【空手】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 後編 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【空手】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 後編

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【空手】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 後編
  • 【空手】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 後編

史上唯一の世界選手権4連覇を果たした喜友名諒が競技からの引退を決めた。

世の中に「喜友名」の名をもっとも轟かせた大会は間違いなく東京五輪だろう。

◆【前編】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 

■五輪で礼節を重んじる心を体現

何度も世界の舞台で頂点を競い合ってきたライバルのダミアン・キンテロ(スペイン)と対戦した決勝では、劉衛流の形の中でも難易度が高いオーハンダイを披露。劉衛流の極意である「一足二拳」の間合いで鋭い突きや蹴りを次々と繰り出し、無駄の無い所作と合間に発する気合いの声で見るものを圧倒した。眉間に深い皺を寄せ、試合中に仮想の敵を捉える喜友名の大きな瞳は、コート上で「いつもの風景」を見ていたという。

◆「沖縄の子供たちにも夢を」喜友名諒が圧倒的強さで金メダル 新種目初代王者に

「新と拓也が横にいて、前に佐久本先生が座っている風景が見えながらコートで演武ができたので、全員で戦えた大会でした。会場では清水先生も解説をしていて、特別な舞台ではあったんですけど、いつも通りのイメージで形を打てました。それまでにないほど、感謝の気持ちを込めて形を打った大会でした」

稽古中も本番と変わらない迫力をまとう喜友名諒 撮影:長嶺真輝

演武終了後の行動も喜友名らしかった。主審の手が喜友名側に上がり、優勝が決まったが、演武中のような厳しい表情は崩さない。「ダミアン選手への敬意を払うため」だったという。さらにコート中央に歩を進め、正座して姿勢を正すと、中央に向かって深々と頭を下げた。

驕らず、昂らず、最後まで礼節や敬意の心を大事にする王者の姿に、SNSなどでは「武道の精神の素晴らしさを世界に伝えた」「相手を敬う精神を忘れない」など称賛の声が相次ぎ、世界中に感動を与えた。

約450年続いた琉球王国の時代に生まれた空手は護身術として研鑽されたため、稽古を通して自らと向き合い、忍耐力や体力、精神力を磨くことが最大の目的だった。「礼に始まり、礼に終わる」「空手に先手なし」などの金言が残るのもそのためだ。喜友名はオリンピックという大舞台でも、いつもと変わらず、先人から伝承された礼節を重んじる心を体現したのだった。

■「文化」を継承 指導者として新たな道へ

佐久本氏が「まだやれば勝つことはできる」と断言する通り、喜友名の演武の迫力や切れに衰えはまったく見られない。それでも競技を引退する理由がもう一つある。技の継承と後進の育成だ。

引退を決めた空手形日本代表の(左から)喜友名諒、金城新、上村拓也 撮影:長嶺真輝

名手の一人で、指導者でもあった船越義珍氏が1922年に史上初めて沖縄県外で空手の演武をしてから昨年で100年が経過し、今や国内、そして世界中に1億人以上の愛好家がいるとされる。学校で体育の授業に導入されたり、競技化が進んだりしたことで普及が進んだが、発祥の地である沖縄では今も数多くの流派が共存し、伝統的な型(競技では「形」、伝統空手では「型」と表現することが多い)を継承している。

沖縄の空手は、その特徴や伝承地域などから「首里手」「那覇手」「泊手」「上地流」の4つの系統に大別される。那覇手の流れを汲む劉衛流は久米村(現那覇市)出身の仲井真憲里氏(1819-1879年)が中国から沖縄に持ち帰った技を継ぐ流派であり、200年近い歴史を持つ。同様にいずれの流派も悠久の歴史を持ち、どこまでも精神性を重んじる武道であることも相まって、空手は勝敗を決する一つの「スポーツ」でありながら、保存、継承していく「文化」という側面も極めて強い。

喜友名も会見で「先生方、先輩方が劉衛流の技を継いできてくれたおかげで、自分もこうやって学び、鍛錬し、大会の場で表現することができました。自分もこの技をしっかりと次世代の子どもたちに継いでいけるように、まだまだ稽古に励んでいきたいと思っています」と語り、継承していくことに対する強い責任感と自覚をのぞかせた。金城、上村も含め、今後は3人とも指導者としての道を歩んでいく。 王者の風格が漂う洗練された技だけでなく、空手の神髄を極めていく中で培った人間力の高さも備える喜友名。「沖縄の空手に興味を持つ海外選手も多くいて、文化や礼儀作法を学ぶために沖縄を訪れる人もいます。空手という一つの枠で世界中と繋がれるのはすごいことだと感じます。まだまだ自分たちの技を研究しながら、下の世代に繋いでいければいいなと思っています」。発祥の地に深く根を張りながら、技に込められた意味を探究し、継承をしていく一空手家としての道に終わりはない。

◆【前編】電撃引退した形の“絶対王者”喜友名諒 会見でにじんだ高い「人間力」 

◆空手の絶対王者・喜友名諒を生んだ沖縄 「発祥の地」強さの秘密は

著者プロフィール

長嶺真輝●沖縄のスポーツライター

沖縄県の地方紙『琉球新報』の元記者。Bリーグの琉球ゴールデンキングスや東京五輪などを担当。現在はフリーのライターとして、スポーツを中心に沖縄から情報発信を続ける。生まれは東京だが、人生の半分を沖縄で過ごし都会暮らしが無理な体になっている。

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