ツール・ド・フランスの難所、標高2115mのツールマレー峠を眼下にする宿泊施設に泊まった。130年の歴史を誇るピック・デュ・ミディ天文台で、針のような大岸壁のピークに建造された石造りの研究施設だ。標高はなんと2877m。
ツールマレーのベースキャンプとなるラ・モンジーの集落からテレキャビン(ロープウェイ)を2つ乗り継いでいく。ツール・ド・フランスが通る町なので下手なところに駐車しておくとレッカー移動されるので、オフィス・デュ・ツーリズムを訪ねて駐車位置を確認。「天文台の宿泊予約をしてあるのなら直接行けばいい」とのことなので、まずはテレキャビン乗り場へ。
「ニュイ・オ・ソメ=頂上の夜」という窓口があったので、ベルを押して名前を告げるとネックストラップとIDカードを渡され、たどたどしい日本語で「楽しんできてください」と言われた。かなりゾクゾクするテレキャビンで頂上に到着すると、同乗したオペレーターが「泊まるんだね」とそのまま施設管理スタッフに引き継いでくれて、磁気カードを渡される。すべてのドアが電磁ロックなので、真夜中でもそのカギで開けられるところは歩き回ってもいいみたいだ。
部屋はかつての天文学者が使用していた質素なものだというが、内装は新築のようで取り付けられたきれいな洗面器の蛇口をひねるとお湯が出る。オイルヒーターで室温を20度に調整しているようで快適。トイレとシャワーは共同だが、これもピカピカだった。
午後6時半に宿泊者が集まって、天文研究員に施設を案内してもらった。1時間半ほどゾロゾロと付いていくと最後は晩餐会場に到着。「ルパ」と言っていたので夕食というよりも晩餐だ。単独参加はボクだけだったが、かなり気にかけてくれて、足もとまでガラス張りで断崖絶壁がストーンと見下ろせる特等席が用意されていた。地元鴨肉やフォアグラ、牛や豚肉を地元の伝統的な味付けをしたものが出てきて、テーブルにハーフボトルも置かれていた。
最後はデザートとともに1/4サイズのシャンパンボトルが出てきたので、これを持ってテラスに出て楽しむんだなと思った。研究員が「午後9時10分に集合」と声をかけてくれたので、その時間にテラスに出るとちょうど夕日が沈むところだった。しばらくしてあたりは一気に暗くなり、もちろん真冬の格好をしていたけれど冷え込んできたが、天体ドームの中に案内されて観測用の望遠鏡で土星を見せてくれた。
宿泊者数は27人限定だが、予約すればだれでも泊まれる。さすが世界随一の観光大国。日本ではあり得ないスケールのおもてなし。フランスという国の底力を感じた。
《山口和幸》