【車いすテニス】小田凱人がプロ宣言、「人生を懸けたい」と見据える地平線の向こう | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【車いすテニス】小田凱人がプロ宣言、「人生を懸けたい」と見据える地平線の向こう

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【車いすテニス】小田凱人がプロ宣言、「人生を懸けたい」と見据える地平線の向こう
  • 【車いすテニス】小田凱人がプロ宣言、「人生を懸けたい」と見据える地平線の向こう

小田凱人(おだ・ときと)が新たな出発を決意した。

史上最年少 世界シニアランキング1位」を目指し、15歳11カ月20日でプロとして活動することを宣言した。現在の最年少記録は世界No.1のアルフィー・ヒューエット(イギリス)が持つ20歳1カ月23日。その記録を破るため「本気でテニスに向き合い、人生を懸けたい」と決意を固めた。

プロ車いすテニスプレイヤー」、これが15歳の小田の肩書(職業)となる。

その出発に「目標や憧れにしている選手はいない」と腹をくくった青年は、9歳で骨肉腫を患い、国枝慎吾の試合を見て車いすテニスを選んだ。かつて尊敬していた選手たちも今となっては、トップを競うライバルたち。

14歳11カ月で史上最年少ジュニア世界No.1の記録を打ち出した1年後、小田は報道陣を前に背筋を伸ばし「これからは選手として日本のパラスポーツを盛り上げ、障害のある子どもたちでも活躍できるような世の中を作っていけるようになりたい。そして今、病気と闘っている子ども達のヒーロー的な存在になれるように頑張っていきたいです」と自らが描くビジョンを口にした。

使命感を吐露するように紡いでいく言葉の合間に、これまでの道のりを追想した瞬間はあったのだろうか。行く末は自身が入院していた名古屋の病院を訪問し、多くの人たちとテニスコートで交流を図りたいと計画しているという。それは幼い頃に骨肉腫という逆境を乗り越え夢へと向かって来た小田にとって「世界トップに立つために必要なこと」と語った。

◆シニアにステップアップ 四大大会に挑む小田凱人にかかる期待

■「最年少記録をどんどん更新したい」

つい3月の取材時にはプロ転向に対して「遠くもないし近くもない。僕にとってのプロはしっかり稼いで1人で全部やっていけることです」と、まだ少し先の目標であるかのように語っていた。だが今思えば、自身の気持ちを整理しながらタイミングを常に探っていたのだ。

テニスを始めた時からプロになりたいと夢見ていた」と、その想いが現実味を帯びだしたのは昨春のトルコ遠征でのこと。彼にとってはシニア大会で海外へと渡り始めた頃だ。ジュニアとシニアの試合をかけ持ちながら、双方ともに3大会連続優勝という快挙は成し遂げた。それ事実は小田に新たな自信を植え付けた。

翌大会となったケマル・シャヒンオープンで対戦したのは、車いすテニス大国オランダのトム・エフブリンク。数多くのタイトルを誇り、フォアのパワーショットを持ち味に世界トップ10入りしている強豪だ。その相手に対し決勝という舞台で接戦の末に勝利を収めたことが、トップへ駆け上がる糸口となったという。「エフブリンクとの試合から自分でも海外で通用すると気付き始め、それは確信へと変わっていきました」。小田は、昨夏の東京パラリンピックで銀メダリに輝いたエフブリンクを相手に今季2連勝を収め、その確信をさらに強固するに至った。

トム・エフブリンクに勝利した小田凱人選手(写真:本人提供)

そして世界1位のヒューエット(イギリス)や東京パラリンピック金メダリストの国枝慎吾と競り合った試合が、自身の現在位置を知る良い指標となった。

この結果から今春には所属契約やウエア、ラケットの用具など多くのスポンサーを獲得しサポート体制が整い始めた。3月には義務教育である中学を卒業し、テニスに重きを置く為に通信制高校へ入学。忙しい遠征生活のなかでも競技と勉学のバランスがコントロールしやすい環境を選んだ。それに加え、これまでに週3〜4回のレッスン指導を受けてきた熊田浩也さんが4月から専任コーチとなることが決定、試合への帯同も可能になったことから、さらなる競技力向上が期待できることとなった。

その現状を踏まえ、目指す史上最年少世界No.1までの道程を逆算し、約4年を要すると見据えた結果、「今だ」とプロ転向に踏み切ったのだ。

会見後には史上最年少で選ばれたBNP・パリバ・ワールドチームカップの男子日本代表選手としてポルトガルへ出発。5月31日からは初の四大大会となる全仏オープンが待っている。「まずは日本チームの勝利に貢献できるように頑張ります。15歳でプロ転向することにネガティブな気持ちはなく、どんどん最年少記録を更新していきたいです」、そう話す若き挑戦者の目は鋭く輝き、プロとして新たな地平線を見据えているように思えた。

◆車いすテニス界の新星、小田凱人が目指すは絶対王者・国枝慎吾、そしてパリ五輪金メダル

◆小さな巨人・西岡良仁がつかんだ「負けないテニス」からの復調

◆東京五輪金メダリストをゲーム・マネジメントで上回ってみせた大坂なおみ、決勝進出は復活の序章となるのか

著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。

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