山頂に備えられていた方位盤のようなものや、スマホのアプリで山座同定すると、雑誌やネットで見たことのある山の名前たちが出るわ出るわ! 富士山、浅間山、榛名山…他、有名な名山たちの名前が目の前に広がっている……はずなのだが、残念なことにどれがどの山だかさっぱり分からない。
判別したのは相馬山と赤城山、浅間山、日光連山くらいで、あとは間近にある行道山や群馬県の最低山・権現山が間近にあるのがわかるだけ。名だたる山々も、名山慣れしていない筆者の前では単なる「山々」であり、「風景」と化してしまった。ただし、それはただの「風景」ではなく、「素晴らしい風景」であった。
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行道山方面。奥の方に見えるのは日光連山
特に浅間山と剣ヶ峰の姿は、他の名山たちよりもワンランク上の迫力があった。山が高くて大きいから、という理由もあるが、その存在感に感嘆の声が思わずもれる。その風景には、もはや「違和感」とでも言うべき感覚をおぼえた。天狗山から見た浅間山は、遠く向こうに霞んで見えているだけなのに、圧倒的なのである。浅間山のような名山の姿は、普段登っている茨城県の山からではその影すら見ることができないため、感動もひとしおであった。
さらに、天狗山の頂上を下ると、富士見岩がある。そこからは赤城の山が長い裾野をきれいに見せてくれた。富士山も見えるはずだが、富士見と縁がない筆者は今日も見ることができず。それでも、お釣りがくるほどの素晴らしい眺めである。
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富士見岩から望む赤城山
低山の頂から、名山を眺める。これは、ふしぎな贅沢気分が味わえる行為である。例えるなら、旅行に行きもしないのに、空港へ行って飛び立つ飛行機を眺め、旅情感を味わう感覚に近い。
名山に登りたいが、諸事情(お金がないとか、時間がないとか、勇気がないとか)により登れない方は、ぜひ天狗山のような名山を眺められる山に登ると良いだろう。名山は眺めるだけでも、感動がある。このような名山が眺められる天狗山もまた、名山といっても過言ではあるまい。