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【THE REAL】17年の歳月を越えて…東福岡を高校サッカーの頂点に復帰させた指揮官の挫折と意識改革

オピニオン コラム
埼玉スタジアム2002 参考画像
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  • 【THE REAL】17年の歳月を越えて…東福岡を高校サッカーの頂点に復帰させた指揮官の挫折と意識改革
  • 第94回全国高校サッカー選手権大会
  • 長友佑都 参考画像(2016年1月6日)
■280人のサッカー部員

今年度でいえば、部員は全国最多となる280人を数える。森重監督が神妙な表情を浮かべながら振り返る。

「280人全員を僕ひとりで見ることはできません。数多くのスタッフがそれぞれのカテゴリーに分かれて、常にトップチームを目指すという目標のもとで指導に当たってくれています。そのなかで、まずはトップチームがインターハイ、プレミアリーグ、選手権を目指して、常に引っ張っていかなければいけない。

一方で東福岡で優勝することを夢見て入学しながら、かなえられなかった生徒たちも大勢います。彼らは『なぜ負けたのか』という反省材料を毎年のように残してくれて、それらを含めてしっかりと生徒たちと向き合い、常に修正を加えながらチームを作り上げてきた結果が、いまのチームにつながっていると思っています。

もちろんトップチーム以外の選手たちにもハッパをかけていますけれども、トップチームに上がってくるのは難しそうだな、という生徒たちもなかにはいます。それでも、同じ練習メニューをしっかりと消化して、最後まであきらめずに頑張る彼らの姿勢は本当に素晴らしいとと思っていますし、彼らの力がなければトップチームが刺激を受けることもありません」

280人の部員はA~Dまで4つのチームに分けられ、同じコンセプトのもとで日々の練習に励んでいる。それでも、たとえば選手権の登録メンバーは30人。そのなかでベンチに入れるのは20人だけだ。

東福岡でいえば、実に260人の部員がスタンドで必死に声をからしていた。國學院久我山(東京都A代表)との決勝戦。前半36分に先制点をあげたMF三宅海斗(3年)は、真っ先にバックスタンドへ向かって拳を突き上げて、感謝の思いを伝えた。

三宅のゴールをアシストし、後半25分にはチームの4点目を決めたMF藤川虎太朗(2年)は言う。

「試合に出られずにスタンドで見ている選手のためにも、絶対に負けられないという気持ちがあった」

ピッチ上の選手たちにプラスアルファの力を与えたバックスタンドへ、森重監督も目を思わず細める。

「久我山の応援の数がはるかに多いにもかかわらず、それに負けないくらい、いや、それ以上の声援をベンチのなかでも感じていました」


第94回全国高校サッカー選手権大会トーナメント表

■不本意なレッテルを貼られる

現チームの最上級生は「史上最弱の世代」なるレッテルを貼られ続けた。選手権後に開催される新人戦で、福岡県はおろか福岡市でも勝てなかったことで、志波総監督が心を鬼にして命名した。

3年生に進級した後の最初の公式戦だった、昨年4月のセレッソ大阪U‐18とのプレミアリーグWESTでは1-6とまさかの大敗を味わわされる。

危機感を抱いた選手たちは、直後から森重監督をはじめとする首脳陣やスタッフをすべて排除したミーティングを開催。お互いの意見を忌憚なくぶつけ合う場をもち、不本意なレッテルを返上する道を探り合った。

65歳になる志波総監督は、意図的に「史上最弱の世代」という言葉を浴びせたと明かす。

「個々の質がそれほど高いとは思いません。それでも、生徒たち一人ひとりがお互いのよさというものを認め合いながら、彼らがうまく絡まるというか、融合するというか、そういう形のチームに仕向けました」

キャプテンのMF中村健斗(3年)を中心としたトップチームが発奮し、志波総監督が描いた青写真通りの軌跡を描き始めた背景には、森重監督がここ数年間で指導のなかに加えた「人間作り」を抜きには語れない。

自分たちに何は足りないのかを、自発的に突き詰めていく姿勢。そして、ベンチにすら入れなかった仲間のために歯を食いしばり、限界を超えて頑張ろうとする執念。苦悩する森重監督を見守ってきた志波総監督も、真の意味で高校サッカーの監督になったと目を細める。

「アイツも50歳になったからね。会話のなかにも冗談も出るようになったし、丸くなったというよりも、アイツ自身も成長したんでしょうね。人間の長い一生のなかで、高校サッカーの3年間はほんのわずかな部分であり、その次の舞台へどのようにしてつながるのかを見すえた指導が求められる。学校の現場で指導している人たちは、その点でしっかりとやれるんです。優勝というものは、後からついてくるものなんですよ」

■新たな戦いへ

最終的には5-0の大差で國學院久我山を下し、17年ぶりに優勝旗を手にした表彰式後。森重監督は中村に耳打ちした。

「健斗、いつ胴上げしてくれるんだよ」

監督就任後で初めて全国を制した2014年夏のインターハイ。別格にして最高の舞台である全国高校選手権でも頂点に立てるチームだと信じて、あえて胴上げを断った経緯があった。

残念ながら昨年度の選手権では、静岡学園(静岡県代表)との3回戦で苦杯をなめた。中村たちを中心とするチームに移行し、「史上最弱」から変貌を遂げていた過程でインターハイを連覇した昨夏も同様の理由で断った。

「この舞台で優勝することの難しさを感じさせられた17年間でもありましたが、その分、胴上げされたときは最高の気分でした」

勇気で自らを奮い立たせて、挫折を乗り越えた先に待っていた最高の瞬間。宙を3度舞い、背中を押し上げる選手たちの手と掛け声から「信頼」と「感謝」の思いを伝えられた森重監督は決勝戦から一夜明けた12日には気持ちを切り替え、16日から幕を開ける新人戦から新たな戦いに挑む。

(文中一部敬称略)
《藤江直人》

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