【THE REAL】日本代表・本田圭佑がビッグマウスを放つ理由…断崖絶壁のベテランが抱く矜持と覚悟 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】日本代表・本田圭佑がビッグマウスを放つ理由…断崖絶壁のベテランが抱く矜持と覚悟

オピニオン コラム
本田圭佑 参考画像
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自身のツイッターに投稿した偽らざる心境


これまで歩んできたサッカー人生に色濃く刻み込まれたポリシーと、これからも揺らぐことなく貫いていく反骨魂。本田圭佑という男の生き様が、107文字からなる日本語の文面に凝縮されていた。

中東サウジアラビアの地で、約1年間におよぶワールドカップ・アジア最終予選を戦い終えてから約30時間が経過した7日午前11時29分。本田は自身のツイッター(@kskgroup2017)を更新している。

冒頭で≪Just arrived in Pachuca.≫とサウジアラビアからパリを経由して、メキシコに戻ったことを英語で報告した本田は、いま現在の胸中に抱いている、偽らざる心境を投稿のなかで綴っている。


≪サッカーファンの皆さん、メディアの皆さん、「もう代表に必要ない」とか他にも厳しい声をありがとうございます。年明けてからの半年間が何よりも重要なのは何度も言ってるが、良い感じで舞台は整ってると思ってます。ありがとう。≫(原文のまま)

ワールドカップ予選で未勝利だった難敵、オーストラリア代表に2‐0で快勝。6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めた8月31日の埼玉スタジアムのピッチに、背番号「4」は立つことなく終わった。

ワールドカップ出場を決めた日…ピッチに立つことはなかった
(c) Getty Images

舞台を敵地ジッダに移した日本時間6日未明のサウジアラビア代表戦では、左腕にキャプテンマークを巻いて2戦ぶりに先発。しかし、何ら爪痕を残すことなく、前半の45分間だけでベンチへと下がっている。

目を疑うようなシーンもあった。前半43分。自陣に入ったところでMF山口蛍(セレッソ大阪)からの縦パスを受け、MF柴崎岳(ヘタフェ)へはたこうとするも、当たり損ねのパスは相手にわたってしまう。

すかさず仕掛けられたショートカウンター。自分がケアすべき相手の左サイドバックにペナルティーエリア付近にまで攻めあがられ、きわどいシュートを放たれた。以前ならば絶対に犯さない凡ミスだった。

前半のみ出場したサウジアラビア代表戦
(c) Getty Images


居場所がなかったオーストラリア代表戦


サウジアラビア戦で任されたのは2列目の右。オーストラリア戦で先制弾をあげた22歳、FW浅野拓磨(シュツットガルト)が武器とする、50メートルで6秒を切るスピードがないことは自覚している。

UAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表に連勝した3月シリーズで23歳の久保裕也(ヘント)が魅せた爆発的な得点力も影を潜めたままだ。自身があげたゴールは、昨年9月1日のUAE戦までさかのぼる。

ならば、体の強さを生かしたボールキープや、攻撃にアクセントをつけられるパスの配球力を駆使して右サイドで勝負したい。しかし、体が重たいのか。思い描いたパフォーマンスを発揮できない。

「僕に関しては長い間、コンスタントにプレーしていないので、監督の判断というのはすごくうなずける」

オーストラリア戦から一夜明けた1日。ピッチに立てなかった理由を噛みしめるように、自らに言い聞かせた。ACミラン時代を含めて、満足にプレーできていない日々がすでに1年以上も続いている。

ACミランの最終シーズンは、チームの構想から実質的に外れた。7月に加入したメキシコの名門パチューカでは、標高2400メートルの高地への順応に苦しみ、右ふくらはぎにも肉離れを負った。

バヒド・ハリルホジッチ監督はオーストラリア戦で、相手のダブルボランチを機能不全に陥れ、高い位置でボールを奪い、両サイドから素早く攻める戦略を遂行できる11人をピッチに送り出した。

当初は「FW」で招集された本田が試合当日は「MF」として登録されていたことからも、右サイドにおいては浅野と途中出場した久保で構成された序列を覆せなかったことがわかる。

一方で中盤に回ったとしても、山口蛍(セレッソ大阪)や井手口陽介(ガンバ大阪)が最後まで発揮し続けた、球際における強さや豊富な運動量を体現できるようなタイプでもない。


投稿中に「ありがとう」と2度も呟いた理由


ゲームプラン上でもともと居場所がなかったオーストラリア戦を、本田はこんな言葉で振り返っている。

「一番の収穫は、僕と(香川)真司が試合に出なくても勝てたということ。当然ながら、僕と真司はそこに危機感を覚えているわけですよ。統計的に見ても僕と真司が出なければ、いままでだとよくない試合が多かったというか、勝てない試合が多かったわけですから。

オーストラリア代表戦前の様子
(c) Getty Images

でも、実際には勝ったことで、僕らはもう必要なくなるんじゃないか、ということも言われる。でも、それはいいことやと思っています。それが次につながるし、僕らとしてはコンディションをあげていかなきゃいけない。いい材料は若手が活躍したこと。それに尽きるのかなと」

サウジアラビア戦での低調なパフォーマンスをへて、ベテランの域に達した本田に対する不要論はますます増幅されている。しかし、これまでも逆風に身をさらしてきた男は、いまの状況に胸を躍らせている。

「結局は本大会が目標なので。その意味ではベンチに座っているいまはまさにプロセスであり、必要な悔しさでもある。この悔しさがなくなったら、努力することができないと自分のなかでは思っているので。モチベーションにもなるし、もちろん(過去の実績に)あぐらをかくこともできない。

僕自身はサッカーをやめること、引退することは別に怖くない。その意味では本当にいま現在を楽しめているし、この危機感を与えてくれたことに感謝もしている。もっとスプリントせないかんみたいな、めちゃシンプルなことを考えさせてくれる選手たちがいるのは、僕にとってすごくいいことなので」

オーストラリア戦の翌日に明かしていた胸中は、もちろんサウジアラビア戦後も変わらない。自身の体たらくぶりを認め、捲土重来への糧にするからこそ、ツイッターで「ありがとう」と2度も呟いた。


あえて「ビッグマウス」を連発してきた真意


自ら望んで、毀誉褒貶の激しいサッカー人生を突っ走ってきた。その過程で記憶にも記録にも残る言葉をいくつも残してきたことから、いつしか「ビッグマウス」なる枕詞がつけられるようになった。

一般的には実力や実績もないのに、大口をたたく人間を揶揄するときに用いられる「ビッグマウス」は、本田の場合はちょっと異なる。反響が大きい分だけ、自分にかかってくる大きなプレッシャーを楽しむ。

要は「有言実行」と称賛される未来と「ビッグマウス」は表裏一体なのだろう。たとえ周囲から笑われようと、壮大な夢や目標を公言してきた理由を、自らの本当の性格を明かしながらこう語ったこともある。

「僕は自分が弱いということを知っていて、だからこそ自分の逃げ道を遮断しようとした」

あくまでも「現時点のまま」という条件をつければ、日本代表のなかに居場所を築き続けることは容易ではない。ただ、ハリルホジッチ監督は本田と香川真司(ボルシア・ドルトムント)をこう評してもいる。

「彼らの存在自体が、チームにとって重要だ」

特に本田の鋼と形容してもいいメンタル力、自分自身を知り尽くしたうえであえて追い詰めることのできる特異なキャラクターは、究極の戦いを強いられるワールドカップで必ず必要になると信じているのだろう。

歩むべき道はひとつしかない。先発すら果たしていないパチューカでレギュラーを奪い、失われて久しいゲーム体力とゲーム勘を取り戻すこと。ダメなら「大ボラ吹き」と批判される覚悟も、もちろんできている。

パチューカが北中米カリブ海連盟(CONCACAF)代表として臨むことが決まっている、FIFAクラブワールドカップ2017も12月にUAEで開催される。逆襲の機会を虎視眈々とうかがいながら、まずは直近のリーグ戦となる日本時間10日朝のグアダラハラ戦へ、本田は静かに牙を研いでいる。
《藤江直人》

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