どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.2

オピニオン インプレ
どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.2
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ライバルを置き去りにした“EVOの衝撃”、再び
シート角は全サイズで73.5度固定
ジオメトリ表を見ると、全フレームサイズでシート角が統一されていることが分かる。BMCお決まりの手抜きジオメトリだ。インペックは74度だったが、SLR01は73.5度。しかし最近、これは一概に “手抜き” とは言えないのかもしれない、と考え始めた。一般的なロードフレームでは、小さいサイズになってトップチューブが短くなればなるほどシート角が立ってくる。起きたシートチューブは、当然ながらトップチューブを前方に押し出す。これがとんでもない逆転現象をもたらすことがあるのだ。
例えばトップチューブ515mm・シート角75度のXSサイズと、トップチューブ520mm・シート角74度のSサイズのフレームがあるとする。トップチューブは5mm短くなっているのだが、シート角が1度起きるとトップチューブ全体を1cmほど前方に押してしまうので、ハンドルがより遠くなるのはXSサイズのほうなのだ。ここに、このモデルにおいては背の小さい人はXSサイズよりSサイズを選んだほうがいいという信じがたい現象が発生する。これが結構多くのブランドに見られることなのだ。見た目だけの水平トップチューブ長に騙されてはいけない。フレームサイズの目安とすべきは、トップチューブ長ではなく、BBを通る垂線からヘッドチューブ中心までの水平距離=リーチなのである。
トレック、スペシャライズド、ピナレロ、サーヴェロなどジオメトリ表にリーチを加え始めたブランドも多く、逆転現象が起きないように注意されて設計されているモデルが多い。が、上記のブランドの中にも、全6種類あるフレームサイズのうち小さいほうの3サイズのリーチがほぼ一緒というモデルもある (リーチが同じでもシートチューブやヘッドチューブの長さは当然違うので、意味が全くないとは言えないのだが)。
その点、全車シート角統一のSLR01なら、トップチューブ長に比例してリーチが決まる。逆転現象は起きえないのだ。フレームサイズに沿って綺麗にリーチを伸ばしていくSLR01は、これはこれで理にかなったジオメトリとも言えるのかもしれない。
ただ、元フレームビルダーの方に話を聞くと、身長が変われば当然大腿骨長も変わるので、シートアングルはフレームサイズによって細かく調整するのが理想的なのだという。前述の “リーチ逆転現象” が起こる理由は、「ただトップ長が短いと言いたいだけではないか」 とのこと。ユーザーの皆さんは激怒していいところである。
ヘッド角はさすがにインペックのように上から下まで統一はしてはいないものの、全6サイズ中4サイズ (54以上) は全て72.5度となっているし、チェーンステー長は全サイズ共通だ。おそらくフォークオフセットも共通だろう。元ビルダー氏によると、「本来はヘッド角もフレームサイズごとに調整するべき。フロントセンターが確保できているからといって、大きいサイズでヘッド角を統一してしまうと、フロントセンターとリアセンターのバランスが悪くなる。だから大きいサイズのフレームはヘッドを立ててフロントセンターを詰めてやる必要がある」 とのこと。
これらのことから考えると、やはり 「BMCのジオメトリは煮詰めが足りない」 などと言われても仕方がないという印象を受ける。しかし、そこにはフレーム接合部の金型を少なくできるというコスト上のメリットがある。開発費として投入したコストは相当のものだろうし、製造費で工夫しないことには、この性能のフレームが40万強では買えないだろう。コストダウンは全て悪のように言われるが、ユーザーが享受できるものも大きいのだ。少なくとも、最小サイズではポジション出しに苦労することはなく、操縦性にも破綻はない。それに、レーシングバイクらしくヘッドチューブが短く設定されていることには好感が持てる (インペックはこの点がダメだった)。
トルクが上乗されるような走りが最大の美点
さて、ようやくインプレッションに入る。初期段階で形状を指定しないまま、専用ソフトによって34000通りもの演算を行った結果だと聞くと、なにやらコンピューター任せで淡々と作られたフレームのような印象を受けるかもしれない。筆者も最初は、理詰めによって構築された正確無比な走りを想像していた。
しかし、SLR01は温かかった。軽いだけ軽くてヒラヒラフワフワしているのにヘッドとフォークがとにかく硬いという、最近のハイエンドフレームにありがちな冷徹な高性能バイクでは全くなかったのだ。剛性値は前作比で25%もアップしているとのことだが、剛性感の表面はソフト。しかしバネ感はさほど強くない。硬いのに硬く感じさせない、不思議な剛性感である。高剛性化に走ったとはいえ、とにかくガチガチにしてフレームを動かさないという古典的な手法とは全く違う。「軽くて硬い」 のに、「軽くて硬いだけ」 のスカな感じに堕してはいないのだ。
驚きなのは、トルクを薄く上乗せしてくれているような走りの軽さを持ち合わせていることだ。いきなり結論めいたことを言ってしまうと、これは新型SLR最大の美点である。平地巡航でもヒルクライムでも、とにかく新型SLR01は走りが軽いのだ。その美点が唯一薄れてしまうのが、体重を叩き付けるように踏み込むようなシーン。ガチャ踏みしてしまうと、SLR01の美点は消える。大トルクをかけたときに感動的な爆発力を持つタイプではないのだ (とはいえ、いかなるときも一定レベル以上の高い動力伝達率は維持してくれるのだが)。また、ゼロスタートの瞬間に吹け上がるタイプでもない。新型SLR01は、一呼吸おいた後に羽のように軽やかな加速が本格化するというスピードの上げ方をする。
しかし、ホイールをR-SYSにしたとたんに全域で反応が鋭くなって再び驚いた。ゼロスタートのキレが鋭くなり、加速後半の頭打ち感が消える。トルクを叩き付けても “SLR01最大の美点” が薄まりにくくなるのだ。嫌な硬さが全くないのにここまでよく走るとは、驚きを通り越して感動的ですらある。操る楽しさとかしなりとの一体感がもたらす感動ではなく、純粋に 「運動性能の高さ」 と 「ペダリングフィールの角の丸さ」 との高バランスに感動するのである。「よくぞここまで仕上げましたね」 と技術者の仕事に感心させられるバイクに出会うことはままあるが、走りで感動させてくれるフレームはほとんどない。新型SLR01の走りは感動的だ。超一流だ。超絶の完成度でライバルを置き去りにしたスーパーシックスEVOの衝撃再び、である。
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これからは、このSLR01が“追われる者”になる
新旧比較で分かった「BMC旗艦の世代交代」
振動の減衰の仕方にも特徴がみられる。振動の首根っこを締め上げて凹凸を征服していくドグマのようなフレームとも、全てのギャップを分厚いヴェールで包み込んでしまうコンフォートバイクらとも、なんともいえない余韻を残すスチール勢とも違う。新型SLR01は、ろうそくの火を吹き消すように、フッと衝撃を消してしまうのだ。
これらの印象の違いはどこから来るのか。おそらく、振動の第一波の振幅の大きさと、第二波以降の振幅の大きさ (衝撃吸収能力とその後の減衰能力とのバランス) の差ではないかと思う。SLR01は、吸収能力はコンフォートバイクよりも控えめだが、減衰能力が非常に高いため、小さな衝撃がトンと伝わってきたのち、それが魔法のようにフッと消えるという印象になるのだ。衝撃にしっかりと芯を残して路面の状況を伝えつつ、第二波以降を素早く消滅させる。理想的な振動減衰特性である。
振動の吸収・減衰特性だけでなく、脚への当たりが非常にマイルドであることも特徴だ。前述したように、加速力やスプリント性能などはトップクラスではあるがトップでは決してない。しかし、脚への当たりから想像するより力強く加速してくれる。SLT01、SLC01、インペック、旧SLR01、そして新型SLR01。歴代BMCのトップモデルに共通するものは、この極上のペダリングフィールである。ただ鉛直方向の柔軟性が高いというだけでなく、人間の生理に逆らうことのない剛性感に仕立てられているのだ。超高負荷域での炸裂感が若干薄まることを承知で、この剛性バランスを採ったのだろう。これこそがBMCというブランドが重視してきた性能であり、この新型SLR01も歴代BMCトップモデルの味をしっかりと受け継いでいるといえる。新SLR01の誕生をもって、BMCの旗艦はステージレーサーとして理想的な剛性バランスを有するに至っている。
このあたりで、旧型との違いについても触れておきたい。旧SLR01のオーナーにサイズ47を借りて30分ほど乗らせてもらうことができたのだ。同条件で新旧を比較すると分かるが、これが全くの別物だった。旧SLR01が持っていた生き物のような身のこなし、シルクのようなペダリングフィール、負圧エリアに吸い込まれるような加速感、しなりと戻りの繰り返しが産む一体感あるヒルクライム、これらは綺麗さっぱり消えている。ただ、高負荷時の運動性能や振動減衰能力、スタビリティには歴然の差がある。ルックが481→585で激変したように、BMCの旗艦モデルも、伝統の味を受け継ぎつつも方向性を明確に変化させているのである。
納車は来年の春
この仕事を本格的に始めてからは、1~2年ごとにトップレンジのフレームを買う覚悟でいた。常に 「新しい走り」 に触れて脚の感覚をアップデートさせておきたいからだ。しかし2011年に695を買って以来、食指が動かされるものに出会えなかった (695の走りがなかなか古くならないという事情もあったのだが)。しかしこのSLR01には、「これからの走り」 が詰まっている。新型バイクについてあーだこーだと言う仕事をしている人間にとって、これは所有してきっちりと乗っておくべきバイクではないか、そう思わされたのだ。
オーナーになるにあたって気にならない部分がないわけではない。複雑な形状のシートクランプ部の耐久性 (シートクランプ部のクラックはBMCトップモデルの持病である)。トップチューブの薄さ (縦方向には簡単に凹む。ワンシーズンで乗り換えるプロならこれでいいのだろうが、一般ユーザーにとってはギリギリの設計だろう)。スマートとは言えないワイヤーの取り回し (なぜ電動式/機械式共通のフレームは変速ケーブルの入り口をダウンチューブ上側の一カ所にまとめたがるのだろう?)。単調でいかにも機材的な見た目 (これは好みの問題だ)。
しかし。カーボンフレームがついに次のフェーズに移行したなどと軽々しく口にしたくはないが、ACEテクノロジーの効果が現実世界の美点として結実していることは認めざるを得ない。ディスクブレーキがなんだ。ダイレクトマウントがなんだ。エアロがなんだ。大切なのは作り方だ。そんなことを再認識させてくれるフレームである。SLR01はスーパーシックスEVOの2年に渡る独り逃げに完全に追い付いている。同条件で比較できていないので確かなことは言えないが、とっくに追い越しているかもしれない。そうとなれば今度は、世界中が新型SLR01の後を追いかけ始めるはずだ。
そんなことを考えつつ一週間ほど悩んでいたのだが、結局注文してしまった。かつて、同じようにインプレ後に我慢ならなくなって買ってしまったルック・585。そのときの動機の主成分は 「こういうフレームには今のうちに乗っておかねば」 という焦りだった。今回も、「これからはこういうフレームに乗らねば」 という義務感があるにはある。しかし、大きいのはもっと純粋な感情だ (義務感だけで選ぶならディスクでエアロなフレームに乗るべきなのだ)。新規格ブレーキやらエアロやらで混沌とする世の中に、素の規格を纏って現れ、超一流の走りで魅了してくれた新生SLR01が、僕には今、一番輝いて見えるのだ。
納車は来年の春。気長に待つとしよう。あの感動の走りを反芻しながら。
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