そこで自転車活用推進研究会(自活研)の2016年度第2回例会、「バルセロナにおける総合的な都市交通戦略~歩行者・公共交通・自転車を重ねた交通まちづくり~」に参加して知見を広めることに。今回はその内容を紹介しましょう。
例会の講師を務めたのは、小美野智紀さんをはじめとする都市計画や公共交通のエキスパートのみなさんで、なんと酒の席で話が盛り上がり、全員自腹を切ってスペインのバルセロナを訪れたというから驚きです。
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幹線道路では道路中央部に自転車通行空間を設け、クルマによる巻き込み事故を未然に防ぐ
ちなみにバルセロナはカタルーニャ州の州都(人口160.2万人 ※福岡市と同等)。1992年にオリンピックが催されたことで、日本でも広くその名を知られるようになりました。といっても平成生まれの人はピンと来ないはず。強豪サッカーチームとして知られる、FCバルセロナの本拠といえばわかるでしょうか。
1970年代半ばまでのスペイン独裁政治の時代、かつて共和国政府側についていた彼の地は冷遇され、インフラの整備も抑制されました。ただ、それは一方で住民の自治意識を高め、統一した計画に基づく再開発を可能とする土壌を育みました。
それは交通の分野では鉄道(地下鉄やLRTを含む)やバスといった公共交通の、統合された整備として結実。運賃は交通手段の垣根を取り払ったゾーン制が採用され、他の交通手段への乗り換えに伴う無駄な出費は生じません。乗継ぎ割引があるとはいえ、同じ地下鉄でも東京メトロと都営地下鉄とでは別の運賃となる東京とは大違いです。
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24台の再配置車両が巡回し、特定のステーションに偏らないよう自転車を移動する
また、需要を満たすため無秩序に広がっていた路線バス網は水平(Horizontal)と垂直(Vertical)を基本に再編成され、初めて足を踏み入れた旅行者でも迷わず目的地にたどり着けるようになりました。さらにバスレーンは専用としてスムーズな運行を確保。
そして、旧市街の細街路はクルマの流入を制限するため車道の幅員を狭め、車止めが置かれることになりました。日本ならドライバーから文句が出てもおかしくないところですが、バルセロナに限らずヨーロッパ各地で、クルマより歩行者を優先する意識が根づいています。
それは自転車においても同様です。バルセロナにおける自転車の交通分担率は1.2%と低いものですが、2007年に市民限定の自転車シェアリングシステム「Bicing」(ステーション420カ所、自転車台数6000台)をパリの「ヴェリブ」(ステーション1800カ所、自転車台数2万3600台)に先駆けて導入。2018年に分担率を2.5%とする目標を掲げ、さまざま施策を試みています。
地下鉄駅の周辺地図にはステーションを明示。ホームの案内にもステーションの方向を示して両者を併用する利用者に配慮しています。さらに地下駐車場の一部をステーションが占有したり駐車場の収益を「Bicing」の運営に充てたり、あるいは幹線道路に自転車通行空間を設けたりと自転車向けの施策でもクルマを“いじめ”、その利便を拡大しています。
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メンテナンス工場も設置され、安全で快適なコミュニティサイクルを支えている
ところで公共交通といえば、鉄道や路線バスといった定まったルートを定時に運行するものが一般的。個々の利用者の要望に応じて運行されるタクシーまで含めるかどうかは難しいところですが、過疎地域のバスにはタクシー同様の形態で運行されるものもあり、公共交通の概念をもっと広げてもいいように思います。
これまで意識することはありませんでしたがコミュニティサイクルも公共交通の一翼を担っているのは確かで、だからこそバルセロナでは、その整備と普及に力を注いでいるのでしょう。
多様な選択肢を提供して人々の移動をサポートする彼の地の取り組みは、交通弱者への配慮にとどまらず、移動(mobility)を人々の大切な権利として認め、それを最大限に保証する姿勢に貫かれたものといえます。