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2021年のラグビー・トップリーグは、パナソニック ワイルドナイツの2015年以来5度目の優勝で幕を閉じた。
2年越しの連覇を狙った神戸製鋼コベルコスティーラーズは、死闘となったクボタスピアーズとのプレーオフトーナメント準々決勝で敗退。現行リーグでのラストシーズンは、悔しい結果となった。
捲土重来を期す神戸製鋼だが、SPREADではそんなチームの中心メンバーであるWTB・山下楽平との単独インタビューを実施。熱戦の連続となったシーズン終盤の戦いを振り返るとともに、ウイングプレイヤーとしての矜持、そして今後のラグビー界の発展や競技普及にかける思いなどについて話を聞いた。
◆神戸製鋼・山下楽平が語る「ウイング論」 紙一重の判断に求められる戦術とマインドとは
■連覇を逃した悔しいシーズンは「細かいところで……」
―2021年シーズンお疲れさまでした。連覇を狙った神戸製鋼ですが、ベスト8に終わりました。この結果をどうとらえていますか。
率直に言って、残念な気持ちでいっぱいです。試合に負けたのも悔しいですが、連覇を目標にチーム一丸でやってきたものが十分に出せなかったのが一番悔しいですね。
去年までと比べてハードワークが足りなかったとか、一生懸命さが足りなかったということは、一切ありません。試合ごとに振り返れば、常に修正点はあります。それよりも、全体的に細かいところで少しずつ精彩を欠いていたのかな、と。それがあの結果につながったと思っています。
―山下選手の目標は「全試合でトライを取る」でした。8試合にフル出場、7トライという個人成績はいかがですか。
数字で見ると、良くも悪くもなかったですね。ただ、細かくプレーを見直すと、改善できたところはあったと思います。それは試合の準備を含めてのことです。
■激闘のクボタ戦で見えた今後への課題
―プレーオフトーナメント準々決勝、クボタ戦の終盤で、アタアタ選手がラインの背後に蹴ったゴロパンを際どく抑えて、一時、逆転となるトライをあげました。あのトライは、とても印象に残りました。
自分はサイズが大きいわけでもないし、めちゃめちゃスピードがあるのかといえばそうでもない。ですから、ギリギリの局面でしっかりとトライを取り切るのが自分の強みだと思っています。そのためには、いかに「スイッチを切らないか」が大切です。相手が少しでも緩んだところに、素早くプレッシャーをかけることを心がけています。あの場面でも、簡単にグランディングさせずに、うまく体を入れることができました。
もっといえば、相手がスイッチを切った瞬間を見極めて、それをいかにチャンスにできるかがポイントです。相手がスイッチを切ったのが分かっても、そこに走り込んでボールをもらわなければ意味がない。きちんとボールをもらえたのは、半分くらいかもしれませんね。今後、もっとその確率を上げていくのが課題です。
―そのクボタ戦は前半、0-17とリードされる展開でしたが、チームとして焦りなどはありませんでしたか。
スコアは負けていましたけど、試合を通してみれば流れは必ずくると思っていました。ですから、あそこは我慢のしどころで、神戸に流れがきたときにギアを上げようというのがチームのマインドでしたね。正直、あの時間帯ではまだ焦ってもいないし、余裕もあったと思います。
―そして、前半29分、バーナード・フォーリー選手に対して、危険タックルによるレッドカードが出ました。
あのプレーが流れの変わるきっかけだったのは確かですね。前半のうちに1トライ返すことができました。
それでも、あの日のクボタは完成度が高くて、14人になってもパフォーマンスが落ちませんでした。そして、後半も一進一退の展開のなかで、70分に自分がトライをあげて逆転することができました。
それでも、結果的にPGで再逆転を許して負けてしまいました。あれがシーズンを象徴するシーンでしたね。どう考えてもペナルティをしてはいけない時間帯で、しかも自陣で反則をしてしまった。もちろん、クボタの集中力はすごかったですが、ギリギリの試合では致命的になります。今後、改善しなければいけない課題ですね。
■パナソニック戦で光った細かな戦術
―パナソニック戦は雨、風が強いタフなコンディションになりました。
あのような条件下では、ロースコアの試合になることが分かっています。トライはどちらも1つか2つしか取れないと予想していました。そうなると、より反則をしないことが大切になります。できるだけ敵陣で戦うのもセオリーです。ボールを持っているとミスをおかしやすいので、わざと相手にボールを持たせるという戦術もあります。相手陣でボールを持たせれば、PGのチャンスを得られる可能性が高くなりますからね。
ディフェンスの規律を高めて、コミュニケーションもより密にする必要が出てきます。人の距離を狭くしたり、ラインを深めにするなどの微調整も大切です。ウイングとしては、大外で待っているだけではボールタッチが減るので、意識的にスクラムハーフの近くや密集サイドで張るようにしました。
僕は神戸製鋼に入って、まだ一度もパナソニックに勝ったことがないんですよ。引き分けでも2位通過が決まることは分かっていたので、最後は蹴り出して試合を終わらせましたが、個人的にはプレーを継続して、何としても勝ちたかったですね。
■メンバーバランスの良さが目立つ神戸製鋼
―NTTドコモ戦は接戦の末、劇的な逆転勝ちでした。
あの試合のドコモはキックオフから80分間、プレッシャーをかけ続けてきました。とてもキツい試合でした。チームとして勝ち切れたことはとてもよかったんですが、僕自身のパフォーマンスはよくなかったですね。最初のボールタッチでTJペレナラと1対1になって、味方のサポートが3、4人あったのに勝負して、最終的にはノックオンで終わってしまいました。パスしていればトライというシーンでした。どう修正するかは難しいんですけど、結局、試合を通して判断ミスが多くなって、次の試合はメンバーから外されてしまいました。
83分の松岡賢太の逆転トライで勝ったわけですが、あのときぼくもラックの真後ろにいて、左右どこかがあいたら、ボールをもらってやろうと構えていたんですよ。そうしたら、誰も予想しないタイミングで松岡が飛び出して。試合後に「すごかったな」って声をかけたら、「いや、目の前がポッカリあいたんで」って言ってました(笑)。
―神戸製鋼は若手も台頭して、ベテラン、外国人選手とメンバーのバランスがいいですね。
僕自身7年目のシーズンで、実感はないんですけど、もう中堅に差しかかっているんですよね。そのなかで松岡や李承信などの若手が出てきて、どんどん発言しています。みんながリーダーシップを取ろうとしているのは、すごくいいことだと思います。ぼくもチームの中では、積極的に若手とコミュニケーションを取っています。
神戸の外国人選手は、一言でいうと、みんないい人です(笑)。どんなビッグネームでも、チームにフィットしようと努力しているのがよく分かります。レタリック選手にしても、あれだけレベルが高いのに、日本選手をリスペクトしてくれますからね。本当に刺激になります。
◆神戸製鋼・山下楽平が語る「ウイング論」 紙一重の判断に求められる戦術とマインドとは
◆競技愛が導いたプロ選手への道 山下楽平が見据えるラグビー界の今後と普及への思い「恩返しをしたい」
◆パナソニックの優勝で幕を閉じたトップリーグ 日本人の若手スター候補も続々と登場
著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。