南場智子DeNA会長が同社の事業について説明、また会長自身の半生について語った。
横浜DeNAベイスターズ新人選手、DeNA会長から事業内容を教わる
「皆さんは学費を収めていた立場から社会人としてお金をもらう立場になります。社会への貢献が求められます。プロのスポーツ選手であっても、私のような経営者であっても、ビジネスマンでもみんな同じ社会人です。仕事をしてその対価をもらう立場です」
「私は社会人になったとき、マッキンゼーという経営コンサルタント会社に就職しました。経営のことがまったくわからないのに、いきなり給料をもらう立場になってしまい大変苦労しました。初日の仕事は『日本のモーゲージのセキュリタイゼーションの市場性を調べろ』というものでした。日本という言葉以外、私はわかりませんでした。20時間くらい指示を理解するのに時間を使いました」
「ものすごく仕事ができなかった。歯を食いしばって頑張ったのですがまったく仕事ができなかった。あまりにも仕事ができなかったので、私は留学という国外に逃亡する道を選びました。マッキンゼーで自分は役に立たないと思って諦めたんです」
「毎日朝の3~4時まで仕事をして、家に帰って少しだけ寝て、シャワーを浴びて会社に9時には滑り込んで。体力だけが自信だった私も、そんな生活が丸2年くらい経つと心身ボロボロになってきたのです」
「ビジネススクール、経営学の大学院に留学することにしました。でも留学したあと、マッキンゼーになぜか再び帰ってきてしまったんです。帰ってきたあとも、やっぱり仕事ができなかった。それで自分で履歴書を書いて、ヘッドハンティングをしてもらおうとしました。マッキンゼーでは役に立たなかったので、他の職業で頑張ろうと思ったんです」
「内定ももらっていたとき、大先輩から『いい仕事が取れたので手伝ってくれ』と声をかけられました。それは本当にお世話になった先輩だったので『ごめんなさい、もう内定をもらいました』と謝りました」
「先輩は『辞めてもいいけど、最後にこのプロジェクトだけ手伝ってくれ』と。留学している時も、アルバイトとかをあてがってくれた先輩だし、この仕事だけ手伝って辞めよう、という気持ちで取り組みました。そうしたらその仕事がむちゃくちゃうまくいったんです。初めてうまくいって、クライアントさんもすごく喜んでくれて。今まで仕事ができなかった私が急に仕事ができるようになるわけがない。何が起こったのか」
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「それまで仕事ができなくて苦しかった自分は、『もっとよくならなきゃ』『自分の付加価値を出せているのか』『自分は成長しているんだろうか』『迷惑かけていないだろうか』とか、そんなことばかり考えていました」
「でも今回は"このプロジェクトを最後に辞める"と決めていたので自分まったく意識がいかなかった。とにかくこのプロジェクトに穴を開けないこと。今まで助けてくれた先輩のためにこのプロジェクトを成功させなきゃ、それだけに集中していた」
「そこで初めてできないことは『できません』と言い、先輩だけではなくクライアントにまで教えてくれと言い、すべてをさらけ出して、プロジェクトの成功だけに集中したんです。そうしたらものすごく肩の力が抜けて、私はそのあとマッキンゼーでやりたいことはほとんど何でもできるような成長をして、昇進も順調にしました」
「そのあとDeNAを立ち上げたんです。この話から何が言いたいかというと、みんなもこれから厳しいことが色々あるでしょうけど、"事にあたる"という意識を大切にして欲しいんです。あんまり自分に意識を向けすぎない。自分は役に立ったのか。ということを考えない」
「例えば試合に勝つ。優勝する、その事に向かう。それは監督、コーチを喜ばせることじゃない。誰かを喜ばせることや、自分のことに意識を向けるのではなく、君たちの仕事は野球だと。野球はチームで勝つことが仕事なんです。そこに集中する。それくらい本来の目的に集中することができるか。自分の成長だけに目を向けると逆に成長しないんじゃないのかな、と私は思います」
「野球に集中する、試合に集中する。そうすると、自然と自分も成長しているんじゃないのかな、と感じています。だからDeNAという組織は"事にあたる"という意識を大事にしています」
「私を喜ばせようとしないでください。会長を喜ばせようとしないでください、社長を喜ばせようとしないでください。自分の上司を喜ばせようとしないでください。事業の成功、これを我が社は"事"と呼んでいます。"事"の成功に意識を向けてください、これが我が社のすみずみにまで行き渡っています。すばらしく才能に恵まれた君たちだけれど、同じようなことがいえるのではないかと思います」
「目標を定めて、それを達成する。これを繰り返して、どれだけ高みに登るのか。目標が決まった時、目標が達成されたときは楽しい。でも、一番楽しむべきところは目標を達成しようと紆余曲折するところです。何かうまくいかなくなった。そんなとき工夫をする。これをしたら少しうまくいったな、と試行錯誤する」
「周りやコーチは色々なことを言ってきます。その中で自分が色々やってみて、これはいける、つかんだぞ、また失敗した、この繰り返しです。ここで苦しんだ分だけ大人になれると思うんです」
「会社も同じです。グーグルを超えたい、世界を代表するインターネットカンパニーにしたい。バカなことを言っていると思うかもしれませんが、DeNAもいまは試行錯誤の段階なんです。最初からうまくいくわけじゃなかった」
「はじめは業界の負け組とまで言われていた。出口が見えなかった。でも、必ず出口があると信じて試行錯誤し続けたから今がある。そして、今もさらなる高みを目指して試行錯誤し続けています」
「今日は経営者の立場から、皆さんに少しでも役立つことがあればいいな、と思ってお話させていただきました。新しいことへの挑戦と迅速性。そして事に向かう意識をもつことを大事にしてほしいと思います」
「紆余曲折の道のりが君たちを成長させてくれますので、紆余曲折する過程を楽しんでください。いつかトンネルに入る時期があります。必ず出口があると信じることです。出口なんてないと思っても、きっと出口はありますから」