【小さな山旅】「ほんとの空」が見える山…(福島県・薬師岳) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】「ほんとの空」が見える山…(福島県・薬師岳)

オピニオン コラム
「この上の空がほんとの空です」高村光太郎の智恵子抄にある「あどけない話」の一節がもとになったこの言葉。その意味を知ると感慨深いものがある。
  • 「この上の空がほんとの空です」高村光太郎の智恵子抄にある「あどけない話」の一節がもとになったこの言葉。その意味を知ると感慨深いものがある。
  • 安達太良高原スキー場。朝8時に到着したが、けっこうな人出。このあと更に混雑する。
  • 紅葉する木々の葉を見ながら、のんびり登山スタート。
  • 朝の時点で、ロープウェーは強風で運行していなかった。仕方なく、スキー場内を歩く。
  • この日は紅葉が本当に素晴らしかった。
  • まっ黄っ黄に染まった葉。
  • 色鮮やか!おみごと!
  • 五葉松平。スタートしてから一時間くらいで到着。
福島県中部の二本松市にそびえる安達太良山(標高1700m)は、日本百名山、新日本百名山、花の百名山、うつくしま百名山に選定されている名山である。

10月中旬の連休最終日。赤、黄、緑と色鮮やかに染まった安達太良山の上に、「ほんとの空」が広がった。

◆薬師岳から安達太良山を眺める

安達太良高原スキー場を登り、まずは薬師岳を目指す。1時間ほど歩いて、五葉松平へ。更に歩いて、薬師岳に到着する。

薬師岳からの眺めが、絶景であった。澄み切った秋の空には、安達太良の山々が広がりを見せていた。山の中腹には紅葉した木々の葉が絨毯のように敷かれ、その上に緑の針葉樹が色濃く生えている。更にその上は、土色の森林限界を超えた絶対的で圧倒的な眺め。安達太良山の山頂は本当に乳首のように突起しており、そこから茶色の稜線が沼ノ平を通り越して鉄山まで延びている。

その鮮やかで変化に富んだ山の色と、起伏に富んだ山々の形。これを絶景と言わずして、何と表しようか。いや、言葉で表現するなどおこがましい! このような風景は、言葉ではなく、心で感じればいいのだ!

などと、秋の山の風景にすっかり魅了されて心の中でポエムを読んでいたところ、ポエムが書かれた記念碑を見つけた。多くの登山者たちは、こぞってこの碑と一緒に写真を撮っている。

◆高村光太郎の「あどけない話」

「この上の空がほんとの空です」

何やら素敵な文言である。その碑の上に、「ほんとの空」と呼ばれるものがあるのかと思い、眺めてみると山頂の乳首と澄んだ空があった。なるほど、綺麗な空である。

しかし、「ほんとの空」とは何ぞや? 実を言うと、いつも通りろくな下調べをせずに安達太良山にやってきたので、この言葉の意味がまるでわからなかった。下山してからも、レストハウスなどに貼られたポスターにやたらとこの言葉が書かれている。

だが、この言葉が何を意味するかまでは書かれていない。下山後は、スマートフォンで意味を調べる元気すらないほどに疲弊しきっていたので、「ほんとの空」の意味を知らぬまま、家路を辿ってしまった。

それから一週間後、この記事を書く段階になって、ようやくその意味を知る。果たしてその言葉のでどころは、詩人・高村光太郎の「智恵子抄」に書かれた「あどけない話」という詩にあった。

智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
(中略)
阿多多羅の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。

せ、せつない……。そういえば、智恵子抄を未だ読んだことがなかったと思い、慌てて本棚から文庫本を引っ張り出して読み始めた。

これは、智恵子抄すら読んだことのない、
あどけない中年文士の話である。
《久米成佳》

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