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外国人ドライバーの来日が難しいばかりか日本人ドライバーも、海外のレースに参戦する場合は入国後2週間の隔離義務があるため、今季は海外のレースとのダブルエントリーが難しく、不満足なシーズンを過ごしている。だが一方で、この状況によりチャンスが得られるドライバーもいる。
世界耐久選手権(WEC)のテストに参加する平川亮の代役として、スポーツランドSUGOで先週末行われたスーパーフォーミュラ第4戦にチームインパルからスポット参戦した高星明誠も、その一人だ。昨シーズン最後までタイトルを争い、今季も第3戦終了時点でランキング2位につけている平川の代役ゆえ、プレッシャーは大変なものだが、高星にとって星野一義監督率いる強豪チームからの参戦は、千載一遇のチャンスだったといえる。
■「フォーミュラでステップアップしたい」
高星は2017年、全日本F3選手権でシリーズチャンピオンを獲得している。そこで来季の目標についてインタビューした際の言葉が非常に印象的だった。
「難しいことは分かっているが、フォーミュラでステップアップしたい」と、前置きをしたのだ。
フォーミュラの育成カテゴリーでは最も上の位置にあるF3のタイトルは、トップカテゴリーにステップアップするための最高の手土産。実際に過去20年を振り返っても、全日本F3チャンピオン及びF3に代わり2000年からスタートしたスーパーフォーミュラライツのチャンピオンはほぼ、フォーミュラニッポン、スーパーフォーミュラ、海外のGP2やF2等、いずれかのレギュラーシートをその後獲得している。
そこからさらにF1にまで上り詰めたドライバーも複数いる。自分も同じ道を辿れるものと期待するのが当然。ましてやタイトル獲得直後のインタビューだ。メディアの質問には華々しい未来の希望を語るものだ。
だが高星は違っていた。なぜなら彼はニッサンの育成ドライバーだったからだ。スーパーフォーミュラにエンジンを供給しているのはホンダとトヨタの2メーカーで、それぞれ育成ドライバーを抱えている。優先されるのは、そちらのドライバーだ。
実際、高星はGTの方ではすぐに国内トップのスーパーGT・GT500クラスのシートを得たが、フォーミュラではここまでステップアップを叶えていない。あの時点でそれを、覚悟していたということになる。
■スポット参戦で見せ場は……
そんな高星にとって、今回の第4戦のコンディションは難しかった。予選が行われる土曜日は激しい雨に見舞われ、決勝が行われる日曜日は快晴。路面温度の差は10以上もあった。
そんな中、高星は予選ではQ2進出までもう一歩という健闘を見せるも結果は19台中15位。決勝では週末初のドライ走行となった午前のフリー走行で2番手タイムをマークし活躍を期待させたが、そこはやはり今や世界が認めるハイレベルのスーパーフォーミュラ。
乗り続けているドライバーとスポット参戦のドライバーとでは、勝負勘という面で大きな差が出てくる。ましてや戦いの舞台はコースが狭いゆえオーバーテイクが難しいといわれるSUGO。
15番手スタートから11位フィニッシュは健闘の部類だが、外から見た目では今の環境を乗り越えてレギュラードライバーへとステップアップする道筋が得られるほどの見せ場はなかったように思う。
■監督へのアピールチャンスだったのでは
高星は昨シーズンも第2戦でB-MAXレーシングから、来日できなかったセルジオ・セッテ・カマラの代役としてスポット参戦している。そのときの高星の役割はデータ収集が主だったと見られ“戦えなかった”印象が強かった。だがインパルの星野監督はどんなときでもドライバーファーストで、チームメイト同士のバトルも厭わないという人。
そして現役時代から現在もニッサンと深くかかわっている人でもあり、高星の境遇を良く理解していることだろう。その意味も含め、千載一遇のチャンスだと思った。その人に高星の戦いはどう映ったのだろうか。
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著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。