【THE REAL】日本代表・吉田麻也が見せた急成長の跡…キャプテンマークが似合う立ち居振る舞い | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】日本代表・吉田麻也が見せた急成長の跡…キャプテンマークが似合う立ち居振る舞い

オピニオン コラム
吉田麻也 参考画像
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■負傷離脱した長谷部誠から引き継いだ大役

巻くべくして、左腕にキャプテンマークを巻いた――。UAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表に連勝したワールドカップ・アジア最終予選の3月シリーズ。DF吉田麻也の立ち居振る舞いを見ていると、こんな思いを抱かずにはいられなかった。

不動のキャプテンにして、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督をして「彼なしのチームは現時点で考えられない」と言わしめる精神的支柱でもある33歳のMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)が、負傷した右ひざの痛みが治まらないために戦線離脱を余儀なくされた。

迎えた3月23日。前回の対戦でまさかの黒星を喫しているUAE代表のホーム、アル・アインに乗り込んでの大一番を前にして、指揮官は28歳の吉田をキャプテンに指名している。

キャリアや日本代表で獲得したキャップ数を比べれば、34歳のGK川島永嗣(FCメス)や30歳のDF長友佑都(インテル・ミラノ)のほうが上回っている。しかし、吉田は彼らにはないものを身にまとっていた。

所属するサウサンプトンにおいて、吉田は昨年大晦日のウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦を皮切りに、プレミアリーグで9試合連続して先発フル出場を継続してハリルジャパンに招集されていた。

カップ戦を含めれば、15試合のうち実に14試合でフル出場。そのなかにはFWズラタン・イブラヒモビッチと激しくマッチアップした、マンチェスター・ユナイテッドとのイングランドカップ決勝もある。

川島はカップ戦の1試合、長友も今年に入ってからセリエAで2試合、93分あまりの出場にとどまっている。おそらく自分のプレーで精いっぱいな状況で、代表のキャプテンを任せるのは酷といっていい。

翻って吉田は、約2ヶ月半の間に積み重ねられてきた濃密すぎる経験に導かれた、いい意味での余裕を漂わせていた。内側からも変わってきている何かを感じたからこそ、ハリルホジッチ監督も大役を託したのだろう。

サウサンプトンで躍動
(c) Getty Images


■ポジティブな変化を見せたUAE戦での快勝劇

もっとも、肩書がひとつ増えたからといって、吉田自身は何も変わっていない。189センチ、78キロの恵まれたボディから泰然自若としたオーラを放ちながら、思い描くキャプテン像をこう語っている。

「僕は長谷部誠にはなれないし、僕にできるリードの仕方があると思うので。別に無理をしてハセさん(長谷部)みたいに振る舞う必要もないと思うし、自分が信じる道、自分が正しいと思うリーダーシップを発揮していければと思っている」

23歳のFW久保裕也(ヘント)の先制弾、約2年ぶりに代表復帰した34歳のMF今野泰幸(ガンバ大阪)の追加点を守り切り、完封勝利を収めたUAE代表戦では納得のいく守備ができたと振り返る。

「特に後半は最終ラインを高く上げずに、自分たちの背後のスペースを消すようにした。暑さや移動による疲れもあったし、何よりもアウェイ戦ということと相手選手の特徴を考えて、あえて上げませんでした」

本来の日本代表は最終ラインを高く上げて、前線までの距離をコンパクトに保って戦うことを理想として掲げてきた。しかし、満足と納得とは似て異なる。理想を貫いても、結果を得られなければ意味はない。

「UAE戦は理想と現実のバランスが上手く重なったのかなと。理想とはワールドカップでどのように勝つのか、というところなんですけど、現実問題としてワールドカップに出場するためにはアジア最終予選を勝たなければいけない。その意味でのバランスが、非常に重要になってくるので」

アルベルト・ザッケローニ元監督のもとで臨んだ前回のブラジル大会。掲げていた「自分たちのサッカー」を封じられると、ベンチの指揮官、ピッチに送り出された選手たちは何もできずに一敗地にまみれた。

対戦相手の特徴や自然条件を含めて、臨機応変に戦い方を変えることをハリルホジッチ監督は求めてきた。日本代表のなかでポジティブに変わりつつある面が、しっかりと顔をのぞかせたのがUAE代表戦となる。

自分が正しいと思うリーダーシップを貫く
(c) Getty Images


■積み重ねてきた準備に導かれた急成長

オランダのVVVフェンローから、イングランドへステップアップして5シーズン目。フランス人のクロード・ピュエル新監督のもと、開幕当初はカップ戦を主戦場としてきた。

センターバックとしての位置づけは3番手。それでもチーム内でのポジション争いを努めてポジティブに、必ず自分自身の成長につながると受け止めて日々の練習に取り組んできた。

「監督が代わって状況も変わったので、またゼロからのスタートだと思っている。実際にセンターバックで争っている選手はユーロのチャンピオンにしてチームのキャプテンであり、もう一人は昨シーズンのチームのMVPなので。非常にレベルの高い競争のなかに、自分が参加できている」

フランスで開催された昨夏のユーロ2016を制した、ポルトガル代表の最終ラインを支えたジョゼ・フォンテ。そして、オランダ代表のフィジジル・ファン・ダイクは、サウサンプトンの選手およびサポーターによって昨シーズンのMVPに選出された実力者だ。

そして、レギュラー格の一人、フォンテが今冬の移籍市場でウェストハム・ユナイテッドへ移籍した。それに伴って自動的にレギュラーへ昇格したわけではないと、吉田は力を込める。

「監督がチャンスを与えてくれて、それに対して僕が準備をしていて、(監督を満足させる)パフォーマンスを出せたことが一番大きいと思う。準備そのものは去年も一昨年もやっていたんですけど、そこでチャンスをつかめるかどうかは僕次第だし、去年つかめなくて今年つかめたというだけなので。

逆に考えれば、パフォーマンスが落ちれば再びポジションを奪われる可能性があるし、そういう立場でプレーしていると思っているので。だからこそ、いま現在もレギュラーポジションを奪ったという感覚はないですし、これからもないと思っている」

与えられたチャンスで一発回答を弾き出した自信と、絶対的な足跡はまだ残していないという危機感。ふたつの思いが絶妙なバランスを形成して、成長を後押ししている。

■スコア上は快勝したタイ戦で露呈した課題

舞台を埼玉スタジアムに移し、3月28日に行われたタイ代表戦を、理想により近づける舞台と位置づけていた。実際、4‐0で勝利し、得失点差でサウジアラビア代表を抜いてグループBの首位に立った。

しかし、試合後の取材エリアに姿を現した日本代表に笑顔はなかった。選手全員の思いを代弁するように、吉田は「結果は評価できるけど、内容が全然ダメでしたね」とこう続けた。

「無失点で終えられたのは奇跡に近かったと思う。こういうことも起こりうると想定はしていたけど、それでもこのパフォーマンスは飲み込みがたい。いまこそ足元を見つめ直していかないと」

タイ代表戦に快勝も内容には不満
(c) Getty Images

キックオフ直後から散見されていた単純なパスミスが、前半19分までに2点をリードしてからは何度も繰り返されるようになった。UAE代表に勝った直後で、誰でも心のどこかに安ど感を宿らせる。

満員のホームに戻り、早々にリードを奪ったことで、それらが一気に顔をのぞかせたのか。中東から長距離移動してきた疲れと、タイ代表が予想以上に前へ出てきたことも混乱に拍車をかけた。

「引き締めてコントロールしなきゃいけないところで、僕自身もどちらかと言えば悪い流れに引き込まれてしまった。個人としてもチームとしても、改善しなきゃいけないところはたくさんある」

もし慢心や油断の類が生じていたとすれば、喝を入れられなかった自分が不甲斐ない。自らがヘッドで叩き込んだ4点目にはほんの少し笑みを浮かべながらも、吉田は6月以降に待つ残り3試合を見すえる。

「悪いときでも勝ち点を積み上げられたのは大事なことだけど、ここから先はひとつひとつの勝負で大きく結果が変わってくる。各々がここから精いっぱいプレーして、また代表に帰って来られるようにしたい」

サウサンプトンに戻れば、5月中旬までに11試合を戦う過密日程が待つ。「どれだけ『疲れていないか』をアピールできるか」とテーマを掲げた吉田はレギュラーを死守し、心技体をさらに高めて次の代表招集に備える。
《藤江直人》

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