それだけに、予選から参加する各校は、3月は8日の解禁日から慌ただしく過ごすことになる。東京都は、春季大会が今のようなシステムで運営されるまでには紆余曲折もあった。
東西合わせて、参加校が265校(2016年夏)の東京都は、もちろん全国一の加盟校数である。それらがすべて一堂に会して大会を行うことは、春の場合は不可能に等しい。また、東京都は高校野球に使える球場が案外少なく、これも大きなネックとなっている。
そんなこともあって、久しくは春季大会は予選なしで、前年の秋季東京都大会に出場した学校と予選上位校だけで争われていた。つまり、一次ブロック予選はなしで春季大会は出られる学校も限られていたのだ。そんなことで長いこと運営されてきていた。
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東京都はグラウンド環境も厳しい
ただ、そんな状況であれば、新チームが出来て最初の公式戦となる秋季一次ブロック予選の初戦で敗退したチームは、次の公式戦は夏の本番までないということになる。そうなると、冬休みの過ごし方として、チームとしても、個人としても当面の目標が見えない。本来、強くないチームこそ、さまざまな経験が必要なはずである。
「夏まで大会がないとなると目標が遠すぎて、チーム作りとしての練習ももうひとつモチベーションが上がってこない」ということを述べている指導者もいた。
そこで、何とか状況を打破しようと現場の人たちが動いた。ことに、都立校で限られた環境の中で一生懸命に野球を指導してきている指導者たちは、「頑張っている選手たちのためにも、少しでも多く公式戦という緊張感のある舞台を経験させてあげたい」という思いが強かった。
だから、グラウンドを保有している学校に積極的に働きかけ、「東京都も、春季大会の一次ブロック予選を開催できるようにしましょう」と呼びかけていった。そんな努力が実を結び、2005年から秋季大会のブロック予選で早々に敗退した学校が、それぞれ24ブロックに分かれて3月25日までに一次予選を行うこととなった。
秋季大会の初戦で負けても、春季大会でブロックを勝ち上がれば4月1日からの春季東京都大会(本大会)に出場することが出来ることになった。
その後、各ブロックの代表枠を増やしていき、本大会出場へのハードルを低くした。そのことでより多くの学校が、春季大会の公式戦本大会の舞台で戦うことができるようになった。秋にはチームがまとまりきらず早場敗退した学校としても、「春は都大会に進出しよう」という近い目標を持つことで、意識も向上していくというものである。
こうして3月の東京都高校野球では、中旬過ぎから各地でブロック予選が開催されていくようになっている。会場校では、それぞれの顧問はもちろんのこと、部員たちも運営に尽力している。会場校として運営に携わっていくことで、野球を通じて社会的なことも学んでいくことになる。ホスト校としてのゲスト校の迎え方。控え室や荷物置き場への案内や、諸注意の確認など、社会に出て必要となる要素も自然と学んでいけることになる。
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会場校の部員は運営に協力(佼成学園)
そんな要素も含め、地区ブロック大会を運営していくことは意味が深いのではないだろうか。自分たちは予選をクリアしている立場であっても、予選参加校に協力していく姿勢を学べることも大事だ。
よく言われる“クラブ活動を通じて学べる社会的なこと”という点では、高校生ではない保護者やファンなど、さまざまな人が訪れてくる高校野球の会場校になるということは、絶好の学習機会ともいえるのだ。
また、会場を訪れて試合をする各校の選手たちも、それぞれの学校のルールや環境を改めて見つめ直すことができるのだ。そんな交流や選手たちの気づきを見ているのも、学校が会場となっている一次ブロック予選を見る、もう一つの楽しさともいえるのかもしれない。
現在、東京都の春季一次ブロック予選は24ブロックで、各ブロックから2代表ずつが勝ち上がる仕組みになっている。そして、秋季大会に出場していた64校と合わせて112校で春季東京都大会が争われる。本大会は4月1日から始まる。