【モータースポーツ】コロナ禍に翻弄される日本レース界とスポーツブランド復活の狼煙 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【モータースポーツ】コロナ禍に翻弄される日本レース界とスポーツブランド復活の狼煙

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【モータースポーツ】コロナ禍に翻弄される日本レース界とスポーツブランド復活の狼煙
  • 【モータースポーツ】コロナ禍に翻弄される日本レース界とスポーツブランド復活の狼煙

日本において最もモータースポーツが華やかだった時代は、1980年代後半から90年代にかけて。F1で日本人ドライバーが活躍し、WRCでは日本メーカーのクルマが躍進した。


日本国内でも市販車に直結するラリーや同一車種のみで競われるワンメイクレース(共に「ストリートチューン」にイメージが落とし込みがしやすい)は、アフターマーケットにおけるパーツやアクセサリー販売での収益づくりのバックグラウンドともなり、自動車メーカー傘下にモータースポーツブランドを設立し強化していった。


開発部門が発展したもの、宣伝部門のカラーが強いもの、あるいは純粋に社外組織のものと成り立ちも様々なそれらは、各メーカーのワークスモータースポーツの代名詞ともなり、一般ユーザーにも浸透した。モータースポーツは今よりもっと身近な存在だった。


時は流れて2021年、そんな90年代から続く「ワークスチューニンググループ」と呼ばれるメーカー系スポーツブランドからマツダマツダスピード)と三菱(ラリーアート)が事業停止から共に脱退しており、トヨタ(TRD)、日産(NISMO)、スバル(STI)、ホンダ(M-TECH=無限)の4社が活動を継続している。


ここにきて三菱ラリーアートが復活の動きを見せ始め、今後の展開が注目されるところだ。モータースポーツが一般メディアで取り上げられる機会も少なくなった現在、自動車メーカー各社がどのように自社スポーツブランドを活用しているか、改めて観察してみたい。


■「Gazoo Racing」を展開するトヨタ、日産やスバルは……


唯一国内でも気を吐いていると言っていいのがトヨタだろう。2015年からは「Toyota Gazoo Racing」の呼称での展開を開始し、なおかつ従来からのTRDやトヨタとの結びつきの古いチューナーのブランドも活用している。


世界ラリー選手権(WRC)でのヤリスの活躍や国内モータースポーツへの投資も積極的だ。GRブランドでの市販車や各地のトヨタディーラーが運営する「GR Garage」も、その下支えとなっているだろう。WRCでの強さ、ル・マン24時間レースでの4連覇などなど話題に事欠かなく、少なくとも当面は日本のモータースポーツ市場もトヨタがリードするはずだ。


2021年ル・マン24時間レースにてトヨタの4連覇を果たした7号車トヨタGR010 HYBRID(C)toyota gazoo racing


余談にはなるがトヨタの現在の取り組みは、かつての三菱のそれに良く似ているのも面白い。本体の活動としてのGazoo Racingの呼称を各国で理のあるチームにも名乗らせてネットワークを作る、若手日本人ドライバーが世界で戦える育成プログラムを実施する、ファンベースとなるイベントや店舗を展開するといったところがだ。もっとも予算規模は格段にトヨタの方が上だろうが。


NISMO(ニスモ)擁する日産、STI(スバルテクニカインターナショナル)を擁するスバルに目を移してみよう。


かつての主戦場(ツーリングカーレースやラリー)の縮小・停滞、あるいはそこからの転進で、最近のモータースポーツの実戦では両社とも日産、あるいはスバルと本体の会社名の方が前に出ている印象だ。それが本来のワークスモータースポーツの姿だと言うこともできるが…


実戦に向けた研究・開発ではNISMOやSTIに負うところも小さくはないだろうが、現状ではNISMOもSTIも実戦部隊の名称としてではなく高性能ロードカーブランドのイメージが強くなっている。もちろんモータースポーツ活動を継続しているからこそであることに間違いはないし、量販車への技術還元によるメーカーチューンの普及、カスタマイズの一般化ということにおいて業界・ジャンルのメリットは長い目で見て大きいだろう。


■独特な立ち位置のホンダ


ホンダの立ち位置は独特だ。「無限」はホンダ系ブランドではあるが傘下ではない。もちろん無限の設立から密接な協力関係にはある。かつては、ホンダV10をベースとしたエンジンでF1に関与していた時期もある。


現在は無限ブランドを別会社のサプライヤーが許諾を得て使用しているが、ホンダ車向け機能系パーツでは第一人者であることに変わりはない。


ホンダの本体(むしろ「本隊」か)はF1からの撤退が決まっており、電動化を強力に推進するため大胆な車種整理も進行中だ。そのような状況でパフォーマンス重視のホンダ系ブランド・無限が今後どのように存在感を示すかに注目したい。


■復活の兆しを見せる三菱とマツダは


三菱は2010年に業務を停止した「ラリーアート」の用品ブランドとしての復活を2021年5月に発表している。だが、かつての栄光に依拠しただけのブランドにしてはいけない。どんな分野でもブランドとはバックグラウンドがあってこそ市場に認められるものだからだ。最新の実戦からでも5年以上のブランクのある三菱には困難もあろうが、たとえ小さくともモータースポーツの実戦復帰を伴ってのブランドの再確立を望みたい。


また取り上げる自動車メーカーの中で、三菱だけが過去の人気車種の「パーツ復刻」を行っていない。ランサーエボリューションシリーズは現役車両も少なくはないのでトヨタや日産同様にスポーツブランドで、つまりラリーアート名義でのパーツ復刻にはビジネスチャンスもあろう。


1981年からの三菱自動車のモータースポーツプログラムの呼称となったRALLIART


マツダはどうだろうか。マツダディーラーのモータースポーツ相談コーナーをルーツに、ディーラーチーム的な活動を経てマツダ(当時 東洋工業)も資本参加して設立された「マツダスピード」は比較的早く確立されたワークスチューナーだ。三菱やスバルの陰に隠れがちだが80年代早くにWRCにも取組み、1991年にはル・マン24時間レースで初めての優勝を日本にもたらしている。


しかしマツダスピードの消滅も1999年(マツダ本体への統合。)とかなり早い。米・フォード主導での再建途上という状況もあっただろう。その後は市販車へのブランド呼称付与が一時期行われた程度だ。


だが近年もアメリカでの著名チームとのジョイントなどモータースポーツへの関与は継続している。ビンテージスポーツカー向けには「クラシックマツダ」の呼称でパーツの復刻を行っているが、選択された車種やユーザープロフィールも視野に入れると、クラシックと称するよりもマツダスピードへの転換が好ましくも思えるのは私だけだろうか。


マツダも国内のモータースポーツマーケット(ストリートチューンも含めた広義の)で再び存在感を示してほしい。その素地は失われてはいない。


■メーカー各社に期待することとは


WRCは2022年から統一ユニットを搭載したハイブリッド化が成され(将来的に各社独自のHVユニット搭載の方向)、アウディはプラグイン・ハイブリッドでダカール・ラリーに参入する。世界的な自動車の電動シフトはモータースポーツにも確実に波及している。


モータースポーツを費用のかかるだけの余技とはせず、次世代に向けた研究開発のひとつとしての取り組みを日本の自動車メーカー各社に期待せずにはいられない。また商品(自動車)そのものの存在感を高めるためにもメーカー各社はエンドユーザーに「クルマの楽しみ方」を積極的に提示し、コミュニケーションのツールとして自社スポーツブランドを積極活用してもらいたい。


日本におけるモータースポーツの復興はファンづくりに再び取り組む、そこからだ。


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著者プロフィール


中田由彦●広告プランナー、コピーライター


1963年茨城県生まれ。1986年三菱自動車に入社。2003年輸入車業界に転じ、それぞれで得たセールスプロモーションの知見を活かし広告・SPプランナー、CM(映像・音声メディア)ディレクター、コピーライターとして現在に至る。

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