【アーカイブ2009年】まるで小さなロケット…キャノンデール スーパーシックス・アルティメイト 安井行生の徹底インプレ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ2009年】まるで小さなロケット…キャノンデール スーパーシックス・アルティメイト 安井行生の徹底インプレ

オピニオン インプレ
安井行生のロードバイク徹底インプレッション




世界最軽量クラスの市販完成車 キャノンデールの頂点に君臨するスーパーバイク




スラム・レッド、ZIPP ZEDTECH3などの軽量パーツを惜しげもなく使い、メーカーから市販される完成車にも関わらず5.5kgというアウトローな重量を実現したスーパーシックス・アルティメイト。驚きの140万円をプライスタグに掲げるこの超高級車の実態を、300kmを全力ライドした安井行生が斬る。



(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)



「アルティメイトの試乗車がご用意できました。サイズは50。まだ誰も乗っておりません。いかがでしょうか。」



ペダルレスの実測、5.5kg。値段は堂々の140万円。300km以上は確実に走りますよ、と宣言したにも関わらず、キャノンデール・ジャパンはこれだけ豪快なスペックを持つバイクをあっさりと貸してくれるらしい。担当者氏の手によって直接編集部へと届けられたスーパーシックス・アルティメイトは、なるほど羽のようにふわりと軽い。



ロードコンポ最軽量のスラム・レッドを筆頭に、ホイールにZIPP ZEDTECH 3、ZIPPのカーボンハンドル、クランクもZIPPカーボン (試乗車にはキャノンデールホログラムクランクが装着されていた)、コントロールテックのスカンジウム製ステム、サドルはアリオネK:1にUSEエイリアンカーボンピラーなど、高級軽量パーツを満載し驚くべき軽量性を実現したアルティメイト。しかしその特殊なパーツアッセンブルを除けば、つまりフレームそのものには、スペシャルなところは何もない。フレーム自体はお馴染みスーパーシックスである。



2009年のカタログからは落ちてしまったアルティメイトだが、その存在にはどんな意味があったのだろうか?いつものように峠3つを使って5.5kgを存分に味わった。







スペック







ウルトラ・パフォーマンスとスーパー・プライス 平常心を簡単に奪い去る、まるで小さなロケット







「今日はスーパーシックス・アルティメイトで200km走ったよ」



いつものように、僕は友人にこう自慢する。「140万だぜ140万」



彼は、高級車にたくさん乗れていいよね、と恨めしげに言った後、こう問うてくる。 「で、結局のところ、スーパーシックス・“アルティメイト”ってなんなのよ?」



仕事だと称して最新高級モデルを取っ替え引っ替え好き勝手に心行くまま乗り倒せる、という役得の代償として、僕はそれらの対象物について少しだけ深く考えなければならない。今回も、こんな高級バイクを快く貸してくれたジャパンの度量の大きさに応えて、この一台と真摯に向き合ってみたいと思う。



結局のところ、キャノンデール・スーパーシックス・“アルティメイト” とはなんなのか。29万9000円のカーボンフレームに、スラム・レッドやZIPPを組み付けて140万円に仕立て上げた、それには一体何の意味があるのか。







少なくとも、コスプレ用のプロチームレプリカではないだろう。パーツアッセンブルもカラーリングもプロチーム仕様とは異なるし、そもそも規定最低重量の6.8kgを大きく下回る5.5kgではUCIレースに出場できない。



ブランドイメージ戦略の結果として出現したモデルだろうか?プリンスカーボンの115万、コルナゴ・エクストリームパワーの168万、デローザはキング3で165万、スペシャライズド・ターマックSL2は105万、スコット・アディクトリミテッド157万…



「むむ、ならばウチもだ!」 とキャノンデール・バイシクル・コーポレーションの商品ビジネス戦略企画部長あたりが1万ドルオーバーのコンプリートバイクを欲した、という可能性は否定できないと思う。実際、メーカーの技術力を誇示するための特異な存在として 「キャノンデールロードの象徴」 というイメージリーダーとなりブランド力を鍛えるという働きもするだろう。バンバン売れて利益をもたらすクラスの商品ではないが、キャノンデールのロードラインナップに 「ハクが付く」 のは確かだ。



あるいは単純に、キャノンデール社のランチタイムライドで交わされた、好き者エンジニア同士の 「我々のスーパーシックスにレッドとZIPPをブッ込んだら面白いことになると思わないか?」 なんていう、いかにもアメリカンな、実にキャノンデールらしい、ビジネス的ブランド戦略などは全く関与しないところの無邪気な会話から始まったプランなのかもしれない。



どちらにせよ、実際に走り出した今となっては、もうどうでもいいことだ。このスーパーシックス・アルティメイトの鋭い加速、敏捷な動き、確かにそれはライダーの平常心をいとも簡単に奪い去ってしまう、まるで小さなロケットのようだった。



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