「悔やまれる初球の直球」は本当か… 野球の本質を捉えていない評論家の的外れなバッテリー批判に思う | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

「悔やまれる初球の直球」は本当か… 野球の本質を捉えていない評論家の的外れなバッテリー批判に思う

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「悔やまれる初球の直球」は本当か… 野球の本質を捉えていない評論家の的外れなバッテリー批判に思う
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ピンチで初球に直球を選びそれを痛打されるとバッテリーが批判されることが多い。野球評論家でそうした論評をする人も多い。

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■直球でファーストストライクを取るのは悪いのか

いささか旧聞に属するが、今春のセンバツでも満塁のピンチに相手の4番打者に対して初球に直球を投じたところグランドスラムを浴びてしまった試合がある。甲子園最多勝を誇ってきた高嶋仁氏が「悔やまれる初球の直球 沖縄尚学の4番が逃すはずはない 高嶋仁の目」という見出しで朝日新聞デジタルに投稿している。

お決まりの論評である。

特にプロ野球では、これが外国人打者に初球の直球を痛打されると、それはもう待ってましたとばかりに評論家から批判を受ける。

また初球に配した直球のストライクを打たれたときに「不用意にストライクを取りにいった」という人も大変多い。スポーツニュースのアナウンサーまでもがナレーションでそう言うときがあり、誰がそういうナレーション原稿を書いているのか聞きたくなるほどだ。

多くの功成り名を遂げた野球関係者がそう言うのだからそれは正しいのかもしれないが、捕手や元名捕手の評論家からも反論が出ないから、こういう論評が後を絶たないのだと私は考える。

ピンチで強打者が出てきたらすべてファースト・ストライクは変化球で取るように、と世の中の捕手が決めていたら打者には簡単に読まれてしまう。外国人打者のコミュニティで「日本ではピンチのときには変化球でストライクを取りに来る。直球が来るとすれば、それは必ずボール球だ」という情報が流布されるに違いない。

そのように思わせないために、怖くても初球に直球を選ぶことは絶対に必要な攻め方だと言っておきたい。

評論家の言葉をよそに、実際には直球が使われることは珍しくはないのである。その結果、確かに痛打を浴びることもあるけれども、センターフライなどの凡打ですんだり、ファウルでカウントを稼ぐこともある。変化球にヤマをはった打者が呆然と見送ることもある。

空振りを取れることだってあるものだ。昨年55号本塁打を打ったころから村上宗隆はけっこうな頻度で初球の直球を空振りすることが目立ち、それは今に至っている。三冠王打者でさえそういうことはあるものだ。

逆に初球に変化球を投げて打たれることも直球と同じくらいある。データスタジアムならそのあたりの資料があるのかもしれない。実際、WBCで大谷翔平が相手投手の代わりっぱなに初球のフォークボールを痛打したことも記憶しているファンもいるだろう。

直球を打たれたときだけ「セオリー外」と批判するのには賛同しかねる。

そもそも、打者はすべて相手投手のボールを予想することは不可能だし、捕手も相手打者の狙いをすべて外すことも無理というものである。テレビ中継を見ていると配球は野球観戦の大きなテーマであることはわかるのだが、予想を強いられる解説者も気の毒というものだ。解説者の予想が当たるのなら相手打者にだって読まれることになるし、裏をかいたとか裏の裏をかいたとか、不毛な後づけの話だと思う。

読みが当たっても打たれないボールはいくらでもあり、読まれたら100%打たれるというのならそれはシート打撃の投手レベルになる。

読まれても打てないという投球術を投手は磨くべきであり、読みが外れてもなんとかするという打撃術を打者は磨くべきだ。

もちろん、どれだけバッテリーが工夫しても1試合に何本かヒットは出るし、本塁打も飛び出す。どうしても打たれたくない場面にどんなに配球を工夫しても、絶対に打ち取れるという保証はないし、また思ったとおりにボールが行かないこともある。

失投である。

一方、打者だって読みを当てても打ち損じることも多いものだ。

だから野球はおもしろい。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。

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