ドライブコース探訪…ロングツーリングの“大穴場”から宮沢賢治に会いに行く | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

ドライブコース探訪…ロングツーリングの“大穴場”から宮沢賢治に会いに行く

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童話「猫の事務所」のマスコットがお出迎え。記念撮影もできる。
  • 童話「猫の事務所」のマスコットがお出迎え。記念撮影もできる。
  • 花巻の宮沢賢治記念館に到着。
  • 見晴台からは北上の山々や平野が見える。
  • 花巻・文化タクシーのレトロバス。セロ弾きのゴーシュ号。
  • アスキスというイギリスのメーカーが1920年代に作っていたモデルの復刻版なのだそうだ。手前は注文の多い料理店号。
  • 敷地内は消火栓の表示にも装飾が。宮沢文学にしばしば出てくるフクロウである。
  • 宮沢賢治記念館の外観。
  • 玄関近くには「よだかの星」のオブジェが。
日産自動車のEV『リーフ』による1200km余のツーリング。一番の目的は岩手・花巻にある宮沢賢治記念館を30年ぶりに再訪することだった。

宮沢賢治は大正~昭和初期に数々の童話や詩を発表した人物。国語の教科書にも載る美しい散文詩「やまなし」や不世出の幻想文学「銀河鉄道の夜」など、名作を続々と生み出しながら、37歳の若さで没した。2016年は1896年の生誕からちょうど120年にあたる年で、宮沢賢治記念館の展示もそれに合わせて前年に大々的にリニューアルされた。

花巻までは福島の郡山から内陸に入り、会津の喜多方、一山超えて山形の米沢、天童、秋田の横手とへと続く「羽州街道」ルートを通り、そこから秋田自動車道と一般道を併用して奥羽山脈を超え、太平洋側の北上方面にトラバースした。この羽州街道は新直轄方式によって整備された料金不要の自動車道が整備されている。それでいて交通密度は希薄なので走りやすいことこのうえない。昼間なら風光明媚でもあり、雪の季節を避ければロングツーリングの大穴場である。

宮沢賢治記念館は東北自動車道花巻インター、釜石自動車道花巻空港インターからほど近いところにある。新幹線の新花巻駅からも近く、徒歩でものんびり30分も歩けば十分にたどり着ける距離だ。もっとも徒歩の場合は、最後に小高い丘を登るのでひと汗かくかもしれない。

さて、その宮沢賢治記念館のリニューアル展示を見てみたのだが、宮沢賢治がつむいだ言葉にあふれる詩情が人文、社会、自然の3科学に立脚したものであり、また芸術的であり、宗教的であるということを知るための史料やエピソードをきわめてわかりやすく、順序だてて紹介するという、とても素晴らしいものだった。

宮沢賢治の作品にはよく、自然科学的な描写が登場する。科学的な解説を書くのではなく、生物、宇宙、地質、化学などの理論や現象に触れることで生じた情感を、東北訛りを交えた温かみのある言葉に変えてテクストに盛り込むのだ。銀河鉄道の夜の「さそりの火」の一節はさそり座のα星アンタレスをモチーフに、さそりが自己犠牲に目覚めるという小さな物語に落とし込んだもの。また鳥が飛ぶさまも、鳥の種類によって飛翔形態が異なる様を忠実にとらえ、その描く軌跡をまったく別のものに喩えて詩的に描く。後の寺田寅彦とも重なるその筆の技法は、理系文筆家の真骨頂と評されるに値するものだ。

館内を見れば、何がそのような宮沢賢治の思考の底流となったかということについてのヒントとなるものがあふれている。また、世の中にあまり知られていない演劇やオペラ、さらには宮沢賢治が弾いていたチェロの実物やエスペラント語の教本なども。決して広いスペースではないが、最低でも3時間は見学の時間を取りたいところだ。

記念館の見晴台からは北上の風景を望むことができる。その風景は寂しげだが、とても柔和な印象を与える。花巻の隣りには柳田國男が民間伝承を集めた遠野物語の故地、遠野がある。哀調と温かみが同居した“日本的”な何かを濃厚に感じさせるこの地は、一度は訪れておく価値があると思う。

宮沢賢治記念館の内部は本来、撮影禁止であるが、取材ということで撮影許可をもらったので一部をご紹介する。

【ドライブコース探訪】ロングツーリングの“大穴場”から宮沢賢治に会いに行く

《井元康一郎@レスポンス》

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