ウラジミール・クリチコに11ラウンドTKOで勝利し、IBF世界ヘビー級王座を守ったアンソニー・ジョシュアは、中盤の攻防を冷静に振り返った。試合後のジョシュアは左目の下がやや腫れていたものの、新旧王者対決を語る表情は穏やかだった。
「(ダウンした)第6ラウンドを耐え抜いたあと、僕はクリチコに『君のほうが不利になる』と言った。一休みして回復したからね。僕は痛めつけた相手を必ず倒す」
4月29日に行われたWBA・IBF世界ヘビー級タイトルマッチ。ジョシュアはヘビー級に一時代を築いた元王者クリチコの挑戦を退けた。第5ラウンドにダウンを奪ったあと逆襲に遭いダウンを奪い返されたが、中盤を回復の時間に充てながら後半の勝利に懸けた。そして第11ラウンド、右アッパーから一気にクリチコを追い詰めた。
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クリチコを追い詰めるジョシュア(右)
(c) Getty Images
■プロ最長の11ラウンドで見えた課題と可能性
「チャンスをうかがったがパンチは彼の顔をかすめた。相手にダメージを与える一撃を当てようとすると体力を消耗する。パンチを当てるために少し必死になりすぎて体力を消耗した。だから後半のラウンドのために体力回復に努めた。それが僕のプランだった。もちろん疲れていたが、回復して反撃できると分かっていた」
ロンドン五輪スーパーヘビー級の金メダルからプロ入りしたジョシュア。プロでもデビューから無敗の18連勝(18KO)を続けていた。次のボクシング界を背負って立つスーパースターになれる逸材。多くの人がジョシュアに大きな期待をかけてきた。
一方でジョシュアには不安もあった。デビューから18戦して最も長く戦ったのはディリアン・ホワイト戦の7ラウンド1分27秒。8ラウンド以上戦った経験がなかった。加えてホワイト戦では打たれ弱さも垣間見せており、経験豊富なクリチコとの試合では意外な脆さを露呈する可能性もあった。
第5ラウンド開始から攻勢を仕掛けダウンさせながら、決めきれないと打ち疲れてペースが落ちたのは今後の課題だ。クリチコに反撃を許しダウンを奪われたときは危なかった。だが、その後の何ラウンドかを体力の回復に充て、ポイントではクリチコにリードを許しながらも最後に倒しきったところなど、やはりスター性は抜群だ。
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新旧王者対決を制す
(c) Getty Images
■注目はワイルダーとの統一戦へ
ミドル級の三団体統一世界王者ゲンナジー・ゴロフキンは試合前、この一戦がヘビー級にとって大事なものになると話していた。
「どちらがスーパースターになるのか興味深いね。ヘビー級にとってとても大事な試合だ。誰もがアメリカに来る必要があるからね。アメリカというのはファーストクラスなんだ」
近年のアメリカでは中量級が話題の中心を占めており、マーケットの規模でも大きなものがあった。だが最近はヘビー級にもタレントが揃い始め、再び最重量級への注目度は高まっている。
クリチコに勝利したことでジョシュアにはWBC世界ヘビー級王者、デオンテイ・ワイルダーとの統一戦という道が見えてきた。実現するとすれば舞台はアメリカになるだろう。米国進出を果たした英国人王者を米国期待の星が迎え撃つ。ともに無敗のハードパンチャー。とても分かりやすい構図だ。
ジョシュア陣営からはワイルダー戦を熱望する声が出ている。ヘビー級のトップを決めるドリームマッチは果たして実現するか。