5月7日に東京のエスフォルタアリーナ八王子(八王子市総合体育館)で行われたボルダリングワールドカップ(W杯)八王子大会決勝。昨年のボルダリングW杯総合優勝者で日本代表エースの楢崎は、第1課題から会場を沸かせた。
決勝は4つの課題を順番にこなす。ファイナリスト6人中、楢崎は3番手でスタートする。前の2選手が登れなかった第1課題、楢崎も手こずったが残り2秒でトップ(ゴール)に手が届いた。1課題につき制限時間は4分。残り5秒で楢崎はホールド(突起物)に向かって思い切って飛んだ。
「本当はもっと足をあげたかった。行くしかないなって飛んだら止まって、あれは奇跡的だったかもしれないですね」
そのパフォーマンスに一気に会場の温度が増した。観客はもちろん、周りの報道カメラマンたちもシャッターを切りながら思わず「すげえな」と口にする。楢崎に続く3選手はトップをつかめず、第1課題終了時点で楢崎は暫定1位になった。
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第1課題に挑む楢崎智亜
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だが第1課題で楢崎が費やしたアテンプト(トライした回数)は7回。ボルダリングは「課題を完登した数」を競うが、同じ数だけ登った場合はアテンプトの少ない選手が有利だ。
八王子大会で優勝したアレクセイ・ルブツォフ(ロシア)と楢崎の完登数は同じ「3」だ。しかしアテンプトに差が出た。ルブツォフは第2・第3・第4課題を完登してアテンプトの合計は「8」。楢崎は第1・第2・第3課題を完登してアテンプトの合計は「9」だった。
第1課題こそ7回のアテンプトだが、第2・第3課題は一発のトライで決めていた楢崎。つかみかけていた日本での優勝だったが、第4課題で滑り落ちた。
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第4課題は完登できなかった
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登れなかった壁を見上げる
「前の選手が登っていたので、全部の課題で一番登りやすいと思ってて。(優勝が)決まるかと思ったんですけど、思った以上に手に力が入らなくて…。3課題目で頑張ったときに(右手を)痛めちゃったんです。最後の最後で負けちゃいました」
第3課題は「普段なら落ちてたと思う」ところを声援に後押しされて登ることができた。「応援ですごい頑張れて。力が普段出ないくらいに出ちゃって、それで多分痛めちゃったんだと思います」と苦笑いする。
会場の多くのファンが思ったように、楢崎自身も第1課題を「残り2秒で決めたときに、この大会の流れはもらった」と確信した。しかし、ルブツォフに逆転優勝を許してしまう。
八王子大会を終え、ボルダリングW杯は3戦連続で2位の楢崎。安定してはいるものの、優勝がないことに「悔しさ貯金はたまっています」とこぼす。
2020年東京五輪では、ボルダリングを含む3種目による複合競技「スポーツクライミング」が正式種目に採用された。楢崎も金メダル候補として、今まで以上に注目を集めるようになった。母親も応援に来ていた八王子大会の優勝は逃したが、悔しさはさらなる飛躍につながる。
「今回のことでかなり自分は成長できたと思います」
3位に入った渡部桂太ら日本代表チームメートたちと切磋琢磨しながら、楢崎はさらに前進していく。