求められる「成功事例」の共有

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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