奥原希望らトップ選手の課題を「食」で解決 味の素ビクトリープロジェクトの取り組み | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

奥原希望らトップ選手の課題を「食」で解決 味の素ビクトリープロジェクトの取り組み

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奥原希望らトップ選手の課題を「食」で解決 味の素ビクトリープロジェクトの取り組み
  • 奥原希望らトップ選手の課題を「食」で解決 味の素ビクトリープロジェクトの取り組み

アスリートが試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、日常的なトレーニングを含めた、自身のコンディションの管理は必要不可欠である。


そんなアスリートのコンディション管理において、「」に関するサポートを行っているのが、味の素株式会社が栄養指導やコンディショニングサポートを行う「ビクトリープロジェクト」だ。


今回は「ビクトリープロジェクト」のディレクターである上野祐輝氏にお話を聞き、その活動やコロナ禍でのサポートをはじめ、担当されているバドミントンの奥原希望選手との取り組みについても伺った。


上野祐輝味の素株式会社オリンピック・パラリンピック推進室ビクトリープロジェクトグループに所属。バドミントンの奥原希望選手をはじめ、空手やハンドボールのトップアスリートのサポートを担当。このプロジェクトを通じスポーツを楽しむすべての人に「栄養の大切さ」を伝えている。


◆奥原希望が全英オープンで5年ぶり2度目のV 世界ランク11位を圧倒


■サポートの一歩目は「現状を知る」


味の素「ビクトリープロジェクト」は、2003年からJOC(日本オリンピック委員会)と共同で行っている、選手のコンディショニングを食と栄養でサポートするプロジェクトだ。


味の素が得意としている「アミノ酸」の働きなどを活用し、選手の課題解決や目的を達成するための方法を日々提案している。


上野氏自身も、2016年のリオオリンピックからこのプロジェクトに携わっている。


―2016年からこちらのプロジェクトに携わり、現在はバドミントンの奥原希望選手をはじめとした多くのアスリートをサポートされていますよね。


上野:はい。奥原選手とは2016年リオオリンピックの現地で初めてお会いしました。その当時、私はまだ営業部門から今のプロジェクトに移ったばかりで、「G-Road Station」という選手村のすぐ隣にある栄養サポート拠点の担当で、そこで彼女がどのように競技と向き合っているのかなど、色々なお話を伺っていたんです。


私自身、初めてオリンピックでバドミントンという競技を生で観戦しまして、奥原選手のプレーに素人ながら驚かされたのですが、結果は銅メダルだったんです。


2020年はぜひとも彼女に目標を達成してほしいという思いもあり、帰国後に声をかけ、次のオリンピックに向けて栄養面で深くサポートをしていきたいんだとお話をして、そこから始まったという感じですね。


―そこから奥原選手のサポートが始まるわけですが、どういった課題から着手していったのですか?


上野:最初は私自身も奥原選手の何が課題か正直わからない状態からスタートするので、どちらかと言うと、まず奥原選手自身の身体に何が起きているのか、今の身体の状態はどうなっているのか、現状を知るといったところから始めていきました。


奥原選手の日々の体組成(体重や除脂肪体重など)の変動をグラフ化して、例えば疲れてくると体重が落ち気味になってしまうだとか、そういう点を見つけようとしました。


そこでは大きな課題は見つからなかったのですが、日々の体組成の報告とそのフィードバックを繰り返して、コミュニケーションを取るという土台をしっかり作り上げることができました。


■海外遠征でも必要な栄養素を摂る習慣づけを実施


「ビクトリープロジェクト」スタッフと打ち合わせをする奥原希望(提供:味の素(株))


国を代表するアスリートともなると国際大会など海外にまで活動の範囲が広がる。そこでは恵まれたサポートをされていると思いがちだが、食の面においてはそんなことはなかったと上野氏は言う。


上野:奥原選手を含めたバドミントン代表の活動スケジュールの特徴は、国内で1週間ほどナショナル強化合宿をするんですね。そこから海外に出て2大会に出場し帰国します。そしてまた合宿をして、2大会出て帰国するというのがお決まりのスケジュールなんですよ。


海外で2大会(約2週間)戦っていると、だんだん日が経過するにつれ力が発揮できなくなっていたんです。身体の調子が悪かったり体重が落ちてしまうといった課題が選手にヒアリングしていくうちにわかってきました。


バドミントンの代表選手は恵まれた環境で国際大会を回っているのかなと勝手に想像していましたが、現地での話を聞くと、朝食はホテルのバイキング、昼食と夕食は各自で取らなければいけなかったのです。


とはいっても、選手たちは日々試合をしているので、外食に行くか、部屋で簡単に腹を満たせるものを食べるという二択になっていました。


海外に行くと、外食にしても脂がとても多くて身体に合わなかったりします。それが嫌だから部屋で食べようとなっても、その時の目的が「おいしくて、簡単で、腹が満たせる」なので、レトルトのカレーや中華丼の素、ラーメンなどを食べていたんですよね。


―それでは栄養が偏っていきますよね。


上野:栄養的な側面で見ると、それを繰り返していれば、必要な栄養素はとれないです。だからだんだんとコンディションが崩れていく理由もわかったんです。ただ、海外で転戦していることもあり、選手たちにはクッカーという小さな調理器具でレトルトを温めたりしている習慣がありました。


その習慣を我々はうまく活用して、「おいしくて簡単」だったものを「おいしくて簡単で正しい」という食事がとれるような調理を伝えました。


国際大会に初めて帯同した際には、必要な栄養素をちゃんと取ればこれだけ身体は変わるんだ、コンディション管理に良いんだ、と実感してもらって、その後の海外大会でも必要な栄養素を摂る習慣づけをしていきました。


■転機となった奥原希望の世界選手権決勝での敗退


代表全体の課題を見つけ、元々の習慣も逆手にとり改善に向け取り組んでいった上野氏。ただ奥原選手個人での課題はまた別のところにあったという。


上野:2019年に奥原選手がプロ化する前から色々とこうしていきたいと話は聞いていたので、僕らとしても是非そこはサポートしていきたいと思っていました。


ただ、具体的に深堀りしていっても答えはなかなか出なかった。そんな中、2019年の世界選手権決勝で奥原選手が負けてしまい、その試合後に「足が動かなかった」と言ったんですよ。


まずはこれをなんとかしなきゃなと思いました。一生懸命頑張ってきても、最後の大事なところで足が動かなかった。つまり力が発揮できなかったわけです。なのでこれをなんとか無くしたいなと思ったところから、取り組みがまた一つ深くなっていきました。


―そこからはどういった取り組みを?


上野:これは試合期間中に何か原因があったかもしれないですし、もっと前段階からコンディションの作り方に課題があったのかもしれない。まずはそこを「見える化」していこうと。そういった作業をしていきました。そこで、これまでのように体組成の分析だけでなく、心拍の変動にも注目していきました。


疲れていると身体を回復させようとするので心拍はあがっていくんですよ。起床時の心拍や、運動中にどれだけエネルギーを消費しているのか心拍を計り、これらを「見える化」し把握していくと、大会期間中はどのくらい食べるべきなのかが仮説として立てられるようになるわけです。


特に奥原選手のプレースタイルが「とにかく動き続けて粘る」タイプなので、必要なものはやはりエネルギーです。そのエネルギーの素になる糖質をしっかりと摂るべきなのですが、2019年の全日本総合での食事を分析すると、少しエネルギーの素になるものの構成比が少ない状況でした。


そこで、2020年の全日本総合では、エネルギーになる物を増やして(体内にエネルギーを)蓄えるための食事をコーディネートし、それにあたって奥原選手オリジナル「勝ち飯」のメニューも開発しました。


奥原希望オリジナル「勝ち飯」の献立例(提供:味の素(株))


単純にお米を増やすことでも良いのですが、食事って正しいだけでは食べられないんですよ。「おいしい」といった気持ちの部分で動くものがないと難しい。


奥原選手も、お米をたくさん食べるのが苦手だったので、大好きな主菜の中に糖質を上手く入れ込んであげるという工夫をしました。過去に提供した食事の中で彼女は豚キムチが好きだったので、それをベースに糖質を増やしました。


―どう増やしたのですか?


上野:なるべく「糖質追加されてるなぁ」と感じずに増やしたかったので、しゃぶしゃぶ用のスライスされた餅を混ぜ合わせました。そうすると豚肉なのか餅なのかわからない状態になるんです(笑)。結果それがエナジー豚キムの開発につながりました。


その他にも、選手向けに今までにない「選手強化餃子」を2種類開発しました。ひとつは「エナジーギョーザ」で、脂質を抑えて皮も米粉で作っているのでエネルギーとなる炭水化物もしっかり摂れます。もうひとつは今回のエネルギー強化の目的とは異なりますが、「コンディショニングギョーザ」で、野菜がたっぷり入っていてコンディショニングに必要な「ビタミン類」が摂れることに加え、カラダを良い状態に保つのに必要な「たんぱく質」もしっかり摂れるので、「リカバー」に最適です。大会期間中に奥原選手のコンディションを保つために最適な取り組みでした。


新開発の「エナジーギョーザ」(左)と「コンディショニングギョーザ」(提供:味の素(株))


■コロナ禍におけるサポートの変化


コンディション管理のサポートにおいて、選手の課題を見つけるのは大会現地や現場での活動が当たり前であったが、このコロナ禍で今までとは変化したという。


上野:我々の選手との接し方というのは、現場に行き対面したり、実際に競技をしている姿を見る中で課題を拾ってくるというかたちでした。


ただ感染対策もあり、必ずしも現場に入れないということで(手法が)大きく変わりました。世の中的にもリモートでの会議が当たり前になっていくなかで、僕らもそれを取り入れて選手個別のサポートや競技団体ごとの勉強会を上手くリモートで行うようになりました。


今までは国際大会にたくさん参加している選手と会うのは3カ月に1回などでした。それが結果的にリモートでは月1ペースでミーティングが設けられるようになったので、選手との会話は増えましたね。


―選手が抱える課題もコロナの影響で変化したりしているのですか?


上野:選手の課題で言うと、去年の4月~6月は身体を動かしたくてもまったく動かせない状況になってしまい、身体の中身が少し変化してしまいました。筋肉が落ちたり太ってしまったり。


また、今までは合宿や海外遠征が多いスケジュールだったので、家でご飯を食べることがなかったんですよ。なので調理の悩みなどが課題として出てきました。


そこで鍋を活用していこうと提案していきました。鍋は調理が簡単かつ、免疫力に必要なビタミンA、ビタミンC、ビタミンEという栄養素を取り入れやすい。さらにアスリートに必要なタンパク質も鍋に入れやすいですし、太ることを気にしている選手にとっては、脂を使わない調理なので脂質もカットできる。そういった情報を提供しながらサポートしていきました。


全日本総合選手権中も「ビクトリープロジェクト」の「勝ち飯」献立が奥原希望を後押し(提供:味の素(株))


■競技によって細かく変わるサポート


―バドミントンの奥原選手以外にもサポートを担当されているとのことですが、他の競技ではどのような取り組みをされているんですか?


上野:バドミントンは年間のスケジュールに特徴があるのですが、空手の場合は試合当日のスケジュールに特徴があります。多くの競技は1日1試合が普通だと思うのですが、空手の場合は1回戦から準決勝までを1日で行い、決勝だけ別日にやるんですよ。しかもこの1回戦から準決勝を約2時間で行います。


この濃密な2時間をどう過ごしていくかが重要になってくる。そこで、試合当日の「ニュートリションプラン」を一緒に作るということをしました。これはどのタイミングでどの栄養素が必要かシートに書き出していき、1日のスケジュールに合わせて計算しながらプランを作っていくというものです。


試合が○○時からだからそれを逆算した時間に起き、エネルギーの消費タイミングを計算して取るといった計画を作るサポートをしています。


他にもハンドボールでは、フィジカルが海外選手に比べてまだ差があり、コンタクトスポーツということも考慮し、やはり身体作りを一番のテーマとしてサポートしています。


■ビクトリープロジェクトが描くこれからのビジョン


上野:我々はあくまで味の素の一部です。味の素が何をしていきたいかと言うと、世の中の生活者の食と健康の課題を解決していきたいという点が大きなビジョンとしてあります。


その中で、「ビクトリープロジェクト」はアスリートの部分を担っていますが、アスリートだけでいいかというと、そうではないなと思っています。「食と健康の課題解決」と言われてもなかなかイメージが湧かなかったり、何から始めたらいいの?と誰もが感じるはずです。


そこで、認知度と影響力があるアスリートで事例を作って発信をすることによって、「食と健康の課題解決」という言葉を身近に感じていただきながら、より魅力的に世の中に発信できる存在になっていきたい。生活者に通ずる提案をその中から見出していきたいなと思っています。


取材/文・SPREAD編集部

《SPREAD》
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