ジャパン スポーツ アナリスト アソシエーションは12月21日、都内で「スポーツアナリティクスジャパン2014」を開催した。スポーツをテクノロジーやデータ活用により進化させることを目的に情報共有が行なわれた。
オープニングでは、日本スポーツアナリスト協会代表理事の渡辺啓太氏が講演を行なった。
渡辺氏は、全日本女子バレーボールの情報戦略担当チーフアナリストである。
スポーツとテクノロジーの交錯する場所にどのようなビジネスが生まれるのか、またスポーツアナリストの価値、職業としての未来などを探るために、ヒントがちりばめられた講演となった。
渡辺氏の講演を、以下に書き起こし抜粋する。
渡辺氏:
女子バレーをメインフィールドにしています。代表チームの監督がiPadをもってデータを参考にしていることは皆さんテレビ等でご覧になったこともあると思います。
今回は2004年から振り返ってみます。
◆2004年、スポーツアナリスト「無いよりいた方が良い」
2004年。アテネ五輪です。野球で「マネーボール」が出版された年でもあります。この年、女子バレーはどうだったでしょうか。
環境は、DVテープ、荒い画像。映像編集しCD-Rに焼く。試合中にはトランシーバとPCの無線を利用。選手個人でPCを持っている人は皆無でした。
また、人が居ない。協力いただく方はボランティア。ものがない。機材は借り物。お金もない。
アナリストの存在はバレーボール界では当時「無いよりいた方が良い」程度。試合の前は、アメリカの試合を録画した映像やデータをまとめておいて、ミーティングは選手任せでした。
2012年、ロンドン五輪でキャプテンの荒木選手が、2004年当時は動画撮影の手助けをしてくれていたような状態です。世界に遅れをとっていました。
◆2012年、「情報では世界一を。情報をチームの武器に」
一気に2012年。
メモリー内蔵カメラの普及。試合中に無線でディレイ映像を配信。テキスト情報の集積。iPad×アナリティクスをチームで活用。検索抽出型の映像閲覧が主流になりました。
映像は、例えば試合が2時間あればそのすべておさめ、選手は振り返りたい場面を任意に振り返ることができるようになりました。サーバにデータをおいてあるんですね。
アナリティクスは専属+サポートアナリティストの体制。ミーティングはコーチ主導で進行。コーチの分業制が進みました。
この時には「情報では世界一を。情報をチームの武器に」ということが共有されていました。意思決定のためのデータ活用が習慣化しました。
◆2016年は…
選手を選ぶ際、全日本候補選手の決定率と失点率を洗い出しました。監督、コーチの主観を聞いて、数値を照らしあわせる形です。主観は非常に大事です。
また最近は、iPadの利用が他国へ浸透しています。ベンチの中にはコーチが2人、コートの周りにもアナリティストが分析、情報を共有しています。また、心拍センサーを活用し、選手の状況も把握しています。
審判はビデオ判定も加わりましたね。
バレーボールでは、ネットを電飾化し、広告表示を柔軟にすること等も進められています。
ウェアラブルカメラをつけて選手目線で動きと音声を確認することなどにも取り組んでいます。
こうした様々な取り組みを進めています。日本女子バレーは世界で一番小さいチームといっても過言ではないので、少しでもプラスになりそうなことをやっています。
◆アナリティクスは「プレーヤーズファースト」
大事なのはプレーヤーズファースト。選手を大事にすることです。選手には理路整然と話をするのではなく、心を動かして理解をしてもらうことが大事です。
この10年間で変わったこと、変わっていないことそれぞれを把握してみました。変わっていないことは、情報戦略のマネジメントプロセス。変わったことは、テクノロジー、ナレッジ、インテリジェンス、メソッドをいかに混ぜ込んでいくかということですね。
スポーツに分析を入れるときに確認すべきことですが、競技の特性として「球技型」「対戦型」「芸術型」「記録型」があると思います。そこに、「レギュレーション」「競技特性」「ルール」「リソース」という要素が絡み合ってきます。
アナリスト種目別の勉強会を実施してきました。これまで5回、20競技70人以上の参加をいただきました。その際の課題は「アナリストの価値を向上していくこと」です。「絶対に必要」「なくてはならない」としないと将来的に職業として確立しないからです。
つまり、アナリストの職は、2020東京までの特需であってはならないということです。
いまはアナリストがナショナルチームの強化に取り組んでいますが、次世代育成、指導者養成、メディアリレーションなども必要になるでしょう。
スポーツアナリティクスは競技の「強化」だけではなく、競技の垣根を越え、業界の垣根を越えていくことができます。メディア、エンタメ、教育などの分野でも活用可能です。どのような可能性があるかということをまだまだ模索できます。
《編集部》
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