【澤田裕のさいくるくるりん】砂浜を走る姿を見て、観客と選手の関係について考える | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【澤田裕のさいくるくるりん】砂浜を走る姿を見て、観客と選手の関係について考える

スポーツ 短信
選手に熱い声援を送る観客。その心に宿す想いは
  • 選手に熱い声援を送る観客。その心に宿す想いは
  • トップを独走するザック・マクドナルドの華麗なライディング
  • そんな彼も自転車を担ぐ(担いだほうが速い)ことがある
  • 豊岡英子を追う宮内佐季子。二人の勝負は最終周までもつれた
週末にお台場海浜公園で開催された、シクロクロス東京を観戦しました。シクロクロスというのはロード選手の冬季トレーニングとして始まった競技で、1周3km前後の短い周回路を規定の時間(20~60分ほど)走って順位を競います。

コースの途中には未舗装の路面やシケインと呼ばれる障害物を越えるところがあり、自転車を押したり担いだりする姿が見られます。

使われている自転車(シクロクロス車と言います)は泥詰まりを避けるため、ロードバイクとはブレーキの構造が異なっています。また、グリップ性能に優れたやや太めで凹凸のあるタイヤ、そして勾配のあるコースに対応するひと回り小さなフロントギヤもシクロクロス車の証です。

当日の予報はあいにくの雨。僕が会場に到着したときには本降りで、それはレースの最後を飾る男子エリートがゴールするまで続きました。われわれ観客もそうですが、全身ずぶ濡れとなる選手はさぞかし寒かったことでしょう。それでも新旧の全日本チャンピオンが出場した女子レースはゴール直前まで競り合いを続け、応援する声にも思わず熱が入りました。

ところで僕がレース観戦に出かけたのは、このコラム(2014年10月30日公開)でも紹介したツール・ド・フランスさいたまクリテリウム以来のことです。ともに周回コースということで選手が何度も目の前を駆け抜け、レース観戦初心者でも飽きることのない点が共通します。それでも2つの光景を思い浮かべた僕の脳裏に、ある考えがよぎりました。それは選手が競い合うフィールド、そして選手と観客であるわれわれの、身体的能力の差に関わることです。

クリテリウムが闘われる舗装路は、自転車に乗る人なら誰でも普通に走れます。一方でシクロクロス東京のコースの一部となった砂浜や未舗装の急勾配は、極太タイヤを履いた流行のファットバイクならいざ知らず、やや太めという程度のシクロクロス車では、乗って進むことすら困難です。そして、そんな過酷なコースだからでしょう。トップ選手といえども押したり担いだりしなければならない場面があり、場合によっては落車する姿も見られます。つまり一般の人には及びもつかない身体的能力を有する人が、逆に自身の能力の限界を露にするのがシクロクロスというわけです。クリテリウムでも加速した集団から置き去りにされる選手を見ることはありますが、そうはいってもとんでもないスピードであることに変わりはありませんから、選手といえど同じ人間なんだという気にはなりません。

自分が走ることすらできない場で競い合う選手が人間らしさを垣間見せ、自分でも走るくらいはできる場で闘う選手には人間としての弱さの片鱗も感じない……。観客であるわれわれにとって、選手はどんな存在であってほしいのか。同じ人間だと思うから惹かれるのか、あるいは超人的だからあこがれるのか。2つのレースの観戦は、それを考える機会にもなりました。
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