【アーカイブ2009年】「独断的な考え、受け入れなければならない真理」ピナレロ・ドグマ…安井行生の徹底インプレ | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【アーカイブ2009年】「独断的な考え、受け入れなければならない真理」ピナレロ・ドグマ…安井行生の徹底インプレ

オピニオン インプレ
「独断的な考え、受け入れなければならない真理」ピナレロ・ドグマ…安井行生の徹底インプレ
  • 「独断的な考え、受け入れなければならない真理」ピナレロ・ドグマ…安井行生の徹底インプレ
貴種に属する官能と変わらぬストイシズム 固定観念を置き去りにする突出した完成度








その力強いトラクションは、高速コーナーの立ち上がりなどで大きなギアにチェーンをかけたまま踏み込んだときにも感じることができる。大男に腰のあたりをドーンと押し出されるようなパワフルな加速には、毎度毎度驚かされた。プリンスの加速性能の鋭さは素晴らしいが、硬すぎるきらいもあり、僕ごときの脚力では中速域からの加速に癖を感じた。シャープな加速のプリンス。どんなレベルのライダーでも、どんな速度域からでもスムーズにスピードを上げるドグマ。これは好みやスキルや実力や脚質などによって分かれるところだろう。



僕はナチュラルな加速フィールを持つドグマを好む。



よく 「横剛性が前年度比40%アップ!」 だとか 「ねじり剛性が120%向上」 などというメーカーの宣伝文句を見かけるが、僕はそんな怪しげなデータを鵜呑みにするほどお人よしではない。もしそれが全て本当なら、ロードバイクはいまや岩のようなカチンコチンの剛体になっているはずである。実際に、“横剛性が○%アップした” にも関わらず、よりソフトになったと感じられた08モデルのフレームは存在する (剛性と剛性感は違うのだが)。しかし 「ハイスピードダウンヒルでコーナー進入速度が10%速くなる」 とピナレロが発売当初に宣伝していたONDAフォーク、ひょっとすると本当か?と思わせる素晴らしさを持っている (にしても10%は言い過ぎだと思うが)。



回頭性をつかさどるONDA FPXフォーク、ドグマFPXは46HM3K、プリンスカーボンは50HM1Kと素材こそ異なるが、明確な違いは感じ取れない。ハンドリング性能は互角だろうか。







僕は、パリ、初代プリンス、マーベルとピナレロの金属フレームを乗り継いできたが、ドグマとそれらとの違いは歴然としている。加速が良い悪いとか登坂がどうのというより、乗り物としてのトータルの完成度が他のバイクとは決定的に違うのだ。雰囲気と走りの両面において、感性に訴えてくる官能とストイックさとが融合しており、ドグマは独自の世界を築きあげている。



踏めば即、大トルク。しかしどこを走っても極上の乗り心地。そして最高のハンドリング。いずれも見事。そして研ぎ澄まされた動力性能だけでなく、情緒的な感動をも味わえる。前回のFP6はパーフェクトなバイクだったが、ドグマはまさに別格である。







「独断的な考え、受け入れなければならない真理」 フラッグシップが非カーボンであるその理由







阿保みたいに誉めちぎるのは好きではない。美辞麗句ばかりが並んでいるインプレ記事というのは、読む側も、そして書いている方としても、あまり気分のいいものではない。でもピナレロ・ドグマに関しては、観念しよう。 動力性能、快適性能、疲労の少なさ、飛び切りのクールネス…トータルの完成度で考えると、現在買うことのできるロードバイクの中で最高の一台だ。



もちろん、そんなドグマにだって大きな欠点はある。恐ろしく高い、ということだ。これだけ高いのだから良くてあたりまえ、とも言う。各メーカーのトップモデルが軒並みカーボンで、超軽量で、しかも素晴らしい性能を出してきている現在、1200g (サイズ54、カタログ値) の溶接フレームに70万を払おうとする人は少ないだろう。



商品価値については、ドグマより少しだけ安く (と言っても常人にとっては目が飛び出るほどの値段だが)、軽く、かつモダンでファンタスティックなプリンスに軍配があがる。



しかし、ドグマとは紛れも無い名車である、というのが鮮やかなブルーのそれと10日間を共にした僕の結論だ。名車には、価格や立ち位置なんて関係ない。



プリンスカーボンがあるにもかかわらず、ピナレロのラインナップの頂点にドグマが位置しているということは、カーボンバックを世に送り出したピナレロの幼稚な執着、カーボン全盛時代をむかえたにも関わらず金属フレームにこだわってきたピナレロの開き直りであろう、という思い込みが僕の脳裏に存在していたのは事実だ。しかし人生のホンの一瞬だけでもドグマを傍に置く経験をしてしまった今は、こう思う。



おそらくトレヴィソの彼らは、本気でマグネシウムこそが理想のフレーム素材の一つだと考え、プライドを込めて溶接し、塗装し、喜びと共に世に送り出しているのだ、と。「dogma」 という単語には、「独断的な考え、受け入れなければならない真理」 という意味があるそうだ。いかにも、である。







気が付けば、ドグマでの走行距離は500kmを超えていた。



そして、冒頭の問いかけに対する答えが浮き彫りになってきた。



プリンスカーボン?それともドグマ?



もちろん、性能は両車共に素晴らしい。甲乙つけがたくもあり、「じゃあコッチ」 と簡単に言えるほど単純なものではない。好みによって分かれるところでもある。



しかしもし僕が、金持ちのおばさんに70万のキャッシュをポンと渡されて、さぁどちらかを選びなさいと言われたら、性能を超えたような、決して数値などでは表現できないような要素も考慮しつつ、しかし情緒に任せて、盲目的に判断したいと思う。



“個性” とか “らしさ” というようなありきたりなものでも、“どこにでもありふれた超高性能” でもなく、「己が己でなくてはならない」 という強い理由を持つ希有な存在として、僕はドグマを選ぶ。





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