マニラのとあるゲストハウスに宿泊した。ベッドは4台。つまり、定員は4人。
部屋に入る。50代の欧米人2人。(のちアメリカ人と判明)42歳のフィリピン人女性1人。フィリピン人女性の子ども2人(女の子1人と、男の子1人)。僕。
つまり、定員4のところ、2(アメリカ人)+3(フィリピン家族3人)+1(日本人)で、合計6人になってしまっているのだ。おかしい。
定員に対して、2人、多い。
フィリピン人の子ども2人は、一緒のベッドを使いだした。ここまではまだ、わかる。しかし、毛髪が乏しく、脂ぎったアメリカ人1人と、フィリピン人女性1人が、同じベッドを使っている。謎だ。宿のオーナー、それでいいのか。
冷静に状況を考えると、やはり雰囲気が異様だ。
家族なのだろうか。そう考えるのが自然だ。お母さんと、アメリカ人のお父さんが一緒のベッドで、寝る。うん、極めて自然じゃないか。子どもはどう見てもアメリカ人の血が入っているわけではないので、離婚してから、のち一緒になったのだろう。
しかし、子どもがそのアメリカ人を父親と認識している様子はほとんどない。というか、なぜドミトリー形式の宿に泊まっているんだ...。
疑問符が次々に浮かんできたが、疲れもあったため「まぁ、こういうこともある」と疑問をおさえてのんびりすることに。
フィリピン人の子ども2人は僕の方をチラチラと見て、何やら韓国語らしき言葉で話しかけようとしてくる。フィリピンに滞在していればよくあること。近年フィリピンでは韓流ドラマなどの影響で、韓国文化への興味が高まり続けている。
僕が「ごめん、日本人なんだ...。」と答えたときの彼らのちょっぴりがっかりした顔を見るのが辛いので、最近は簡単な挨拶くらいは韓国語でできるようになろうと勉強中。
さて、話は戻る。
フィリピンの街を歩いていると、欧米人の太ったおじいちゃん(50~60代)が、フィリピン人の若い女性をはべらせているケースをよく見る。人懐っこく、可愛いフィリピン人に夢中になってしまうのは分かるが、なんとなく見るのが辛くなる。
「クラブが立ち並ぶ首都圏マニラ市マラテ地区や、国際結婚のために必要な手続きを行う在フィリピン日本国大使館、入国管理局の周辺にいると、それを象徴する光景に遭遇する。60歳以上とみられる日本人男性と20歳前後のフィリピン人女性。年齢差40歳以上の男女が手をつないで歩いている」
水谷竹秀『日本を捨てた男たち』(集英社文庫・2013年)にもこう記されているから、欧米人だけではなく日本人も例外ではないのだろう。
子どもを連れているケースはほとんど見ないが、このアメリカ人も同様にフィリピン人女性にのぼせ上がってしまっているパターンかもしれない。
翌朝、家族が去った。地元に戻るという。父親らしきアメリカ人がバスターミナルまで見送りに行った。残された僕ともう一人のアメリカ人。彼の見た目は清潔で、話し方も温厚だ。
ここぞとばかりに聞いてみた。
「彼、あのフィリピン人親子とどういう関係なの?」
「ぶっちゃけ、アイツちょっとおかしいんだよな。『Bipolar』(躁状態と鬱状態を繰り返す精神疾患)というか。なんか、フィリピン人の女性と婚約しているらしいんだけど、つじつまが合っていないというか、あいつの勘違いなんじゃないかなって気はする」
なるほど。どうやらこの温厚なアメリカ人も、Bipolarアメリカ人とはこの宿で出会ったらしい。
それにしても、婚約とな。出会ってから日も浅いらしいのに。なんだか、怪しい。一方的にBipolarアメリカ人がのぼせ上がって、お金の力で(といっても、なぜ一泊600円のドミトリーに泊まっているのかは、気にしないことにする)何とかしようとしている感は否めない。
Bipolarアメリカ人、見送りから帰宅。ご機嫌。しかし、数時間後、突然叫びだす。
「婚約キャンセルだと急に言ってきやがった!!金もとられた!連絡つかねぇ!!!」
案の定すぎる。
「フィリピンの置かれている状況は、アメリカとは違いすぎるんだよ」などと慰めるアメリカ人。
Bipolarアメリカが叫び疲れて寝たあと、僕と彼でこっそり囁きあった。
「案の定というか、そりゃ、そうだよな...。」
話は続く。
2日後。僕がチェックアウトするタイミングだった。また、Bipolarアメリカ人のベットに別のフィリピン人女性がいる...。懲りないな、あなたも...。
《大日方航》
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