▲競技としての水上バイク(日本ジェットスキー協会公式HP)
“ジェットスキーレースの代名詞でもあるクローズドコースレースは、水面にブイで設定されたコースを周回しスピードと旋回技術を競い着順によって順位が決められるスプリントレースです。“
▲動画を見ればよく分かる…小原選手のまとめ動画。
■才能だけで戦えた。自身の可能性に気づいた初戦。
---:この競技をはじめたきっかけを教えてください。
小原聡将選手(以下、敬称略):両親が2人レーサーだったので、その背中を見て、というかやってみたいと思ったのがきっかけです。
水上バイクを始める前には、3歳の頃から始めているレーシングカートとか、4歳の頃から始めているモトクトスとか、ATVという4輪のバギーとかのレースに出場したりとか、そういったモータースポーツはずっとやっていたりしたので、流れで水上バイクをやってみたいと思ったのが自然でした。それらのやってきたスポーツの中では、水上バイクが楽しかったし、かつ、最も向いているのかな、と思ったというのもありました。
---:どういったところが向いていると?
小原:水上バイク自体も日本だと免許制度があり、15歳と9か月を越えないと免許が取れない。それまではモトクロスやレーシングカートのように、コースで練習とかできないので、はじめてレースに出たのも12歳のとき、アメリカの世界選手権で、ほとんど初心者の状態で水上バイクに乗ったのです。練習走行のような形で一度走行して、そこで主催者の方に認めていただいてレースに参加しました。
ジュニアの10歳~12歳のクラスのレースだったのですが、そのレースで11位という結果を残せて、初心者同然だったのにも関わらず、「もう少しでトップ10に入れた」という手ごたえを感じることができたのです。1位を目指して頑張りたいな、という気持ちが自然と湧き上がってきました。なんというか、モトクロスやレーシングカートをやっていた頃にはなかった様なワクワク感。もう少し頑張ればいけたんじゃないか…?というような。
---:才能だけでいけちゃったので、努力すればもっといけるんじゃないか、というようなことですね。
小原:いや、まぁ、そう言われてしまうと…(笑)
■海を走る「非日常」
---:水上バイクの魅力とは。
小原:やはり水の上を走るというだけあって、非日常の世界というか…。陸だと車が走っているし、そもそも普通に歩けちゃうし。泳ぐなどの行為はもちろんありますけれども、その上を「走って、スピードを出して、風を浴びて…。」という行為はなかなか普段では経験できない。
陸から見る海の世界、海から見る陸の世界というのはやはりかなり違う部分があるので、それを見ていくのも本当に面白いです。また、なんといっても自分はスピードが出るものが好きで、水上バイク自体が体感速度が出ているスピードの倍になると言われていますが、自分のマシンが100km/h出ているとすると、それを200km/hのスピードと体感することができる。これも、また「非日常」だと感じています。
それを聞くと魅力的に思えると同時に危なくないのかな、と思ってしまうのですが…。
小原:そうですね。(笑)やはりレースとかでも車などのように守ってくれるものがないので、もう身に着けているものもウェットスーツとライフジャケット、あとは一応脊髄パッドという脊髄を守るプロテクターをつけているのですけれども、それくらいですし…。危険性はないこともないです。
ただ、いままで自分が出場してきたレースでも、単独でのスピンだったり、水面に落とされたときでも悪くて「打撲」程度だったりします。陸の上だと骨折などのような怪我になったりするので…。
「水の上」ですと、落ちたときの感覚はコンクリートのように感じるのですけれども、結果的には怪我をしなかったりします。他の選手などを見ていても生活に関わるような大きな怪我をしている選手というのは多くないので、他のスポーツにくらべて危険性というのは大きく変わることはないのかな、と思っています。
---:ぶつかったりというのは…?
小原:ありますね。マシン同士がぶつかったりです。基本的にはサイドバイサイドと、横でぶつかる感じが一番安全なのですが、Tのような形でぶつかってしまうと大きな事故につながる可能性があります。ただ、自分がレースをしていると、やはり勝ちたいという思いがあるので、相手の方にマシンを寄せたりしてマシンがあたっちゃうだとか、そういったことはありますね。
---:ぶつかることは反則ではない?
小原:反則ではないですね。ただ、あきらかに暴走しているような走り方をしている選手は別です。基本的にはレースアクシデントという形で認められているような状態です。
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■賞金と遠征費用のバランス。常に黒字になるように計算して海外へ
---:海外によく行かれると伺いました。
小原:そうですね。日本では免許制度があり、なかなか乗れないというのもあって、海外に行けるだけ行って、経験を積もうとして動いていました。12歳で初めて出場したアメリカのレースのあと、13歳には1人でオーストラリアに行かされて…。13歳で1人に行かされたんですよ?(笑)中1の冬休みに父に、「オーストラリアに知り合いができた。そこでなら水上バイクの練習ができる。行って来い。」という感じで通告されて…。(笑)
当時は英語も話せないし、そういう面ですごく不安があったんですよ。ただ、それで実際に行ってみて、水上バイクに乗って、いっぱい練習して、「じゃあ、実際にレースに出てみなよ」という風に周りからも言われて実際にオーストラリアのレースに出てみたり。
他にも、14歳くらいの時に7か月くらいドバイに滞在してUAEのレースに参戦したり、それからもタイ、マレーシア、フィリピンと、東南アジア諸国からアメリカまでのシリーズ戦を巡ったり…。そんな生活を経験しました。
---:年何回くらい海外の大会に出場している?
小原: 年に8回ある全日本選手権、アメリカの世界選手権とタイで行なわれる選手権には出場が決まっています。それにプラスしてタイ、マレーシアなどのレースに参加したりしているので、今年だと15レース位には出場しています。多い年は20レースくらいには出場していますね。
---:海外には在住という形ではなかったのでしょうか。
小原:そうですね。ただ、中学二年生の時にはドバイの向こうの家庭に半年くらいホームステイしていました。
---:英語もペラペラですね。
小原:まぁ、日常会話くらいはなんとか…。(笑)
---:海外に行く費用の捻出はどうされているのですか。
小原:自分の場合は最初は両親からお金をだしてもらってやっていましたが、今は海外のレースに行ってお金を稼いで、そのお金を使ってレース活動を続けているような感じです。「黒字になれそうだったら行く」といった感じで自分で計算して、各国のレースに出場する形をとっています。
ただ、それだけだとやはり足りない部分があるので、アルバイトをして補ったり…ということをしていますね。少なくともエントリー代などは自分で稼いで出すようにしています。海外に行く交通費なども、賞金部分をあてるようにしています。レース活動を続けていくうえで、赤字にならないように考えて、続けてやっているような形になります。
---:海外のレースの賞金は大きいのですか。
小原:国によってまちまちです。そこまで大きい金額というのはあまりないのですが…。一番賞金額が大きいのはタイ世界選手権で、優勝すると350万円くらいになります。ただ、350万円じゃマシン1台もつくれないので…。(笑)
自分がいつも出ているUAEのシリーズ戦は、優勝しても60~70万、タイの国内戦だと40~50万円だったり。なので、1つのクラスだと足りないので、色々なクラスに出場してそれぞれで表彰台を狙っていく、という感じです。1つのクラスに絞った方が勝てるとは思うのですけれども、それだと稼げる金額が小さくなってしまうので、できるだけ多くのレースに出て集中力を切らさないで、という風に戦っています。
---:試合の階級は何クラスあるのでしょうか?
小原:国によって違いますが、タイ、マレーシアでは7~8つ、アメリカだと50クラスくらいあります。クラスの少ない国では、その分1つのクラスのレースの数を増やして優勝を決めるという感じになっています。例えば、優勝を決めるのにタイだと4つのレースをするのに、アメリカだと2つしかレースがない、といったような。
---:ひとつの大会で何クラスくらい出場するのですか?
小原:基本的には3クラスです。そのくらいがギリギリ体力、集中力をもたせたまま走り切ることができるクラスの数かな、と経験上わかってきたので。
---:当然優勝を狙いながらも、勝利できない時もあると思います。そうした場合、順位は何位くらいなのですか。
小原:基本的に自分が海外レースに出るとき、海外の選手たちは自分の国から自分の乗り慣れたマシンをもってきたりするのですが、自分の場合は自分のマシンを日本から持ってこれるだけの資金もないので、行ったその場でスポンサーを見つけるしかありません。「自分に乗ってほしい」と言ってくれるスポンサーを見つけて、そのスポンサーのマシンでレースをする、といった形です。
その結果、「これじゃちょっと勝つのは厳しいな」と思ってしまうマシンもあれば、「あ、これは勝てる」といったマシンにあたることもあります。その乗ったマシンによって成績が変わっちゃったりすることもあるので…。ただ、基本的に目指すのは優勝です。
「これじゃちょっと勝つのは厳しいな」と思っていたマシンでも優勝できたり、「これなら勝てる」といったマシンでも2位だったり3位になってしまったりする時もあります。賞金が出るのが1位~3位だったり1位~5位だったりするので、そこに入るのはもうマストで、そこからどこまで順位を伸ばせるかは自分の努力次第。やはり2位狙いだったり3位狙いだったりするわけではないので、優勝を常に狙ってレースに参加しています。
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■学業、さらにはアルバイトとの両立も。
---:今は大学に在籍されているそうですが、普段はどんな生活パターンで動いているのですか。
小原:そうですね、基本的には学業優先というスタイルで、それにあわせて水上バイクの練習などに取り組んでいます。その両立をしなければいけないとずっと言われてきたので…。
週に5日は大学に通って、残りの2日は水上バイクを練習する形です。ただ、他にも週2~3はアルバイトをしています。学校がある日は基本的に朝の2限から5限とか6限まで授業を受けているので、ほとんど学校、という形になってしまっている部分もあります。
---:理系ですものね。
小原:1回授業を休んだだけでも後が大変になってしまうので、真面目に授業を受けています。
■水上バイクとともにある人生。今後の展望。
---:今後の競技活動というのは?
小原:自分自身水上バイクをずっとやってきて、様々なスポーツを経験した中でもやはり一番好きな競技だな、と思ったので、大学を卒業した後でもこの競技に関わっていきていきたいな、と考えています。
例えば自分の父は水上バイクのショップを開いてマシンのチューニング、整備をしているのですが、そういったショップを経営してみたいというのもあるし、色々と考えていますね。
ただ、どんな道を選んでも水上バイクに関わって生きたいという思いがあります。自分の人生の中で、これなしでは考えられないという感じです。レーサーとして何かしていくことも、もちろんあると思っています。海外だとジュニアの育成といった目的でスクールを開催しているプロもいるので、そういうのもやってみたいと思っています。
---:プロ選手一本というわけではないのですね。
小原:そうですね、やはりマイナースポーツという点もあってどうしても水上バイク一本では厳しい世界です。もちろん、プロ一本でやっていきれば自分も嬉しいのですけれども、なかなかそういうわけにもいかないので。(笑)
---:他の選手もそういった形で動いているのですか。
小原:そうですね。やはり仕事をしつつ、それとかけもちでレーサーをしていたりという人が多いです。
---:日本ではどういったところで水上バイクを練習することができるのですか。
小原:一定の範囲内で水の上であればどこでも乗っていいというように法律はなっているのですが、ただ免許が必要です。海外では何歳からでも乗ってよく、専門のレース会場を国がつくったり、そういった場所に選手たちが集って練習していたりもするので、環境としては羨ましいな、と思ったりすることももちろんあります。
練習に関しては、自分は利根川で、いつも一緒に練習をしてくださっている4~5人のプロのライダーの方がいるので、毎週そこに通っています。
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---:国内ではどのくらい水上バイクが使われていますか。
小原:レース以外だと水上のパトロールだったり、サーフィンの大会などで選手になにかあったときにすぐに助けにいくことができるように水上バイクに乗って待機している選手が存在しています。また、この間の東日本大震災の際でも活躍されていたように、震災の際に他の乗り物ではいくことのできない場所に水上バイクを使ってレスキュー活動をしたり、という形で使われていたりします。
---:認知度の点で苦労したことなどは?
小原:苦労したというよりも、悔しいな、と思ったことは結構あります。イメージしにくい競技なので、バスケやサッカーで優勝すると「おぉー」となったりするのですが、水上バイクで優勝したと言っても、「ん?」と言ったような。(笑)
自分は高校生のときも全日本選手権や、海外の大会などでも優勝していたりしたのですが、表彰することがなかったり。その点部活動だったり、部活動ではなくとも水泳だったり、ある程度認知されているものだと全校生徒の前で表彰されたりしていて。自分はどんなにいい成績を残したとしても表彰などで評価されることがなかったので、そこに悔しさを感じることはありました。
あとは、スポンサー獲得ですね。認知が低いのでスポンサーがなかなかつきにくい状況にあります。今自分についてくださっているスポンサーの方もやはり水上バイクに関係するような会社ばかりで、他の会社はなかなか難しいということで苦労することはあります。オリンピック競技などになれば色々と変わってくるとは思うのですが…。
---:今後の目標は。
小原:大学3年生になると少し学業の制限が緩くなるのでレースに専念して、世界チャンピオンを目指して頑張っていきたいと思っています!
▲編集後記
---:学校では何を学んでいるのですか?
小原:工学部の機械サイエンス学科というところに行っているのですけれども、主に機械、ネジなどの機械にまつわることを学んでいますね。
---:やはり実験中心?
小原:そうですね、座学的なところよりも実際に機械に触ったりだとか、実験も沢山やっています。
---:課題・レポートも沢山ですね。
小原:課題が毎回出されるような授業が沢山あるので、家に帰っても課題ばっかりやっているような状況です。「提出期限までに終わらないよ」という感じでひーひー言っています。(笑)
---:単位とれているんですか?
小原:一応取ってます。(笑)ちゃんとできてあたりまえみたいな期待が周りからもあったりするので、「期待を裏切りたくない」という思いで、それこそ死ぬ気で頑張っています。(笑)
---:その生活でバイトなどよくやれますね!
小原:色々なことばかりでほとんど寝られなかった時期もあって、本当に倒れそうな時期があったんです(笑)そういうこともあって、効率よくというか、色々考えて動くようになりました。
---:バイトはなにをしているんですか?
小原:ピザの配達やってます(笑)
---:そこでも乗っているんですね(笑)
小原選手を応援する!