マニラで仲良くなったフィリピン人、エイドリアンの故郷、Lucban(ルクバン)を訪れた。彼の祖母、ミラ・ミラグロスさん。82歳。日本の占領が始まったのは1942年のことなので、彼女が7歳の頃だ。
彼女は8人兄弟の末っ子。兄弟のうち2人は日本軍に殺された。その事実を淡々と話しながらも、「私は日本人が好き」と明かしてくれた。
正直なところ驚いた。親日国家とは言えど、基本的に日本に対する負の印象は、高齢者の間では未だ拭えていない。僕は、友人の祖父母とは言えど、彼女と話すことに少し緊張していた。しかし、その緊張を解いたのは会話の直後述べられたその言葉だった。
ミラさんには戦後2人のボーイフレンドがいた。当時は特に複数の人と関係を持つことはタブー視されていたので、その事実をエイドリアンが明かすと、彼女は頬を赤らめた。
彼によると、「彼氏というよりも身体の関係という方が近いのではないか」ということだが、彼女は確かにボーイフレンドと述べた。
「1人はハンサムな日本人、もう1人は不細工なアメリカ人だったわ。日本人のボーイフレンドは私にとても優しくしてくれた。だから私は日本人が好き」
日本人に対する好印象は、私的な体験からきているようだった。しかし、いくら戦時中に7歳で物事がよく分かっていなかったからといっても、後に日本に対する悪印象を持つのは極めて自然な流れではないだろうか。日本人を前にしたリップサービスの意もあるのか。
ミラさんと話すことのできる時間はあまり長くなかったので、後にエイドリアンに聞いてみた。
「日本人に対するリップサービスとか、そういうのはなかったと思うよ。ずっと前から言っていたから。正直なところ、『日本が好き』とか、そう話す祖父母の世代は少ない。うちの祖母は珍しい方だと思う。理由は僕にも正直よく分からないんだけどね」
ミラさんは昨年家の階段から転げ落ち、足を悪くした。「足が痛くてね、もう階段も上がれない。目も悪くなってきて、テレビを見ていると疲れる」と自身の体に関する不満をこぼした。
しかし、そのあとに「車椅子などを使えばまだまだ外にも出れるんだけどね。まぁ、ゆっくりしていってよ」と僕に笑いかけた。
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