【プロ野球】行き過ぎたリスペクトもいかがなものか… トレバー・バウアーの“刀パフォーマンス”封印騒動を考える | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【プロ野球】行き過ぎたリスペクトもいかがなものか… トレバー・バウアーの“刀パフォーマンス”封印騒動を考える

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【プロ野球】行き過ぎたリスペクトもいかがなものか… トレバー・バウアーの“刀パフォーマンス”封印騒動を考える
  • 【プロ野球】行き過ぎたリスペクトもいかがなものか… トレバー・バウアーの“刀パフォーマンス”封印騒動を考える

今季、横浜DeNAベイスターズに新入団したトレバー・バウアーはメジャーリーグ時代から三振を奪ったときに刀をさやに収めるような“SWORDパフォーマンス”をしていた。だが、それを後押しした球団に同僚の山﨑康晃がかみついた。

◆【実際の記事】『ニューヨーク・ポスト』やFOX Sportsなどが、山崎の発言を続々と取り上げるなどアメリカでも騒動に

■肥大化した「相手へのリスペクト」に一石

球団としては、サイヤング賞受賞者という大物投手が日本で気持ちよく投げられるように配慮をすることになんの問題もないと考えたのだろうが、山﨑というチームの顔というべき選手が球団の公式ツイートに対して「公式で煽るな。あほちん」と非難した。

スター選手はことばには気をつけたほうがよい。

山崎の言葉がバウアーに向けたものではなく、球団の公式ツイートで煽るべきではないといいたかったことは理解できる。それでもツイートに使うべきではない。このことでクローザーと大物メジャーリーガーとの間にさざ波が立つような解釈をするなというほうが無理である。

私からすると、同球団の選手がホームランを放った後にダッグアウト前でそろって「デスターシャ」と声をそろえるポーズと何が異なるのかと思う。他球団の選手も「どすこい」とか「あつおー」というようなパフォーマンスをしている選手もいるわけで、それにくらべればバウアーのポーズはそれほど相手に対して非礼なものとは思えない。

MLBでもホームランを打った打者にかぶとをかぶらせたり、派手なジャケットを着せたりするチームがあり、阪神も大きなメダルをかけるようなことをやっていた。

エンゼルスの大谷翔平(C)Getty Images

自分自身はあまりこうしたパフォーマンスを好まない。以前書いた通り2009年WBCでイチローが決勝打を放った直後のように「当然だという顔をするのがかっこいい」と思うからである。投手でも野茂英雄や能見篤史のように、喜怒哀楽を表に出さず相手に「動じているように見えないな」と思わせるほうがプラスになることが多いと思う。

だが星野仙一や渡米前の田中将大のように相手を威圧するくらいの表情を見せるやりかたも批判をする気はない。

つまり、そのあたりは人それぞれ、球団それぞれである。礼に始まり礼に終わる学生野球ではこのようなことはやめてほしいと思っている。生活がかかっており、エンターテインメント性も集客のために必要なプロ野球では「あり」だと思う。観客は毎日「非日常」を求めて球場にやってくる。

昨今多くの野球ファンがいうような「相手へのリスペクト」が理由ではない。阪神が相手選手を侮辱するような応援歌を自粛するようにファンに求めたり、そういう動きが他球団にも広まっているが、これも行き過ぎたものに限定してはどうかと思う。

境目がむずかしいかもしれないが、敵チームを完膚なきまでに叩きのめす程度の気概を選手もファンも持っていた時代から考えると、必要以上に「相手へのリスペクト」の声が大きすぎるように思う。

■「食うか食われるかの勝負、何のための敬意か」

このような話になったときにいつも思い出すインタビュー番組がある。当時のことを覚えている野球ファンならピンと来ると思うが、1989年の日本シリーズ、第1戦から3連勝した近鉄バファローズの勝利投手・加藤哲郎が第3戦終了後のヒーローインタビューで発したとされる「巨人はロッテより弱い」ということばだ。

第4戦から巨人が4連勝して逆転優勝をしたので、この発言がドラマチックに取り上げられているが、別に怒ったからチームが見違えるように強くなるものではないと思う。この発言が特に日本シリーズの勝負に直接影響したとは私は考えていない。

数年後にそのシーンを回顧したテレビ番組で加藤にインタビュアーが「相手への敬意がなかったとは思いませんか」と質問した。まだリスペクトという外来語が市民権を得てない時代で、今ほど相手への敬意も重視されない頃だ。彼は即座に「食うか食われるかの勝負をしているのに、何のための敬意ですか」と答えた。自分の発言には微塵も後悔がないようだった。こうした食うか食われるかの戦いに野球ファンが何十年も胸を躍らせてきたことも事実だと思う。

親日家のバウアーは日本では受け入れられないようなら…ということでそのパフォーマンスを封印しているが、日本のマウンドでも、アメリカでやってきたように振る舞いたかったのではないだろうか。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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