山とはまったく無縁の取材をしていて、山登りをする人に出会うことがたまにある。
会話の中からそれとわかったり、相手がアウトドアブランドの服を着ていたり、靴を履いていたり、山の写真が飾ってあったり…。そんな山フラグを見つけると、やはりそこに突っ込まずにはいられなくなる。
「山、登るんですか?」
そこから相手の山レベルを探る。筆者のような万年山のビギナーなのか、それとも山のエキスパートなのか。登ったことのある山で判断する。
そこで「北アルプス」とか「雪山」とか、そのような名詞が出てきたら、その人には私の脳内で「山のエキスパート」認定証が渡される。
「そんなに高い山は登ったことないんですよ」なんて言う人もいる。そのような人と繰り広げる心理戦が楽しい。
果たして、この人はどの程度のレベルなのだろうか。それを探るためにも、腹を割って話す。自分の登った中でも標高の高い山の名前を連ねていく。
「日光男体山とか那須岳とか、安達太良山とか三ツ峠山とか…」
何とも心細いラインナップだ。この筆者の必死の抵抗に対し、先方に「那須岳、いいですよね、安達太良山、紅葉きれいですよね」なんて軽く返された挙句、「○○山って山は…」なんて未踏の、しかも知らない山の名を出された瞬間に、その人は「山のスタンダード」以上が確定する。
●栃木百名山・雨巻山
先日、とあるカフェでの取材でも、そのような心理戦が繰り広げられた。その時出てきた山の名が、「雨巻山」である。
雨巻山は、益子焼きで有名な栃木県益子町にある。町内最高点がこの雨巻山であり、標高は533m。栃木百名山にも選ばれている。
「雨巻山、いい山ですよ」とカフェの女性オーナーが勧めてくる。素敵なカフェの、素敵な女性オーナーに勧められたら、それはもう、登りたくなるに決まっている。
その女性オーナーは、見た目はとても華奢である。この方が「いい山ですよ」と涼しげに言う山なのだから、登るのに労しない山なのであろう、とタカをくくっていたら、けっこうしんどかった…というお決まりのパターンのお話は、また次回。
《久米成佳》
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