どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.1

オピニオン インプレ
どこにも真似できない開発法で攻めるBMC vol.1
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安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

「どこにも真似できない」開発法で攻めるBMC
ブレーキ規格にまつわるあたふたや空力・剛性・快適性が複雑に絡んで方向性が分散したことなどにより、数年前の695やマドンのような絶対的エースが存在しない2014シーズン。そんな中、主役級の存在感を湛えてデビューしたのはBMCのトップモデル、SLR01である。今までにない方法で解析を行い、ロードフレームとして究極のバランスを目指したというこのニューモデルの実力や、いかに。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
従来の解析方法とは、意味が全く違う
ウェブや専門誌に掲載されるニューモデルの紹介記事には一応目を通すのだが、新型SLR01のそれを読んでも、なかなかテンションが上がらなかった。原因は、広報資料にあるこの言葉。「従来モデルと比べ、より軽く、より強く、より快適にすること」これほど面白くないコンセプトがあるだろうか。インペックを作り上げたBMCには、もっと先進的なものを期待してしまうのだ。さらに、「ツールを制した名車SLR01のフルモデルチェンジ」 という話題性の大きさから期待するほどの見た目のインパクトがないことも一因だ。グラフィックに主張が少なく、旧作と印象がほとんど変わらないからだ。しかし、ここからが面白かった。BMCが持ち出してきた最大の技術トピックが、『開発ソフトウェア』 だったのである。
BMCは新型SLR01を設計するにあたり、スイスのチューリッヒ工科大学と共同で開発したソフトを使用して、カーボンのグレード、カーボンシートの形状、その並べ方、積層などを、フレーム形状を変えつつ34000通りものシミュレーションを行ったのだという。そうして軽さ、剛性、快適性の最適解を導き出した (これをACEテクノロジーというらしい。ACEとは、Accelerated Composites Evolutionの略である)。ここが従来モデルや他ブランドとの大きな違いだそうだ。しかし、解析ソフトなどいまやどこのメーカーも使っている。重要なのは、そのACEテクノロジーとやらが果たしてどのような意味を持つのか。従来のものとどう違うのか。新生SLR01に一体どれほどの進化をもたらしたのか、である。
「34000回もの解析を繰り返し」筆者のような素人には、その “34000” という数字が多いのか少ないのかすら分からないが、しかし重要なのは回数ではなく内容ではないか。そんな気がしていた。アホな脳みそで何万回計算してもアホな答えが出てくるだけ。そんなことを考えていたら、奇しくも同じ疑問をBMCのエンジニアにぶつけた人物がいた。メディアの方々がプレゼンテーションの内容をそのまま文章に起こす作業に勤しまれているなか、“34000” という数字に惑わされることなく、唯一マトモな質問をされていた方である。インペックの記事を執筆する際に、筆者に貴重な情報を与えてくれた人でもある。広報資料や他の記事をいくら読んでも何も見えてこないので、詳しい話を聞きに行った。以下は、その方の話の内容に基づいた考察である。
一般的に、ロードフレームのFEM解析は 「こういうカタチにしよう」 という先行概念があり、デザイナーが起こしたフレームデザインにカーボンレイアップを後付けしていく。「この形じゃダメだ」 となったら盛る・削るを繰り返す。よって、出来上がるフレームの姿は 「既に作られていたカタチ」 にどうしても影響を受ける。「設計が途中から始まっている」 「人のアイディアが息づいている」 とも言える。
今回のSLR01は、先行概念を設けず、専用ソフトで白紙状態から作り上げたフレームなのだという。「こういうカタチのフレームはどうだろう?」 というアイディアを基にFEMを使って辻褄を合わせていくという従来の解析方法とは、意味合いが全く違うらしい。
そして、やはり重要なのは回数ではなく、アルゴリズム (計算方式) だった。解析の方法そのものが特殊で、膨大な数の候補を戦わせて優劣を決しながら絞っていくというピラミッド方式なのだという。レベルの低い候補たちを振るい落としていきながら、性能が34000分の1の頂点 (剛性・重量・快適性がバランスする最高地点) を目指してだんだんと収斂していくのだ。しかしBMCが採用したこのアルゴリズムだと、答えが最後に一つになることはないらしい。常にどこかを変更したライバルを出現させ、それと比較する方法で検討が行われるからである。これでは計算が永久に終わらないように思えるが、使えるカーボンのグレードやユーザーが求める性能レベル、UCIルールなどの制約条件があるため、最終的には、フレーム2パターン、フォーク2パターン、シートピラー2パターンが残ったところで解析を終了、これらの組み合わせ (2×2×2で全8パターン) をBMCレーシングのエバンスやジルベールらにテストさせ、最終的に最も優れている組み合わせで商品化したのである。話を聞く限り、この8パターンのファイナルサンプルの性能はかなり近いところにあったのではないかと思う。

要するに、「 “700Cロードフレームのカタチを維持する”、“UCIルールから逸脱しない” という最低限の制約以外に形状条件を設定せず、常にライバルを出現させて性能を競わせていく」 という解析方法こそがキモなのだ。それにしちゃフレームのカタチが前作に酷似しているのはなぜなんだ?と言いたくなるが、これは 「良し悪しの判断が必要とされる分岐点では、BMCが良しとする方向が選択されたのではないか」 とのこと。エンジニアは、「他メーカーでは、常にライバルを出現させるというこの演算方式の真似ができない。計算方法そのものも見つからないはずだ」 と胸を張っていたらしい。
こんな話を聞くと、俄然興味がわいてくるではないか。乗らないわけにはいかない、そう思って代理店に連絡すると、時期が時期だけに試乗車は各方面に引っ張りだこだった。しかし、サイズ48の新型SLR01に乗っているスタッフがいるので、その方の私物バイクを貸してくれるという。ありがたい話である。
届いたバイクを眺めてみる。確かに前作とシルエットは似ているが、トップチューブとダウンチューブがかなり太くなっており、チェーンステーは極端なまでの左右非対称形状へと変化。細身のシートステーやコンパクトなリア三角、途中から急に絞られるフォーク、iSCスケルトンなどのBMCらしさは健在。シートチューブは半円断面をしており、よってシートピラーも専用となる。BB規格はプレスフィット。ハンドルとステムを交換するついでに、フォークをフレームから抜いてヘッド内部を見てみると、インペックと同じくらいに綺麗に仕上げられていることが分かる。
今回から、フレーム内部も検分することにした。ファイバースコープを導入したのだ (安物なので解像度が低くてすいません)。カメラをヘッドチューブからトップチューブ内へと差し込んで、フレームの内側をチェックする。トップチューブやダウンチューブ内も非常に綺麗で、バリやブラダーの残りカスなどは全くない。
SLR01の発表会ではフレームのカットサンプルが用意されていたようでメディア上に写真が出ているが、試乗車のフレーム内部をみたところ、あのカットサンプルは決して展示のために仕上げた広報用ではなかった。SLR01の内壁は本当に綺麗なのである。代理店の担当者に製法について問い合わせたところ、やはりブラダーによる加圧ではなく、固形芯材を使用しているそうだ (芯材は成型後に溶かして吸い出す)。綺麗なはずである。これは軽量化にも大きく貢献しているはずだ (フレーム単体重量はサイズ56で790g)。純スイスメイドとなるインペックとは違い、SLR01の製造は台湾で行われるのだが、大切なのは生産地ではなく、その製法と製造技術である。
二世代分の進化が見られるフォーク&ヘッド
抜いたフォークを見てまた驚かされた。フォークの肩部分が滑らかな円錐状で、鋭角に加工された部分がどこにもないのである (ディティール写真に注目してほしい)。これはおそらくカーボン繊維の流れを寸断させないためだろう。トレックがマドンを一新したときに採用したE2フォークのno90デザインと同じ手法である。
さらに、ヘッドの下側ベアリングがヘッドチューブの奥に5mmほど潜っていることも分かる。これは、ダウンチューブの延長線上にベアリングがヘッドチューブ内側に当たるポイントを持ってきて、ヘッド剛性を上げるためだと推測する。数年前にスペシャライズドがターマックSL2で採用した設計と同じだ。
BMCは、ヘッド内側という目立たないところで、フォークのクラウン部を滑らかにしてカーボン繊維の性能を目一杯引き出すと同時に、ヘッド下側ベアリングをヘッド内部に押し込んでベアリング位置とダウンチューブ接合部の位置を一致させ、重量を増すことなく構造を強化、ヘッド周辺の基本剛性を上げてきたのだ。これは走らせた印象ともピタリと一致する。細いフォークブレードの先端は明確に動く。しかし、一通りしなったあとはガッチリと耐え、大きな入力にもびくともしなくなるのだ。だから、明らかにしなやかで快適なのに、どんなに荒れた路面でもタイトなコーナーでも臆することなく突っ込める。フォーク先端を意図的に動かしつつ、基幹の部分は強靭に作っているのである。
ちなみに、旧型SLR01のフォークは通常通りクラウン部に水平部分があり、そこに下玉押しが圧入され、ヘッドチューブ下端に挿入されたベアリングに押し付けられている。下玉押し一体成型ですらないのだ。BMCはなぜかこの新型フォークを宣伝に使っていないようだが、実は二世代分の大幅進化が見て取れる部分である。
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