そんな中、最も期待されているのは藤浪晋太郎投手と言っても過言ではないだろう。チームの枠を超え、日本球界を代表する投手へと着実に歩んでいくその姿を、ファンは期待の眼差しで見つめている。
入団以来、3年連続二桁勝利を挙げた規格外の右腕は、今後どのような進化を見せてくれるのだろうか。
■順調な成長曲線を描く
昨年11月に行われた世界野球プレミア12を辞退した藤浪はシーズンでの登板過多が影響し、右肩の炎症が長引いた。リーグ最多となる3374球を投じた代償を払う形となった。
入団当時から何かと比較された同い年の大谷翔平投手(日本ハム)はプレミア12で大車輪の活躍を見せたが、その状況に藤浪はどういう心境だったのだろうか。少なくとも国際試合でのライバルの好投が、これ以上にない刺激となったはずだ。
来年のワールド・ベースボール・クラシックでは自分も日の丸を着けてマウンドへ――。日頃からマイペースを強調する藤浪が、大谷について言及することはなかったが、心に期するものはあっただろう。
藤浪は入団以来、順調な成長曲線を描いている。球界屈指の人気チームでプレッシャーのかかる環境に身を置きながらも、1年目から活躍。セ・リーグでは江夏豊以来の高卒ルーキー二桁勝利を記録した。
1年目に10勝を挙げると、翌年は11勝。3年目の2015年は14勝と3年連続で二桁勝利を達成し、221個の三振を奪って奪三振王のタイトルも獲得した。名実ともにチームのエースとしての地位を確立した。
勝ち星もそうだが、藤浪の球速は年々向上している。ルーキーイヤーに155kmを記録すると、2年目に157km、3年目は158km(プロ野球歴代3位タイ)を記録した。毎年、自己最速を更新しているのだ。球の速さで良い悪いが語られるわけではないが、進化を遂げている目安にはなる。
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2014年、日米野球でMLBオールスター相手に力投する藤浪晋太郎
そもそもポテンシャルの凄まじさは、入団当初から特筆すべきものだった。オープン戦で対戦した元ソフトバンクの李大浩内野手は、高卒ルーキーらしからぬマウンドさばき、197cmの長身から繰り出す150km超のストレート、高速スライダーに近いカットボールなどを目の当たりにした。
「まだ粗削りだが、順調に成長すればダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ )と同じくらいになる」と潜在能力に太鼓判を押していた。
李の言葉にもあるが、このまま成長していけば、とてつもない投手になる可能性を秘めているのだろう。
藤浪に対して指摘されるのが制球力だ。昨年の数字を見ると、与四球82、与死球11、暴投9。これらはいずれもリーグワーストだ。リーグで最も多くの三振を奪った反面、コントロールに課題を残している。
一方、その粗さが武器でもあるという声もある。母校・大阪桐蔭高の西谷浩一監督は「ダルビッシュほどの器用さは持ち合わせていない粗さが残る投手だが、この粗さが投手としての良さのひとつ」と評している。
■日本球界の新たなるエースへ
2月12日、藤浪は124日ぶりの実戦となる紅白戦のマウンドに上がった。
周囲の不安をよそにブランクを感じさせない快速球を連発。スコアボードの球速表示に156kmが表示されると、球場がどよめいた。この時期に自己最速の158kmに迫る球を放ってしまうのは驚愕だが、本人は「まだ6割くらいの力」と余裕のコメントを残していた。
この日は打者を相手にした時の感覚を重視していた。藤浪は日頃から「ボールに角度をつけることよりも、打者との距離の近さを意識している」と語っている。また、自分の目指すピッチングスタイルを問われた際には、必ずと言っていいほど「修正能力」を挙げる。
ピンチの場面で見せる落ち着きと、マウンド上での威風堂々とした雰囲気は年々すごみを増しており、計り知れないポテンシャルを感じさせてくれる。
2007年には松坂大輔投手、2012年にはダルビッシュ有投手と岩隈久志投手、2014年には田中将大投手、2016年には前田健太投手が海を渡った。
彼らがメジャーリーグに移籍した後、藤浪や大谷を筆頭とする新世代に期待する声は日増しに高まっている。
藤浪が日本球界の新たなるエースとして誰もが認める存在となるか否か。来春に第4回ワールド・ベースボール・クラシックを控えた今シーズン、さらなる進化を期待したい。