【THE REAL】天皇杯に刻んだ快進撃の残像…筑波大学の次世代ホープ、三笘薫が抱いた反省と課題 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】天皇杯に刻んだ快進撃の残像…筑波大学の次世代ホープ、三笘薫が抱いた反省と課題

オピニオン コラム
サッカー ゴール イメージ(c)Getty Images
  • サッカー ゴール イメージ(c)Getty Images

本気で戦って負けたからこそ得た収穫


自信よりも反省。手応えよりも課題。痛快なジャイアントキリング旋風を巻き起こした天皇杯で敗退した筑波大学の選手たちの視界には、新たなステージへ進むための道筋がはっきりと見えている。

「ゴールに結びついていないので、効果的なプレーではなかった。判断のスピードがまだ遅い。プレースピードを含めたいろいろなスピードと、フィジカル的なところが足りないので磨いていきたい」

大宮アルディージャとカシマサッカースタジアムで対峙した20日の4回戦。1992年のJリーグ発足後では初めてとなる、大学勢のベスト8進出を狙った筑波大は0‐2で一敗地にまみれた。


完敗ではない。特に後半はシュート数で8対4と圧倒するなど、決定的なチャンスを5回も作った。それでも「惜しかった」というねぎらいの言葉を、先発フル出場したMF三笘薫(2年)は否定した。

「前半などはもっと顔を出していく部分を増やさないといけないし、ボールロストも多かった。自分としてはもっとできた、というのが本音です。ポジション取りで無駄な動きが多かったというか、力が入りすぎていた。もっと周りを見ながら、プレーすることも必要だと思いました」

1回戦からY.S.C.C.横浜(J3)を2‐1、ベガルタ仙台(J1)を3‐2、アビスパ福岡(J2)を2‐1で撃破。すべての試合で先制点を奪い、なおかつベガルタには一度逆転されながらひっくり返した。

Jリーグ勢の場合、原則として水曜日に行われる天皇杯では、週末のリーグ戦をにらんで先発メンバーを大幅に変えてくることが少なくない。相手が大学生となると、そうした傾向はなおさら強くなる。

アルディージャも然り。16日のガンバ大阪戦から、DF山越康平を除く10人を入れ替えてきた。メンバー構成が読めないから、対策の施しようがない。取るべき手段は、ひとつしかなかった。


後半7分に魅せたあわや同点のビッグプレー


J1の柏レイソルとガンバ大阪でアシスタントコーチを務めた経験をもち、2014年の途中から母校でもある筑波大学の蹴球部監督に就任した39歳の小井土正亮監督は言う。

「Jリーグ勢との一番の違いはセットプレーの質だと思っているので、そこの部分でやられないように準備はしてきました。まずは自分たちがやるべきことをやろうと」

引いて守ってカウンターでは意味がない。最低限の準備をしたうえで、普段着のサッカーで臨む。現時点における全力を出し尽くせたからこそ、足りない部分を痛感できる。成長への意欲がわいてくる。

三笘は1点を追う後半7分にビッグプレーで魅せた。自陣の中央から繰り出された、約40メートルはあったMF高嶺朋樹(2年)からのサイドチェンジのパスを左タッチライン際で受けた。

対峙するのはゲームキャプテンを務めた右サイドバックの渡部大輔。三笘は得意のドリブルで中央へ切り込みながら仕掛ける。右へコースを取ってから左へ切り返し、次の瞬間、右へとスイッチする。

J1で118試合に出場している28歳が翻弄され、たまらず隙ができる。そして、渡部の右側にゴールへとつながる道が見えた。迷わず右足を振り抜いたが、インパクトの瞬間、体勢がやや崩れてしまった。

「キーパーの正面だったので。もっとコースを狙って、強いシュートを打たないとダメですよね」

36歳のベテラン、GK塩田仁史に余裕をもってキャッチされた。コースを狙うには瞬時の判断力が、強い弾道を放つには筋力が必要となる。だからこそ、冒頭で記した反省と課題の弁が口を突いた。

「前を向く回数が少なかったし、一回でボールを止められてもいない。後半は左サイドに張って、攻撃の部分では少しはいい面を出せましたけど、最後の部分でやっぱりプロは決めてくる。プロになるとしたら、いま以上をベースにしていかないと」



川崎フロンターレより筑波大学を選んだ理由


アルディージャの伊藤彰監督は、2007年から9年間、アルディージャの下部組織でコーチや監督を歴任。対戦相手として数多くの金の卵たちを見てきた。もちろん、三笘もその一人だった。

「トップに上がらないで大学を選んだ選手もいますし、なかでも三笘選手はこれからすごく楽しみな選手なのかなと。彼の才能はわかっているし、今日もいいパフォーマンスしている、と見ていました」

三笘は中学進学とともに川崎フロンターレU‐15に加入し、同U‐18では「10番」を背負った。トップチームへの昇格も打診されたが、熟慮した末に、大学でひと回り大きくなってから、と決断した。

迎えた今年度の天皇杯。茨城県代表として出場した筑波大の選手たちのなかで、3回戦までの3試合で5ゴールをあげたFW中野誠也(4年)とともに、三笘はまばゆい輝きを放った。

ベガルタとの2回戦では、開始6分に自陣の中央から約60メートルを得意のドリブルで突破。鮮やかな先制ゴールを決めると、後半28分にはペナルティーエリアの外から逆転ゴールを突き刺した。

日本が6度目の優勝を果たした、今夏のユニバーシアード台北大会代表にも名前を連ねたホープは9月になって、JFA・Jリーグ特別指定選手として中・高とプレーしたフロンターレに登録された。

フロンターレの申請が日本サッカー協会に承認されたもので、三笘は筑波大学蹴球部に所属したまま、Jリーグの公式戦に出場できることになった。2年生での登録は、大きな期待の表れといっていい。

「思っていた以上に早かった、というのが本音です。3年生くらいで、と考えていましたけど、そこはプラスに考えて自分自身に期待していきたい。フロンターレには愛がありますし、育ててくれたクラブなので。どの大会でも自分が成長できる舞台だと思うので、もちろん励みになります」


3年後の東京五輪で主軸を担う世代の一人


アルディージャ戦が行われたカシマサッカースタジアムにも、フロンターレの向島健、伊藤宏樹の強化部スカウト担当が視察に訪れていた。177センチ、66キロの体には無限の可能性が凝縮されている。

実際、前半15分には中央をドリブルで突破し、34歳のベテラン、MF金澤慎のファウルを誘発。塩田の美技に阻まれたものの、FW戸嶋祥郎のフリーキックからDF野口航が惜しいシュートを放った。

「自分としては久々の90分間だったので。ちょっとホッとしたじゃないですけど。でも、まだまだ走れないところが多いし、ゴール前でのシュートの精度も低い。中野さんはチームの得点源ですけど、頼ってばかりでは勝てないと痛感しました。もっと自分たちが相手を脅かさないと」

試合後の公式会見。小井土監督は「そもそも快進撃とは思っていない」と胸を張り、チーム全員がやるべきことを実践し、勝つべき試合を勝ってきたとJリーグ勢からもぎ取った3勝を称えた。

「本気で準備をして、本気で臨んだけど負けた。この経験が収穫。ここから選手たちが何を感じて、次にどのようなリバウンドを見せてくれるのか。私も楽しみにしています」

息をつく間もなく、24日には駒沢大学との関東大学サッカーリーグが待つ。後半戦の開幕戦、その前の総理大臣杯準決勝でともに法政大学に屈した。アルディージャ戦を含めて、4連敗はできない。

「多くの方が見ている舞台で戦えたのは大きな経験になるけど、これを次に生かさないと意味がない。やるべきことが多くなったと思うし、どのように成長できるか、自分自身でも楽しみでもあります」

卒業後はプロで世界を目指す、と心に決めているホープの進化に、天皇杯はどのような触媒を果たすのか。3年後の東京五輪で主軸となる世代の一人、三笘薫という名前を覚えておいて、決して損はしないはずだ。
《藤江直人》

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