
今季初勝利を飾り、現時点(6月29日時点)で賞金ランキング3位につけている22歳の金子駆大は、安定感が抜群。9試合でトップ10が4回。トップ20に8回入っている。
金子はショットも小技もパットも高水準で穴がない。9つの部門を換算したオールアラウンドランキングは2位だ。
パーオン率が14位でトータルドライビングが24位。その2つを換算したボールコントロールが11位となっている。
高いショット精度を発揮している金子のスイングを見ると、バックスイングが特徴的。
“あっち向いてホイ”のように顔を右に向けながらバックスイングしている。その動きと米ツアー挑戦を睨んだショートウッドの採用について触れてみたい。
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■顔の向きが大きく変わるバックスイング
バックスイングでの体とクラブの同調は一般的に重要視されているが、金子のバックスイングは顔が手とセットで動くような感じになっており、顔と体とクラブが同調している。
バックスイングで顔の向きを固めたまま体幹を回旋させようとすると、早い段階でつっかかりが生まれ詰まる。だからトップの位置までクラブを持っていこうとした時に、上体の起き上がりや肩の挙上などの代償動作が入り、バランスが崩れやすくなる。
金子のバックスイングでの顔の動きは骨格に逆らっていない動き。
詰まりなくトップの位置までクラブを持っていくことができる。顔の向きを変えることで、肩と顔の距離が保たれ、背骨の傾き度合いが維持しやすくなるのだ。
どの程度顔を右に向けているかというと、(ドライバーショット時)視界からボールが消えるかどうか、といった感じ。
本人は意識してこの動きを取り入れたわけではないようで、ジュニア時代からゴルフをしていく中で、気がついたらバックスイングで顔の向きが大きく変わるようになっていたようだ。
バックスイングからダウンスイングへの切り返しはどうなっているか。顔は右向きのままである。
顔が右を向いたまま、左足に体重移動させる。その後体幹の回旋に導かれるように顔が左(ターゲット方向)へ向いていく。
金子はこの流れでスイングすることで、インパクトで力を余すことなくボールに伝えることができているようだ。
■ショートウッドを採用
金子のクラブセッティングを見るとショートウッドを入れている。
男子選手はウッドは5番までで、その下はユーティリティーを入れている選手が多いが、金子は7番ウッドや9番ウッドを入れている。
初優勝をあげた5月の関西オープンではウッドの最も下の番手は7番だったが、6月のJAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP by サトウ食品では、9番を入れたようだ。
中西直人のYOUTUBEチャンネルでは、金子らとの同大会練習ラウンドの様子を映した動画が公開されている。そこで金子は9番ウッドを入れることについて「4番アイアンは球が止まりにくい。将来的に海外ツアー挑戦を考えた時に、4番アイアンと同じぐらいの飛距離でありながら、より球が止まりやすい9番ウッドを使う必要があるのではと思っている」と話している。
意外に感じる人がいるかもしれない。アイアンよりもウッドの方が球が止まりやすいのである。
多くのツアー選手が使用している弾道測定器トラックマンの公式サイトには、米ツアー選手の平均データが公開されている。
それによると、キャリー距離236ヤードの5番ウッドのスピン量が4322rpmで落下角度が48度。キャリー距離218ヤードの3番アイアンのスピン量が4404rpmで落下角度が48度。
5番ウッドは3番アイアンよりも約20ヤード飛んでいるにも関わらず、スピン量と落下角度がほぼ同じ。同程度の止まり具合なのだ。
3番アイアンと同程度の飛距離のウッドは、5番ウッドよりもスピン量が多く落下角度が大きくなるため、3番アイアンよりも球が止まりやすい。4番アイアンと同程度の飛距離のウッドも同じことが言えることから、金子は上記のような思いを持つようになったのである。
■大学を経ていればルーキーイヤーの年
金子は20年の10月にプロに転向した。22年の中日クラウンズでは首位タイで決勝ラウンドに進んだ。23年は賞金ランキング54位で初シード。昨季が2位(タイ含)2回で賞金ランキング14位。
そして、仮に大学に進学し卒業後プロ入りしていれば、ルーキーイヤーになっていた今シーズン、初優勝を飾った。
上位に顔を出し始めてから時が経っているため印象がぼやけるが、大学に進学していれば4年だった昨季の2位や、今季の優勝は快挙である。
男子ゴルフ界のスター候補がどこまで進化を遂げるのか、要注目だ。
ちなみに、金子のバックスイングは真似してみる価値がある。ボールを凝視し過ぎて身体、腕、クラブの連動がうまくいっていないゴルファーは、ボールを凝視していられないバックスイングによって力みが取れて、その連動がうまくいくきっかけを掴めるかもしれない。
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著者プロフィール
野洲明●ゴルフ活動家
各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。