【THE REAL】華やかに幕を開けた新・ポドルスキ伝説…デビュー戦で魅せた日本への愛と人懐こさ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】華やかに幕を開けた新・ポドルスキ伝説…デビュー戦で魅せた日本への愛と人懐こさ

オピニオン コラム
ルーカス・ポドルスキ
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デビュー戦で履いた異色のマンガスパイク


世界と対峙してきた男の足元を見た選手がいたとしたら、敵味方の垣根を越えて驚いたはずだ。ドイツ代表でも一時代を築いた、FWルーカス・ポドルスキのスパイクはそれだけ異彩を放っていた。

鮮やかなブルー地に映えるオレンジ色の靴紐もさることながら、甲の部分にはアニメのイラストが描かれている。しかも、サッカー選手の大半が目を通したことのある日本の人気サッカー漫画の登場人物だった。

右足の甲に『キャプテン翼』の永遠の主人公・大空翼が、左足の甲には宿命のライバル・日向小次郎の顔がほどこされたスパイクを履いて、ポドルスキはヴィッセル神戸の一員としてのデビュー戦に臨んだ。

「僕は『キャプテン翼』のファンで、もう長いこと、3年くらい前からこのスパイクをもっていた。特製かどうかは覚えていないけど、ずっと自宅に置いてあったものを、どこかのタイミングで履けたらと思って日本にももってきた。そして今日の試合で履いたんだ」

ホームのノエビアスタジアム神戸に大宮アルディージャを迎えた、7月29日のJ1第19節を終えた後の取材エリア。32歳のビッグネームは、子どものような笑顔を浮かべながらスパイクの謎を説明してくれた。

日本だけでなく、世界中でテレビアニメが放送された『キャプテン翼』に魅せられたサッカー選手は多い。J2東京ヴェルディとの交渉が注目された、元イタリア代表FWフランチェスコ・トッティもその一人だ。

最終的には、実に四半世紀も在籍した愛着深いローマで引退する道を選択した。しかし、少年時代には日向の必殺技、タイガーショットを真似して骨折した経験もあるほどの筋金入りだ。

アメリカのチームのオファーを断り、ローマのフロント入りかヴェルディでの現役続行かの二択に絞られた背景には、『キャプテン翼』を介して日本に覚えていた親近感があったとされている。

元イタリア代表FWフランチェスコ・トッティ
(c) Getty Images


すね当てにもプリントされていた日向小次郎


プロデビューを果たしたケルンを皮切りに、バイエルン・ミュンヘン、アーセナル、インテル・ミラノ、ガラタサライでプレーしてきたポドルスキにとって、ヴィッセルは通算6つ目の所属チームとなる。

しかも、ヨーロッパの地を離れるのは初めて。それも言語だけでなく、文化や風習のすべてが異なるアジアの日本におけるデビュー戦とあって、約3年間に及んだスパイクの封印を解いたのだろう。

いまも大好きな『キャプテン翼』の神通力にあやかりたい、童心にも似た純粋な思いも働いていたかもしれない。しかし、前半の45分間を戦っているうちにある問題が頭をもたげてくる。

ポドルスキが履いていたスパイクは、アディダス社の『F50 Adizero 2014 Samba』。ワールドカップ・ブラジル大会へ向けて前年の2013年に発表された、ちょっと古いモデルだった。

「いつも履いているスパイクとは異なるポイントだったので、履き心地という意味でちょっと違っていた。なので、ハーフタイムにいつもの白いスパイクに履き替えて、後半の戦いに臨んだんだ」

一般には些細な違いに映るかもしれない。それでも、足元の感覚を大事にするサッカー選手にとっては、足の裏から伝わってくる違和感がどんどん大きくなる状況は、集中力を保つ点でも難しかったかもしれない。

0‐0で迎えた後半の開始わずか4分。ペナルティーエリアの外、約20メートルの距離から振り向きざまに、助走をほとんど取らない体勢から、ポドルスキは利き足の左足を迷うことなく振り抜いた。

相手ゴールの右隅を正確無比に射抜いた強烈な弾道。挨拶代わりと呼ぶにはあまりに衝撃的な来日初ゴールだったが、実はストッキングの下に装着しているすね当てにも、日向のイラストがプリントされていた。

「利き足が違うだけで、ヒューガは自分とすごく似ている選手だからね」


注目されるプレッシャーを力に変えて


今年3月に引退したドイツ代表で、130試合に出場して49ゴールをマークしている。2006年のドイツ、2010年の南アフリカ、そして2014年のブラジルとワールドカップの舞台に3度も立った。

南アフリカ大会の前からは「10番」を託され、ブラジル大会では24年ぶり4回目、東西のドイツが統合されてからは初めてとなる世界一の座をつかみ取ったメンバーのなかに名前を連ねた。

ブラジル大会の優勝メンバー
(c) Getty Images

華やかな軌跡を刻んできたスター選手が、果たしてどのようなプレーを日本で魅せてくれるのか。デビュー戦で注がれた期待と注目度の高さは、百戦錬磨のポドルスキにも少なからず影響を与えていた。

「立場的にもそういう(スターとして見られる)プレッシャーは当然ある。しかも、ヨーロッパの人々が思っているようなレベルにJリーグはない。今日の相手も16位のチームと聞いていたが、すごくいいサッカーをしていた。そういったプレッシャーを、これからも力に変えていきたい」

両チームともに無得点で前半を折り返し、スパイクを履き替えて臨んだ後半開始前のピッチ。その中央で左サイドバックの橋本和に対して、英語を介しながら忌憚なく戦術的な要求をぶつけた。

後半15分に追いつかれるも、わずか2分後にこれまでほとんど見せたことのないヘディング弾を見舞って勝ち越す。そして、同33分に決まったボランチ・田中英雄のゴールでダメを押した直後だった。

左ひざの前十字じん帯損傷という大けがを、必死のリハビリで乗り越えた34歳の田中は、アルディージャ戦が復帰して2試合目。直近のゴールは、2015年4月25日の鹿島アントラーズ戦までさかのぼる。

当然のように、周囲を取り囲んだチームメイトたちから手洗い祝福の嵐を受けまくる。そして、歓喜の輪が解けた目の前に、笑顔を満開に弾けさせたポドルスキが両手広げながら田中へ抱き着いてきた。


変な日本語を駆使したコミュニケーション


このときの2人の間のやり取りを、試合後の取材エリアで田中が苦笑いしながら明かしてくれた。田中によれば、ポドルスキは「日本語を言ってきた」という。

「この場では言えないようなこと、ですね。いまはいろいろと日本語を覚えているところなので。生活用語もそうやし、変な言葉もね。誰から教わったのかはわからへんけど」

変な言葉とは、つまりは下ネタだろう。サッカーだけでなく、たとえばプロ野球においても、来日したばかりの新外国人選手は下ネタを好んで覚えては、公の場ではばかることなく口にして周囲の笑いを誘う。

微笑ましくなるような人懐こさ
(c) Getty Images

下ネタはスムーズに新天地へ溶け込むための、最良のツールにもなる。雲の上の存在、という感も少なからずあったポドルスキがそういう言葉を使い、無邪気に笑うだけでその場の空気はなごむ。

人気サッカー漫画を十数年だったいまも愛する童心と、思わず微笑ましくなるような人懐こさ。何よりもワールドクラスの実力を披露してヴィッセルを勝利に導いたヒーローは、こんな言葉を残してもいる。

「今日は子どもたちも、家族連れも大勢スタジアムにきていた。これ以上にない雰囲気のなか、最初の試合で2点を取り、試合にも勝てたことは言葉にできないくらい嬉しい。まだ完全にはフィットしていないが、これからどんどん前へ進んでいきたい」

実はアルディージャ戦では、ポドルスキの愛称『ポルディ!』を専用窓口で元気よく伝えた小学生以下の子どもたちに、バックスタンド自由席入場券がプレゼントされる特別企画が実施された。

名づけて「ポルディからの招待状」を申し出たのは、「できるだけ多くの子どもたちに見に来てほしい」と望んだポドルスキ本人だった。不思議な縁で日本と結ばれていた男はあふれんばかりの優しさも身にまといながら、新たな伝説をJのピッチに刻んでいく。
《藤江直人》

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