JAMISのイメージを覆す「3度目のゼニス」 vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

JAMISのイメージを覆す「3度目のゼニス」 vol.2

オピニオン インプレ
冷静に考えれば驚くべき存在かもしれない

Vol.36で乗ったゼニスのピーキーさに比べてハンドリングが普通になっていてびっくりしたが、なんのことはない、サイズの関係でヘッド角が0.5度寝ていただけのことだった (サイズ48:72.5度、サイズ51:73度)。しかしシート角は73度を保っており、スモールサイズだからといって見てくれのトップチューブ長を短くしていないところには好感が持てる。しかしフロントセンター (BB〜フロントハブ間の距離) はかなり短くなっており、低速で大きくステアするときは注意する必要がある (バイク写真のクランク〜フロントホイールの間隔を見ればよく分かる。ほぼ同じサイズのLOOK 585やBH G4、リドレー・ダモクレスなどと比べてみてほしい)。
フォークの剛性にも不満は全くない。ブレーキングもハンドリングも、どこまで攻め込んでも不安になることは皆無だった。

もう一つ驚いたのは、ダウンヒルがやたらと速いことである。下りの緩斜面でアウター×トップを踏んでいるとどんどんとスピードが乗り、気付けば怖いほどの速度になっていることが何度もあった。こんなことを思わせたバイクはこれが始めてだ。思わず、「広報チューン (=セラミックベアリング化) しましたか?」 とK氏に聞いたほど。実はリアホイールだけCULT化してあるそうだが、リアホイールのみのセラミックベアリング化がそれほどまでの体感に繋がるかと言えば疑問である。僕が超敏感な感覚の持ち主だったと仮定して、フレーム特性半分、CULT効果半分といったところか。
しかし、850gという市場最高クラスの軽さを持ちながら、ダウンヒルなどではそれを全く感じさせないスタビリティがあるのは驚くに値する。同じロードバイクという乗り物に同じ人間が乗って重心高がそれほど変わるはずもないが、重心が低く感じるのは確かだし、トラクションもよくかかっている。フォーク〜ヘッドの剛性がしっかりしているおかげもあるだろう。ホイールベースが短いにも関わらず、安心してガンガンに攻められる。
この軽量性にしてこの安定感、この剛性にしてこのフレームバランス、そしてこのスペックにしてこの価格。地味なブランドイメージが故に目立つモデルではないかもしれないが、ゼニスSLというバイクは、冷静に考えれば結構凄い存在である。名だたるヨーロッパ勢が真っ青になりかねない。

代償なしに入手する快楽は果たして本当の快楽か

乗り心地は硬い。超絶滑らかなサーベロ・R3-SLの直後ということもあるだろうが、路面の状況を乗り手につぶさに伝えてくるし、大きな凹凸はカーンと弾く。適度にピリピリとした緊張感もある。しかし僕はそれを、あえてメリットとしたいと思った。ゼニスの走りっぷりからは、そんな欠点と引き換えにしたような、「強情さ」 とか 「抑揚」 のようなものが感じられたからだ。
最新の万能バイクは 「人間には〜する能力がない」 ことを前提として作られているように感じるのは、僕の個人的趣向によるものか。
「この乗り手には長距離を走る能力がない。だからしなやかなフレームでもって優しくサポートしなければ」 「この乗り手は衝撃に耐える強い身体を持たない。だから振動を吸収しなければ」 「この乗り手はコントロールする能力にも長けていない。だから安定性を強く、コントロールしやすくあらねば」…
結果、電子制御の塊と化した現代の自動車のように、完全無欠だが面白みの無いバイクが溢れる。それを否定するものではないが、そんなバイクばかりになった未来を想像すると、僕はあまりいい気分にはなれない。リスクと同時に操縦する快楽をも排除してしまっていいのか、と。代償なしに入手する快楽は果たして本当の快楽と言えるのか、と。

一方で、喜ばしいことに、もちろん 「あなたには〜する能力がある!」 と言ってくれるようなバイクがある。ターマックSL2然り、マドン6.9然り、プリンスやFP7、585だってそうだ。それは完成度が低いことと同義ではない。
擬人化してバイクに喋らせてみれば、「疲労やリスク回避などはそちらで何とかしなさい。そのかわり私は目が覚めるような加速 (もしくは鮮やかなヒルクライム、もしくは鋭いコーナリング…etc) をしてあげましょう」 とか、もしくは 「あなたはロードバイクで走るという行為から極めて純粋な快楽を引き出し得る乗り手である。だから私は愉しく走れる自転車でいよう。多少じゃじゃ馬的かもしれないけれど」 といった具合に。ある種の (乗り手の独りよがりな、そしてアマチュア特有の) ヒロイズムも絡んでいるのかもしれないが、だからこそ僕は、586ではなく585を買ったのだった。
ゼニスSLも、然り。じゃじゃ馬的とまではいえないにしても、ゼニスSLは 「あなたには〜する能力がある!」 と言ってくれるバイクにカテゴライズできるものだと感じた。人間の欠点を埋めるのではなく、持っている能力を伸ばすような走りをしてくれる種のバイクだった。エンジニアが意図してそうなったのではないにしても。
とはいっても、非常に抽象的な表現を承知で言えば、ゼニスSLにはどこかに人間くささと大らかさがあるとも感じたのだから複雑だ。前半で褒めすぎたのであえて毒を吐くと、突き抜けきれてもいないし、洗練されているとも言いがたい。 よって、「あなたには〜する能力がある!」 側のバイクかもしれないが、ワケが分からないままハイになってしまうようなアッパー系のプレゼンスを持ったライバル達と比べると、自分から主張することは少ないかもしれない。しかし、そこに格別のドラマはないにしても操る喜びはしっかりと残されており、性能的にも十分すぎるほどに満足できるものだった。価格を考えればなおさら。
ロードバイクという機材に対して、単に 「最小の身体エネルギーで最大のスピードと移動距離を得る」 という目的への達成度のみで評価を終わらせるべきではない、ということが、最近やっと分かってきた。理想的性能を全て兼ね備えているからといって気持ちいいとは限らないし、それが 「好きなバイク・いいバイク」 と同義ではない。
「いいバイクじゃないか」
だから、ゼニスSLから降りたとき、改めてそう思った。ジェイミスというブランドに対するイメージが、身体レベルで変わった。
《編集部》
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