【Bリーグ】個人最高の栄誉を手にしより一層“河村勇輝の1年”の色を濃くしたMVP  アワードの課題も… | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【Bリーグ】個人最高の栄誉を手にしより一層“河村勇輝の1年”の色を濃くしたMVP  アワードの課題も…

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【Bリーグ】個人最高の栄誉を手にしより一層“河村勇輝の1年”の色を濃くしたMVP  アワードの課題も…
  • 【Bリーグ】個人最高の栄誉を手にしより一層“河村勇輝の1年”の色を濃くしたMVP  アワードの課題も…

B.LEAGUE AWARD SHOW 2022-23」が2日、東京都内で開催され今年、所属の横浜ビー・コルセアーズを初めてのチャンピオンシップ(CS)進出に導くなどリーグを席巻した22歳のポイントガードがレギュラーシーズン最優秀選手賞(MVP)に初選出された。

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■祖母からの手紙に感涙する場面も

横浜ビー・コルセアーズ所属の河村勇輝は、ベストファイブ、新人賞、レギュラーシーズン最優秀インプレッシブ選手賞(MIP)にも選ばれた。

「このMVPにふさわしいかというところは不思議な気持ちではいるんですけど、この受賞は自分の実力が一番だったということではなく、これからも日本のバスケットボール界を盛り上げていってほしいというメッセージや使命を与えてくださったのだと自分なりに解釈しています」。

受賞が発表され、河村はこのように述べた。スピーチ前に流れた映像では、幼少期、ともに教師で忙しかった両親に代わって面倒を見てくれた祖母からの手紙が代読され、河村が感涙する場面もあった。

昨年3月末をもって東海大学を中退し、今シーズンから純然たるプロの選手としてデビューを果たした河村は、52試合(50試合で先発)に出場し平均19.5得点(B1 7位)、8.5アシスト(B1トップ)をマークし、前年まで1度も5割以上の勝率を挙げたことのない横浜を33勝27敗(中地区2位)の成績に導いた。

福岡第一高校時代から卓越したパス能力で知られる河村は昨年、初めての参加となった日本男子代表での活動を経て得点への意識を大幅に変えた。今シーズン、河村は20点以上を挙げた試合が23度、30点以上を記録した試合が6度あり、2つのカテゴリーで2ケタをマークする“ダブル・ダブル”が19試合であった。

■ベストファイブには7年連続の富樫ら

ベストファイブには富樫勇樹(写真中央)らが選ばれた 撮影:永塚和志

河村以外のベストファイブには、富樫勇樹(千葉ジェッツ、7年連続7回目)、原修太、クリストファー・スミス(ともに千葉J、初受賞)、ペリン・ビュフォード(島根スサノオマジック、初受賞)が選ばれた。

ベストディフェンダーは原(初受賞)が、ベストシックスマンは3P成功率でB1 2位(43.2%)だったスミス(2年連続2回目)となった。

Bリーグが始まってから、CSどころか3年連続で降格の危機に陥っていた横浜BCをポストシーズン・セミファイナルまで引っ張った。シーズン中、敗戦後などには「自分たちはCSに出たことのないチームでこれが現在地」などと口にしながら、リーダーとして自らを律し続けた。

その姿勢はMVPを獲得しても変わらない。河村は「この賞をもらったからといって現在地が上にあがったという気持ちになるということはまったくない」と話した。受賞した喜びは当然あったものの、河村というジェネレーショナルタレント(世代に1人生まれるかどうかといった選手)が見すえるものは、もっと高い頂だ。

「自分の中ではMVPを目標としてバスケットをしているわけではないので、ただただ、チームとして日本一になって、その中での1つの評価としてMVPがついてくるっていう感じなので、そこにあまり固執していないですし、とにかくチームで日本一になりたいです」。

アワードショー内での涙から数十分経っていた河村の表情はいつもの引き締まったものに、声のトーンも信念が感じられる力強いものへと戻っていた。

■MVPについては議論の的に

国枝慎吾からベストファイブのトロフィーを受け取る河村勇輝 撮影:永塚和志

同イベントは今回、4年ぶりに有観客会場での開催となり、客席には異なるチームのグッズ等を身にまとったファンがかけつけた。

しかし、久々に行われた華々しい授賞式も、MVP等の投票結果を巡ってやや口の中に苦い味が残るものとなった。

MVPの結果については、今シーズンのB1 得点王(平均22.5点)で3つのカテゴリーで2ケタの数字をマークする“トリプル・ダブル”をリーグ新記録となる10度叩き出したビュフォードのほうがふさわしいのではないかという声も多かった。

投票結果を見ると、河村は合計496点、2位ビュフォードは同327点を獲得している。ちなみにMVPはベストファイブの中の最高得票獲得者が選ばれ、ベストファイブへの投票はメディア、全チームのヘッドコーチ(この2つは1票が3点となる)、全選手(こちらは1票が1点)が行うという制度となっている。

Bリーグ島田慎二チェアマンは、3日に更新した自身の“note”(文章を主とした記事コンテンツを発信するプラットフォーム)で、メディア票は「僅かに」河村が多く、ヘッドコーチ票は「同一ポイント」、そして選手票で河村が「2位以下を圧倒」と、この最後のところで差が生まれたと説明している。

ベストファイブの投票は、実際の試合で採用されている外国籍選手の“オン・ザ・コート2”と同じで、外国籍に対しては最大2名までしか票を投じることができない。対して日本人選手については3名以上記名することができる。

この方式では外国籍選手の票は割れ、日本人選手に比べ不利になってしまうところは否めない。「この選手はベストファイブに入れておかないといけないよな」という日本人選手が「最大公約数」的に選ばれる可能性が生じてしまう。Bリーグ初年度の2016-17シーズンでニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)が選出されたのを除いて、残りはすべて日本人選手がMVPとなっている。

■7年目を迎えたBリーグも改革時期か

ビュフォードがこの投票方式を知っていたかどうか定かではないが、MVP受賞を逃した彼はアワードショー後の取材で河村には妬みなどはまったくないし祝福したいとする一方で「正直言って複雑な心境」と落胆の表情を隠せずにいた。

複雑な心境ということは自身がMVPにふさわしいと感じていることかと確認の意味で問われたビュフォードは「100%そうさ。僕らのチームの成功と自分がそこに果たした意味なんかを考えても…まあでも、しょうがないさ」と返した。

ビュフォードの島根は今シーズン48勝12敗(勝率8割)で、河村の横浜BCは上述の通り33勝27敗(同5割5分)と、それぞれ西地区、中地区の2位だったとはいえ戦績には開きがあった。

しかし、そもそもMVPはチーム成績をどれほど鑑みる必要があるのか、いやあくまでこれは個人に与えられる賞ではないのか、フォワードのビュフォードとガードの河村のように役割の違うポジションの選手をどう見比べるべきなのか――。

このあたりはリーグから指示があるわけでもなく、投票者の価値観に委ねられているし、そうあるべきでもあろう。ただ、MVP(他のいくつかの賞にも言えることだが)の選出とは様々な価値観の中から、往々にして比べようのない選手たちを秤にかけて見比べるという、ある種のナンセンスな作業だ。

シーズンでもっともまばゆい光を放ち続けたのが河村だったことに異論は多くないだろうが、その彼が「僕よりはるかに素晴らしい成績を残している選手がいる」と殊勝に話している。真意はわからないが、ビュフォードやその他に彼がMVPにふさわしいと感じた選手に対しての気づかいだったか。

MVPを廃止しろなどというわけでは無論、ない。ただ、エンターテイメント的な側面が大きいMVPなどの個人賞に「誰々が選ばれるべきだった」という議論は、とりわけその思いが印象から来ているものだとしたら、意味はさほどない。

ただし、Bリーグも7年目を終え、ベストファイブとは別にMVPの投票を設けるなど、制度に手を入れる時期に来ているのでないのではないか。

アワード参加者が集合しての写真撮影 撮影:永塚和志

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著者プロフィール

永塚和志●スポーツライター

元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。

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