ランナーズ・ハイにクライマーズ・ハイ。ランナーやクライマーでなくとも、その言葉を一度くらいは聞いたことがあるだろう。
これらは、いずれも脳内で機能する神経伝達物質エンドルフィンが作用して起こる症状である(らしい)。脳内麻薬とも呼ばれ、この物質が脳内を巡ると幸福感を味わえる(らしい)。登山に関していえば、その作用により恐怖感が麻痺してしまうという。
◆勝手に命名・クサリバーズ・ハイ。
今回の湯沢挟~篭岩ハイクで、筆者は新しい「ハイ」があることを知った。それは、クサリバーズ・ハイである(勝手に命名)。鎖場を登るのが、とにかく楽しい。笑ってしまうくらいに、楽しい。そんな症状である。
かつての奥久慈男体山を登った際にも似たような症状が現れたが、今回の湯沢挟ではその症状がより顕著に現れた。
湯沢挟の鎖場を登りながら、筆者は確かに笑っていた。急な山道を登りながら、声を出して笑っていたのだ。
断っておくが、前を歩く素敵な山ガールの後ろ姿を見て、不埒の想像を膨らませた為ではない。確かにそれも新鮮な光景で、心ときめく時間ではあった。気付かぬ内に嫌らしい笑みを浮かべてしまっていたかもしれないが、それはまた別の話である。
とにかく、急勾配の道を登るのが楽しいのだ。手をかける場所は限られている。足を置く場所も同様だ。次はここに手をかけて、その次はここに足を置いて。腕の力を使って身体を引き上げ、足の力で登りきる。そのような計算が登るのに必要になる。これが、笑ってしまうくらいに楽しい行為なのである。
鎖、鎖、鎖。次から次へとやってくる鎖場。その鎖を見るたびに、筆者はふふふと口元を緩ませ、登り始めて、あははと笑う。
同行者の山本さんとKさんは、時折後ろを振り返り、笑いながら鎖場を登る筆者を心配そうな顔で見つめていた。
「気でも違えてしまったのではないか?」
二人はきっとそのように思っていたのだろう。
いやいや、違うんですよ。鎖場を登るのが面白くて、たまらなかっただけなんです。と、この場を借りて二人には釈明させて頂くとする。
そう、これこそクサリバーズ・ハイ。人に理性を失わせ、変質者と見間違えられてしまうような危険な状態である。
《久米成佳》
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