派手なスポーツイベントを年に一回開催するだけでなく、欧州自転車文化が市民に浸透しつつあるようだ。さいたま市の職員はこう語っている。
「公民館などでの地域住民への説明会で、お年寄りも“クリテリウム”とよどみなく発音できて、それがおおよそどんなレースなのか分かっている。批判的なご意見であったとしても、クリテリウムの意味はきちんと理解している。それだけ浸透しているのかと思うとスゴいことなんだと」
市街地に短い周回コースを設定し、そこを何周もする形式のロードレースがクリテリウムだ。サーカスのような興行っぽい雰囲気があって、選手が目の前を何回も通過していくのをたっぷりと見ることができるのが魅力。距離の短いレースだけにハイスピードとなり、大集団が巻き起こす一陣の風を体感することもできる。また選手と観客の距離が近いのもレースの特徴で、レース前後に選手と接する機会もそれなりにある。
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レース後に観客とタッチする新城幸也
だから厳密に言えばツール・ド・フランスそのものがさいたまで開催されるということではない。重要なことはツール・ド・フランスのエッセンスが持ち込まれるということだ。シャンゼリゼの表彰台に登壇した世界のトップスターがそのままの姿で来日し、駅至近の特設サーキットを疾駆するだけで醍醐味は十分。
コースの進行方向を示すサインボードなどは実際のツール・ド・フランスで使用したものがそのまま持ち込まれる。日本にいながらにして世界最大の自転車レースの舞台設定が目撃できるのだ。
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サインボードもホンモノが届く
そしてもはやスポーツイベントにとどまらない。欧州の歴史に育まれたツール・ド・フランスは明るく健康的なライフスタイルのあり方を考えるきっかけになる。
子どもたちが食文化を通じて外国への興味・関心を高めることを目的として、さいたま市内の市立小中学校、特別支援学校(全162校)でフランスの食文化を感じる学校給食の提供を実施している。10月17日には清水勇人市長がさいたま市大宮区の三橋小学校を訪問し、こどもたちと一緒にクリテリウム開催記念給食を食べながら、フランスの食文化やレースのことを話し合ったという。
2016年からの試みとしてさいたま市内の商店街と連携。スタンプラリーやフランス関連の食事メニュー、4賞ジャージカラーを装飾したコラボカフェなどを展開した。さらには自転車置き場が登場するなど市民生活に変化を与え続けている。