「TOYOTA GAZOO Racing チャレンジプログラム」の育成ドライバーに選出されたふたりの若手ラリー選手、新井大輝と勝田貴元はともに有名ラリー選手の息子。加えて勝田は全日本F3選手権シリーズ2位という実績をもつ転向選手でもある。
多少でもラリーを知っている人ならば、新井、そして勝田という名には聞き覚えがあるだろう。彼らの父親は、ともに日本を代表する現役ラリー選手。新井敏弘といえば、世界ラリー選手権(WRC)参戦経験も豊富で、05年と07年にはプロダクションカー世界ラリー選手権(PWRC、当時のWRCの次位シリーズ)でチャンピオンとなった人物である。そして勝田範彦も全日本ラリー選手権(JRC)の最高峰クラス王者常連。ちなみに今季JRCのJN6クラスでは開幕戦優勝が勝田範彦、第2戦優勝が新井敏弘だ。
3日の会見で息子たちが語ったところによると、いずれの父親もいわゆるステージパパ的なタイプではないらしく、「教えるというよりは態度で示す父親」(新井)、「訊けば『自分はこうしていた』と答えてくれますが、ああしろ、こうしろ、とは言わないですね」(勝田)とのこと。今回、トヨタでのWRC参戦につながるかもしれない若手育成プログラムに選抜されたことにも表面上、父たちは特別に大きな喜びは示さなかったようで、「ここからだぞ」(勝田)という対応だったらしい。
勝田の場合は祖父もラリーストという3世選手でもあるのだが、それ以上に特筆すべきは、彼がサーキットレースでかなりの経歴を積んでいる点だ。カートから「サーキットレースにのめり込んでいった」という勝田は、13年には全日本F3選手権でシリーズ2位になるなどしている。父の範彦がJRCで優勝した週末に、息子の貴元がF3で優勝し、「親子で同週末に全日本選手権優勝」という快挙を達成したこともあった。
「レースもラリーも両方やりたい気持ちがありました」と語る勝田は、F3参戦中だった昨年JRCにも参戦し、そこでクラス優勝を経験するなどした。そのなかで、「チームみんなで戦う面が特に強いラリーの魅力というものを知りました」。そのことが「上にいくためには(そろそろどちらかに)覚悟を決めなければならない。どっちつかずになってしまう」という彼の心中において決め手のひとつとなったようだ。
「サーキットレースの経験は、ラリーでも特にターマック(舗装路面)で活きてくるところがあると思います」と語る勝田は、サーキットレースとラリーの端的な違いも理解する。「ラリーは直接相手と戦うのではなく、1台で走る。そういう意味での精神面が大切ですね」との旨を語り、ペースノートづくりを含めた課題もしっかり認識している。
世界的に見れば、F1チャンピオン経験者のキミ・ライコネン(現フェラーリ)が一時はWRCに本格参戦した例があり、当時は大きな話題になった。F3上位ランカーだった勝田を同列に扱うのはライコネンに失礼というものだが、日本ではそれほど多くない動きと考えられ、しかも現在22歳という若い時点での転向、さらには転向先が父と同じ道という点でも勝田の今後は大いなる注目を集めるだろう。
WRCを目指し、新たな挑戦に踏み切った勝田貴元。僚友にして最大のライバルにもなる新井大輝とともに、その躍進に期待したい。
《遠藤俊幸@レスポンス》
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