【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 後編 「すべての人がいきいきと暮らせる社会の実現」を目指す | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 後編 「すべての人がいきいきと暮らせる社会の実現」を目指す

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【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 後編 「すべての人がいきいきと暮らせる社会の実現」を目指す
  • 【スポーツビジネスを読む】男子の魅力を伝える一般社団法人日本ゴルフツアー機構・青木功会長 後編 「すべての人がいきいきと暮らせる社会の実現」を目指す

一般社団法人日本ゴルフツアー機構JGTO)が主催する「For The Players By The Players」は6日から9日まで「ステーブルフォード方式」を採用し、群馬県「THE RAYSUM」で初開催、男子ゴルフならでは攻めのプレーが展開された。これにより地元・群馬出身、小林伸太郎がデビュー14年目にして悲願のタイトルを手にし、JGTOは一定の成果を収めた形だ。

しかし、もちろんJGTOもこの大会実施まで無策で指をくわえていたわけではない。同機構が主催する下部トーナメント「ABEMAツアー」もそのひとつだ。JGTOはその発足以来、独自に「JGTOチャレンジトーナメント」を年に15試合程度を開催してきた経緯がある。さらに広告代理店・株式会社サイバーエージェントが2016年に開局したインターネットテレビABEMAが18年からスポンサーとなり、名称も「ABEMAツアー」となった。

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■ABEMAツアーが促進する世代交代

本ツアーの賞金ランキング1位など成績優秀者は翌年のレギュラーツアーへの優先権が与えられる点、以前と仕組みはほぼ変わりはない。しかし、若年層をターゲットに展開する「放送局」ABEMAは、積極的にこのツアーをオンエア。レギュラーツアーのデビュー前からメディアミックスに駆り出されることで、選手もプロとしての意識が培われるという相乗効果を生み出している。

この日もブースを展開していたABEMA  撮影:SPREAD編集部

青木功JGTO会長も「以前は、チャレンジトーナメントから(レギュラーツアーに)上がってきても(実力を発揮するまでに)ちょっと時間がかかった。それがABEMAツアーに変わってからは、すぐに活躍する。ABEMAに入ってもらい、トーナメント設定になっている効果かもしれない。これはABEMAのおかげ」とスポンサーの協力体制を称賛する。

メディアによる全試合サポートは、選手全員がおのずとメディアに触れる機会も与えている。それまでのチャレンジトーナメントにおいて選手の取材は限られていたものの、現在ではABEMAがほぼ全員をインタビューする状況。「インタビューの受け答えを重ねてるから、考え方もしっかりしてきた。メディアの受け答え、ファンへの受け答えの練習にもなるよね。その影響で、早い時期から選手にもプロの意識が芽生える」とのこと。「THE RAYSUM」ではクラブハウスのエントランスホールにはABEMAブースが設置され、中継を行っていた。このブースからお声がかかると「若い選手が、みんなホームに帰ってきたかのようにしゃべってますよ。(ABEMAツアーの)おかげで、もう今、世代が変わってきている。もう数年で世代交代が訪れるよ」と若手の成長ぶりに目を細めた。

昭和の時代、プロゴルファーと言えば、いかに「タニマチ」を囲い込むか、プレーとは別に大命題だった。令和の今日、それはもちろん時代錯誤。いまは他スポーツ同様、選手自身もファンを獲得する時代へと変わっている。ゆえに選手自身によるSNS発信も活発だ。

また、選手にとって直接ファン開拓の契機となっているのが「ゴルフパートナーPRO-AMトーナメント」。ゴルフ用品チェーンの株式会社ゴルフパートナーが展開する日本初の「プロアマスタイル」の男子レギュラートーナメントだ。全国で開催するアマチュア予選会を突破したアマチュアゴルファーが、翌年開催されるレギュラートーナメント本戦の出場資格を得るチャンスが与えられる大会。昨年は約2500人のゴルファーが参加し、予選会を勝ち抜いた300人のアマチュアが今年の本戦でプロとプレーした。

「プロアマ」というと、これまではどうしてもスポンサーが大会の中で開催し、B to Bとしてスポンサーの顧客を呼び、歓心を得るという側面がクローズアップされてきた。しかし、ゴルフパートナーというB to Cを市場を知るスポンサーの着地により、法人だけでなく一般も参加できるプロアマが登場、ファンの裾野を広げる効果をもたらしている。

この取り組みについても、会長は「選手たちがお客さんと直接触れ合うことができるテストだった。選手たちと一般のゴルファーはふだん接点がない。でも、一般のゴルファーが予選から勝ち抜いて1日、2日は選手とプレーすると、一緒にまわった選手を一生応援し続ける。これはプライスレスですよ。ゴルフパートナーのお客さんが、毎年これに出場するのを楽しみにしているという構図が生み出されている。こうなるとスポンサーさんとしても、打ち切るのは難しくなってくる。こうしてサステナブルな大会を構築していくのが我々の目的」とプロアマ大会の存在意義をさらに高めていく方針だ。わずか数百人のアマチュアゴルファーが参加するだけと、決してマス戦略ではない。しかし「これは地道だけども、こうした場を増やしていき、男子ゴルフの底上げをしていこうと思う」と、ファン獲得への手を緩めない。

撮影:SPREAD編集部

スポンサーの経営状況に振り回されないJGTO主催大会も実施しつつ、スポンサーの意向をくみ取った大会もしっかり遂行する。「そのコンビネーションでトーナメントの市場を大きくしていく形を作らないといけない」と、その戦略を明らかにする。

もちろん、JGTOは下部ツアーやプロアマなどという既存のフォーマットの遂行のみに満足しているわけではない。ABEMAに代表されるよう、男子ゴルフツアーの新しい「見せ方」には、どんどん挑戦していく方針だ。

■テクノロジーを使ったゴルフの新しい見せ方にも挑戦

テレビ局が生中継ではなく、ディレーで放送するというのが、ゴルフ視聴の昭和の常識だった。しかしネット時代の到来により、いくら中継をディレーにしてもネットニュースで先んじて結果もスコアも情報収集されてしまう。ディレー中継を中心に据える発想はもはやない。局側もあの手この手で対応中だ。NHKはトップトレーサーなどのトラッキングシステムを導入、ゴルフの見せ方にさらなるテコ入れを図り、KBCは360度カメラを設置し絵作りに工夫を凝らしている。本大会もドローン撮影を駆使するなど、新たな見せ方の追求はやまない。アメリカのツアーのようにトラックマンなど最新テクノロジーを活用した見せ方ももちろん模索中だ。「男子ゴルフのすごさがわかるので、数値、データなどはもっと積極的に開示すべきだと思う」とその意図を明かす。

自然豊かなTHE RAYSUMにも全英オープンのような最新スコアボードがあれば… 撮影:SPREAD編集部

青木会長自身、全英オープンには毎年足を運んでいるため、NTTデータが現地で導入しているインタラクティブなスコアボードは、ぜひJGTOでも導入したいとは考えている。全英オープンのアプリでは、全ホールの全ショットが再生可能なアプリまで配布。コースだけではなく、練習場でどの選手が何ヤードのショットを放ったかまでもが、即座に把握でき、再生可能だという。「さすがに導入には予算が必要でしょうから、そうしたシステム専門のスポンサーに協力してもらえると助かる」と、こればかりは自前で実現しようがない点は承知の上だ。会長自身、IT企業に足を運んで頭を下げるも、まだ実現できないもどかしさを痛感している。

今年10月からJリーグ、Bリーグは1試合ごとの予想スポーツくじ「WINNER」に参入。この売上は、クラブや表舞台に立たない裏方をサポートする意図もある。「キャディーさんを支援するとか、裏方さんにも還元されるなら、検討しないと」と語る。JGTOは、いくつかの大会ではファンタシー・スポーツも実施済み。NFTなど最新テクノロジーについても、積極的に取り込んでいく方針だ。

青木会長は最後に、今回の初開催を振り返り「For The Players By The Playersというスポーツイベントのプラットフォームを通じて、持続可能な社会の実現につながる前向きな変化を生み出したいんだよ。Players とは、プロゴルファー、すべてのゴルファー、参加いただくすべてのみなさん。この大会を今後、次世代の選手が生まれ、世界で活躍する日本の選手が育つ機会、そして社会の進化の機会にしていく。すべての人がいきいきと暮らせる社会の実現につなげていくことを目指したいね」と締めくくった。

新型コロナは、ゴルフ界に明確な危機をもたらしたことに違いはない。しかし、危機の到来こそが飛躍へのチャンスである点、JGTOは正面から受け止め、日本男子ゴルフの将来を真摯に模索している。

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

《SPREAD》
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