【山口和幸の茶輪記】五里霧中の谷川岳から生還…健康のありがたさを再確認(後編) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【山口和幸の茶輪記】五里霧中の谷川岳から生還…健康のありがたさを再確認(後編)

オピニオン コラム
2013年の西黒尾根。季節もちょっと違って紅葉前の9月だった
  • 2013年の西黒尾根。季節もちょっと違って紅葉前の9月だった
  • 紅葉のピークだったがホワイトアウトでなにも見えない…
  • そそくさと写真撮影。谷川岳はピークが2つあるので時間を惜しむようにもう一つへ
  • 下山時はウソのように天候が回復した
  • 一ノ倉沢に向かう散策路。道路左の案内標識から西黒尾根の上りが始まる
  • 谷川岳の一ノ倉沢も紅葉が見ごろだった
  • 関東の温泉地として知られる水上温泉郷は一汗かいたサイクリングのあとに欠かせない。手ごろな価格で入れる日帰り温泉も数多くある。写真はコース途中の湯檜曽で見つけた足湯
日本三大急登として知られる群馬県谷川岳の西黒尾根。標高2000mにも満たない登頂ルートだが、上越国境に位置することから天候が急変しやすく、そのため遭難者も多い。降水確率ゼロの天気予報だったが、中腹でまさかの強い風雨に見舞われた。

【山口和幸の茶輪記】日本三大急登、谷川岳の西黒尾根に挑んだが…(前編)

西黒尾根は急勾配のルートだが、岩をよじ登るセクションは手がかりや足場もしっかりしていることから初級者でも時間に余裕をもって挑戦すればなんとかクリアできる。ただし下りは相当のテクニックを要するので、西黒尾根を上って山頂に立ったあとは別ルートの天神尾根で下山する。これが正攻法だ。

紅葉のピークだったがホワイトアウトでなにも見えない…

■北風に雨雲が乗って天気が急変

ふもとから上り始めて3時間ほど。すでに登山をあきらめて引き返すには困難なところで、待っていましたと言うかのように雨が降り始めた。この日の山岳気象予報では「風は強いが雨は降らない」と予報されていたにもかかわらず。

出発前、谷川岳登山指導センターで谷川岳警備隊にこの日のコンディションをリサーチしたとき、新潟県からやってきたという登山愛好家と居合わせたので声をかけてみた。その人は「雨は大丈夫ですかね。新潟は降ってましたよ」と言ったのだが、まさか降らないでしょという気持ちがボクの心中にはあった。

ところが、日本海からの強い北風に雨雲が乗って、谷川岳まで移動してきたのである。これがよくある谷川岳の急変だ。

西黒尾根はアルファベットの「A」の頂点にあるような稜線をひたすら登るルートだ。過去2回の登山時には視界の左右に絶景が広がっていたのだが、この日は中腹から厚い雲に覆われてなにも見えない。

もっとも同行した登山仲間のうちふたりは「高所恐怖症なので、見えないほうがいいや」ととてもポジティブな発想をしてくれたのだが…。谷底から吹き上げる風に霧が舞い上がって、見たこともないような情景を作り上げている。そんななかをひたすら登る。

そそくさと写真撮影した山頂トマの耳

■なんとか全員が登頂

登山時の当然の装備として全員が雨具を携行していたので、それが救いだったのは言うまでもない。雨具は上下合わせると数万円と値が張るし、意外と重くてかさばるので「使う可能性がないのに持っていくのはイヤだな」なんてシロート的考えをしがちだが、天候の急変は想定すべきで、やはり「登山の鉄則」はしっかりと守らなければならないことを痛感した。

ゴアテックス素材の雨具をこの日のために購入した同行者もいた。内側にこもるムレや汗は排出し、外の雨水はシャットアウトするという素材だけに、「快適さが全然違う。やっぱり値段も高価なだけに機能もスゴい!」と純粋に驚いていた。

頂上までは滑りやすい岩場に苦戦しながらもなんとか全員が登頂。ただし風雨で余裕が持てず補給食を口にしなかったため、頂上付近でエネルギーが切れかかっていた。あまりの悪天候のため記念写真もままならず、満員状態の山小屋休憩室へ。

「標高2000mの冷たい空気の中でお湯を沸かしてカップ麺を食べる」というシーンを思い描いてきたが、そんな状況ではなかった。予備のために持ってきたおにぎりなどを口にして体を休めているうちに、それでも次第にパワーがよみがえってくる。これならなんとか下山もこなせそうだと、ここでようやく安心した。

下山時はウソのように天候が回復した

かくして下りは天候も回復し、いつもよりも苦戦することなく下山。おそらくこれまで経験した登山よりも登りが過酷で、それに比べると下りになって心にゆとりが持てたのだと思う。いつもは「無事に下れるかな」という不安が先走って頂上でゆっくりと時間を取らなかったという失敗の要因もある。

今回は体力を回復させるために体が落ち着くところでゆっくりと昼食を取ったこと、そして仲間と会話をしながら過ごせたことがよかったのかも。おそらく単独だったら体を休ませることなく下山を急いで、どこかでミスをしたはずだ。

谷川岳の一ノ倉沢も紅葉が見ごろだった

無事に下山したあとはいつものように水上温泉に宿を取り、まずは露天風呂で疲れをいやした。本当に生き返った心地がした。そして午後5時半にはみんなで夕食。ボク自身のことだが、8月の手術前後は多くの不安もあったが、この日を夢描いて勇気をふりしぼり、痛みに耐えてきた。

初級者レベルのささいな谷川岳登山だが、健康で生活していられることの素晴らしさを再確認。この地上でしっかりと生きているんだということさえ心に刻まれた。
《山口和幸》

編集部おすすめの記事

page top