井口資仁監督3年目のシーズンとなった2020年のロッテは、開幕から上位につけ最終的に2位でシーズンを終えた。しかし、首位のソフトバンクとは14ゲーム差。クライマックスシリーズでも連敗を喫するなど、絶対王者との差を詰め切るには決め手を欠いたシーズンでもあった。
打線に目を向ければ、安田尚憲や藤原恭大といった若手がブレイクへのきっかけを掴みつつあるが、さらなるテコ入れのため新たに獲得したのが、キューバ出身のアデイニー・エチェバリアだ。
MLBでは主にショートとしてプレーしたエチェバリアには井口監督も、「メジャーを経験している選手で、いい影響をチームに与えてくれると思う。数年前までメジャーのレギュラーとして出ていた選手なので、とても楽しみ。内野はどこでも守れるし、ホームランは20本以上を期待している」と期待を寄せている。
果たしてエチェバリアはロッテ打線の起爆剤として結果を残せるのか? MLB時代に残したデータなどから特徴や課題を分析したいと思う。
■「守備の人」としてMLBでも活躍

エチェバリアのMLBでの成績
エチェバリアは2009年にキューバから亡命を果たすと、翌年にトロント・ブルージェイズと4年契約を結びMLBでのキャリアをスタートさせた。2012年11月に大型トレードでマイアミ・マーリンズに移籍すると、ショートのレギュラーとして定着。ダイナミックな守備でチームに貢献した。
◆【動画】千葉マリンでもこのダイナミックな守備が見られる? MLB時代のエチェバリアの好守備集
しかし、2017年途中にタンパベイ・レイズに移籍すると以降はレギュラーに定着できず、その後4球団を渡り歩くジャーニーマンとなってしまう。2020年はアトランタ・ブレーブスで27試合に出場し、打率.254、打点2。セカンドやサードなど、内野の別ポジションを守ることもでき、2019年以降はセカンドでの起用がメインとなっている。
通算でのOPS.641(出塁率.291、長打率.351)という数字が指すように、タイプとしては「守備の人」というのがMLB時代の印象だ。
■初球から積極的にスイングする打撃スタイル
そんな守備型選手として名を馳せたエチェバリアについて、井口監督は本塁打も期待するコメントを残しているが、近年は打球角度が若干向上している傾向がデータでは残っている。
事実、レギュラーとして出場していたマーリンズ時代の最多本塁打は2015年の5本だが、2017〜2019年は控え起用がメインでありながらそれ以上の本塁打数を残している。2020年は短縮シーズンの影響からか、数字を大きく落としており過大評価することはできないが、井口監督がエチェバリアの「隠れた長打力」に期待を寄せるワケも理解できる。
また、キャリアを通じて積極的にスイングする傾向が強いのも特徴だ。初球のスイング率は34.1%で打率も3割前後と結果を残している。ストライクゾーン外のボールに対してのスイング率も35.6%(MLB平均は28.2%)と高く、コンタクト率は66.4%(MLB平均は59.4%)となっている。四球を選ぶよりも、とにかくバットに当てる傾向が強いため、NPBでも出塁率は決して高くはならないと見るのが自然だろう。
センターを中心にまんべんなく広角に弾き返すのが近年のエチェバリアの持ち味でもあり、打球分布でもその傾向がデータとして残っている。
キャリア通算の球種別成績では、フォークやチェンジアップなどの落ちる変化球を得意(打率.283)とし、カーブやスライダーを苦手(打率.220)としている。
■ショートの守備には安定感あり
エチェバリアはショートでの起用が想定されているため、守備力も軽視することはできない。しかし、MLB定着時から守備が高く評価される選手であったこともあり、NPBでも期待できる要素は存在している。
ショートでのキャリア通算UZR(※1)は12.3と、さすがの好結果を残している。一方で近年起用が目立つセカンドでは1.0、サードでは-0.3となっており、慣れ親しんだショートとの差は非常に顕著だ。天然芝球場がメインとなるMLBから、人工芝メインのNPBへのアジャストは必要だが守備のハンドリングに期待するだけの価値は確かにある。
※1 Ultimate Zone Rating。同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだかを表す守備指標
昨季のロッテでは、主に藤岡裕大がショートのレギュラーとして起用され守備では随所に良いプレーも見せたが、打率は.229といまひとつ。ソフトバンクとの差を埋めるため、守備力は落とさず、なんとか打撃面も強化したいと考えてのエチェバリア獲得だろう。
加えて、MLBでは決して長距離砲ではなかったレオニス・マーティンがロッテ加入後は本塁打を伸ばしており、仮にエチェバリアも15〜20本塁打を放つことがあれば、右の長距離砲が井上晴哉のみであった打線は大きく改善される。
前評判通りの守備力を生かしてリズムをつかみ、打撃面でも結果を残せるか。2021年のロッテにとってエチェバリアがキーマンの1人となるのは明白なだけに、実戦でのプレーに注目したい。
データ・図表出典:Baseball Savant
文・SPREAD編集部