クライミング界のホープ 楢崎明智…兄・智亜と挑む世界の壁 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

クライミング界のホープ 楢崎明智…兄・智亜と挑む世界の壁

オピニオン コラム

楢崎明智選手
  • 楢崎明智選手
  • 楢崎明智選手
  • ボルダリングW杯の課題に挑む楢崎明智選手
  • ボルダリングW杯の課題に挑む楢崎明智選手
  • 楢崎明智選手の手
「やれることは無限大。壁の中でなんでもできちゃう」

18歳の楢崎明智(ならさきめいち ※)はクライミングジムの壁を見上げながら目を輝かせた。現在はスポーツクライミング日本代表選手のひとりとして世界を転戦するが、登れる楽しさを語る表情は高校3年生そのものだ。

「ひとつの壁でも何百通りもの課題が作れるので飽きません。登れた時の達成感、それはもう格別です。できなかった課題を完登できた時はものすごく嬉しいし。ハマりますね」

※:「崎」は正しくは“たつさき”

兄はボルダリング世界王者の楢崎智亜


三人兄弟の末っ子として育った楢崎。小学校2年生のときに、一番上の兄の影響でクライミングの世界を知った。それまでは二番目の兄・智亜(ともあ)と一緒に器械体操をやっていた。

「トモくんと一緒に体操をやめて、クライミングジムには通うようになりましたが(最初は年齢が)小さすぎて登らせてもらえなかった。(2年生の終わりごろに)もうすぐ3年生になるから登っていいよって言われて、そこから始めました」

ホールドに手をかける楢崎明智選手《クライミングジム Fish and Bird(東京・二子玉川)にて撮影》

楢崎が「トモくん」と呼ぶ3歳上の兄・智亜は、現在のクライミング界で名を轟かせる存在だ。2016年にクライミング世界選手権パリ大会のボルダリング種目を制し、ワールドカップ(W杯)でも年間王者になり頂点へ駆け上がった。兄は世界チャンピオンになったが、「友だちみたいな感じでライバルではないです。一緒にW杯の決勝とかで戦えたら嬉しいですね」と笑う。

兄弟でも体型は似ていない。楢崎の身長は187cmあり、智亜より15cm以上高く、手足も長い。壁に設けられたホールド(突起物)から次のホールドへダイナミックに動く兄と比べて、楢崎は腕のリーチをいかしてホールドをつかんでいく。それが有利と感じる場面もあるが、それでは競技が面白くないとわかっている。

「ルートを作る人は(身長差に関係なく)みんなができる課題を作って差別をしません。大きい人だけが有利になる課題を作ったら小さい人は不利になるじゃないですか。バランスよく作るので、どっちが有利っていうのはないと思います」

5月13日で18歳になった楢崎選手(右)。誕生日を兄の智亜選手が祝った《楢崎智亜選手のインスタグラムより》

W杯表彰台とアジアユース二冠


2020年東京五輪の追加種目にスポーツクライミングが選ばれ、「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種類をこなす複合競技として行われる。すべてホールドを利用して壁を登る点では同じだが、壁の高さやスタイルが異なるため総合力が問われることになる。

5mほどの壁に設けられた複数の課題の登れた数を競うボルダリング、12m以上の壁をロープで安全確保しながら登った高さを競うリード、15mの壁を二人同時にスタートして登る速さを競うスピード。

楢崎が最も得意とするのはボルダリングだ。智亜たちと一緒にW杯に挑んでいる。今年6月の第5戦米国ベイル大会で初の決勝進出、2位表彰台を獲得した。ユース世代でありながら実力は世界トップレベルに迫る勢いだ。一方でリードはまだ経験値が足りないという。

「リードで長い壁を登って腕が疲れてくると、頭がパニックになって正しいムーブ(動き)を選択できなくなっちゃうんですよ。大会で『ここは決めろ!』って場面でパニックになって、足を上げるべきムーブを、足を上げないで飛んじゃって、そのまま落ちちゃうみたいな(笑)」

だが、7月5日~9日にかけてシンガポールで行われたクライミング・アジアユース選手権ではジュニアクラスに出場し、参加選手で唯一ボルダリングとリードの二冠を達成した。スピードにも参加したが結果は6位(ジュニアクラスでは日本人最高位)。日本にはスピードの専用施設が少ないこともあり、他国から遅れを取っているだけに仕方がない。

楢崎選手(左)はW杯第5戦米国ベイル大会で初めてのメダル獲得。優勝は韓国のチョン・ジョンウォン選手(中央)、3位の緒方良行選手も初表彰台だった《楢崎明智選手のインスタグラムより》

アジアユース選手権ジュニアクラスで楢崎選手(中央)は二冠達成。ボルダリングは緒方良行選手(左)が2位、原田海選手が3位と表彰台を日本代表で独占した《楢崎明智選手のインスタグラムより》

ボルダリング大国の日本


日本のクライミング界は男女ともにレベルが高い。ボルダリングの日本代表チームは2014年から3年連続でW杯国別ランキング1位になった。今年も第6戦インド・ナミブンバイ大会終了時点で2118ポイントを獲得し、2位英国(886ポイント)を大差で引き離している。

予選と準決勝を通過した6名で行うW杯決勝。男子日本代表は第5戦で4名が決勝進出を果たし、第1~4戦・6戦はそれぞれ3名を送り込んでいる。それくらい強いため、楢崎が大会で意識するのはチームメートである日本代表メンバーだ。

「日本人が自分の(予選の)グループに多いとすごく緊張します。普段一緒に登っているので、誰がどれくらい強いかわかっている。怖いですね」

しかし、課題が変われば、登れる選手も変わってくるのがボルダリングだ。選手ごとの得意不得意で結果も変化する。

「陸上みたいに走ったタイムで(結果が)出るわけではありません。ボルダリングは勝てる選手が毎回違うから、あまりライバル心みたいなのもなくて。みんな多分(実力は)どっこいどっこいで、何かがハマれば誰かが勝つ」

W杯第4戦八王子大会の課題に挑む

楢崎は自分の弱点を「雑なトライが多いこと」と分析。感情的になると動きが雑になり壁から落ち続けてしまうという。

「最近気づいたのですが、僕は落ち着いた方が強いタイプ。感情的になった方が強い人もいるんです。海外の選手だと落ちて、怒り始めたら登れる人もいるので。僕はクールに登っていなかったら多分やられますね」

そんな楢崎を大会で支えるのは観客席から背中越しに聞こえる『ガンバ!(頑張れ)』の声だ。登っているときは「こう動こう」と考えながら、声援も意識する。

「応援があると、最後の最後で足が切れて落ちそうなときも耐えられます。『ガンバ!』ってめっちゃ言われると『ああ落ちたくない!』って。応援がないと『あ、ダメだ~』って(笑)」

気ままに好きなクライミングをやりたい


東京五輪に向けてスポーツクライミングの人気は上昇しているが、「僕はあまりオリンピックを目標にしていないんです」と3年後をひょうひょうと見据える。

「そのとき、そのタイミングで強ければ、もちろん代表になってみんなのぶんも頑張りますけど、僕は気ままに好きなクライミングをやっていこうかなって」

ボルダリング初心者へのアドバイスを求めると、「壁と向き合っているだけじゃなくて、周りも見てみるといいです」という答えが返ってきた。

「うまい人の登りを見て、あの人はなぜできているのかを観察する。自分ができなくて、あの人ができていることを考えてみると、上達しやすいと思います」

長い手足を使って課題をこなす

楢崎も兄の背中を見て、日本代表の仲間たちの動きを観察することで、少しずつ自分のテクニックを磨いてきたのだろう。今年の目標に掲げていたW杯決勝進出は実現し、銀メダルも手に入れた。8月18日・19日に行われる最終第7戦ドイツ・ミュンヘン大会を残して、年間ランキングでも9位につけている。

日本開催となった5月のW杯第4戦八王子大会前は「決勝でトモくんと戦いたいですね」と話していた。まだ実現していないW杯決勝での兄弟対決も、近い将来きっと訪れるだろう。

「やれることは無限大。壁の中でなんでもできちゃう」

クライミングの魅力をそう表現した楢崎明智の可能性もまた無限大だ。

●楢崎明智(ならさき めいち)
1999年5月13日生まれ、栃木県宇都宮市出身。栃木県山岳連盟所属。スポーツクライミング日本代表(ボルダリングB代表)および同ユース日本代表(ジュニア)も兼ねる。2016年のザ・ノース・フェイス・カップで兄・智亜(3位)、杉本怜(2位)、アダム・オンドラ(4位)ら強豪を破って優勝。同年の世界ユース選手権ではリード6位、ボルダリング14位に。ボルダリングW杯は2017年米国ベイル大会で初のファイナル進出と2位表彰台を獲得。同年アジアユース選手権ジュニアクラスでリードとボルダリングを制して二冠を達成。憧れる選手に同郷のプロフリークライマー安間佐千(さち)、ドイツのヤン・ホイヤーを挙げる。
《五味渕秀行》

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