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故星野仙一氏がよく口にしていたとおり、プロにとっても学生にとってもユニフォームは戦闘服だと私はいつも思っている。ユニフォームに袖を通したらスイッチが入り、これを脱いだり上に別のものを羽織ったりしたらスイッチはオフになる。
◆WBC表彰式での記念Tシャツに見た優勝セレモニーのユニフォーム露出問題
■ベンチ入りメンバーの座をつかむ意味
前回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦直後の優勝メンバーのユニフォームについて書いたけれども、今回は甲子園のアルプススタンドに陣取る野球部員たちのユニフォームについて取り上げたい。
昔はアルプス席の野球部員はユニフォームを着用していなかったが、最近は大半の出場校の選手がユニフォーム姿で声援を送っている。ただし全部ではなく、今春でいえば優勝した山梨学院はスクールカラーの水色のTシャツでそろえていた。
この傾向は理解できる。ベンチに入ってない選手も18人のベンチ入りメンバーと一丸となって同じユニフォームで戦いたいということかもしれないし、保護者の気持ちになれば、甲子園に出るような強豪校では試合に出るのは容易ではなく、息子のユニフォーム姿をアルプスでしか見ることができないという家庭もあるかもしれない。
ただ、大学野球ではこのような情景は今も見かけない。リーグ戦用のユニフォームを手にするということはベンチ入りメンバーの座をつかむということであり、部員全員の前で監督がユニフォームを25人のベンチ入りメンバーに渡すのをほかの部員が拍手で祝福するという儀式をしている大学もある。高校でも背番号だけでなくユニフォーム授与の儀式そのものはやっているところもあるようだ。
ベンチ入りの18人から外れた選手たちは、Tシャツやウィンドブレーカーを着せられる悔しさをかみしめて、次の大会でこそその座を勝ち取るぞという静かな闘志を燃やすためには、そういう「格差」を思い知らされるのも悪いことではない。山梨学院のような学校はそういう方針なのではないだろうか。グラウンドではないのだし、連盟が規制する話でもなく、各校の裁量に任せればよいことだと思う。
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■「振り付け」応援に暇はあるのか
気になることがある。
春の陽気ではまだ肌寒い日もあるしナイターになるときもある。そういうときはウィンドブレーカーを着用させるべきであり、またユニフォームを着用するなら帽子もかぶるべきだと思う。帽子をかぶり、アンダーシャツもストッキングもきちんと着けて初めて野球選手のユニフォームとなる。なぜかアルプスの野球部員が全員無帽でそろっている学校があった。どういう意図なのだろう。
もうひとつ気になるのは、アルプスの野球部員がそろって「振り付け」をしている学校があることだ。これは少し切ない気になってしまう。グラウンドの選手とともに野球部員全体がアルプスの吹奏楽団や応援団に応援してもらっているわけだから、野球部員だけが躍りはやりません、というわけにはいかないのは理解できるが、彼らは悔しい思いをかみしめてすわっているのである。なかには紙一重で18人には入れなかった選手もいるし、けがさえなければ入れていたとか、自分のほうがあの舞台に立つ力があるはずだと監督のメンバー選考に納得が行かないという選手もいることだろう。
夏の3年生ならもう事実上引退しているのでしかたないが、それ以外の場合は、踊る暇があったら手首や足腰を観戦しながらでも鍛えてはどうだろうか。チームとして勝ちたい、そのための声援や拍手はしてほしい。しかしそれ以上の練習が必要なレベルの振付は免除してやれないだろうか。その振付が一糸乱れぬようなそろいかただったりすると「野球の練習を彼らはやっているのか」と私は思ってしまう。
グラウンドでのできごとに一瞬だけ触れると、閉会式で大会会長から優勝メダルをもらう山梨学院の選手は脱帽しなかった。準優勝の報徳学園ナインは脱帽していたのでこれも気になった点である。WBCの表彰式ではアメリカの選手でもメダルをかけてもらうときは脱帽していた。
帽子をかぶるべきときはかぶり、礼をするときは脱ぐ、これが野球選手のドレスコードだと思っている。
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著者プロフィール
篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授
1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。