【インタビュー】クラウドソーシングで発注者と受注者の関係は逆転する! | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【インタビュー】クラウドソーシングで発注者と受注者の関係は逆転する!

オピニオン ボイス
クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田浩一郎氏
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 発注者がオンライン上で受注者を公募し、仕事を発注できるサービスとして近年国内でも注目を集めているクラウドソーシング。やり取りされる仕事の内容も多岐にわたり、大手企業が発注者として利用することも珍しくなくなるなど、市場規模は右肩上がりで成長を続けている。今回は、大手クラウドソーシングサービスの一つ「クラウドワークス」を運営するクラウドワークス社の代表取締役社長 兼 CEO 吉田浩一郎氏に、業界の潮流や今後の予測、同社サービスの特徴などを聞いた。

――クラウドワークスのサービス開始から2年が経過しました。この2年間の印象を教えて下さい

 クラウドソーシングは、グローバルでは10年以上前に立ち上がっていたサービスですが、日本では企業が個人に発注するという文化が無かったために浸透が遅れていました。その辺りの意識が市場の変化とともに変わってきたのがこの2年から3年ではないでしょうか。一部上場の大企業などでも、現場の人たちからはクラウドソーシングを使いたいという要望が増え、一緒に法務を説得してほしいという相談も多くなりました。これまでこうした企業では、調達部を通して相見積りを取って、数十万、数百万という単位で発注をしていた。仮に5万円でちょっと試作を作ってみたいといった時に、従来の調達フローでは頼める余地が無かったわけです。その可能性をクラウドソーシングが開いたと思います。そうした中「クラウドワークス」もこの2年で順調に伸びてきており、月間の流通額はと当初の20倍以上になり、活用企業も2.5万社を超えました。

■クラウドソーシングが、個人のスキルの空き枠を見える化する

――クラウドソーシング市場が成長してきた背景にはどんな潮流があったのでしょうか?

 TwitterなどのSNSが普及し、情報へのアクセスはフラットに、オープンになってきました。情報取得は今や圧倒的に個人の方が速くなり、縦社会による情報の管理は崩れてきています。企業や国のインフラを使わなくても、インターネットによって個人と個人がダイレクトにつながることができ、空き部屋を共有するAirBnBや、オンデマンド配車サービスUBERなどが成長しています。そうしたトレンドの中にクラウドソーシングもあって、従来は人材会社が履歴書を束ねて管理し、アクセスが制限されていた個人のスキルの空き枠という情報を“見える化“し、自由に誰もがアクセスできるようにしてきたのです。直接個人にアクセスすることにより仕事開始が速くなり、コストが下がり、多くのクリエイターやエンジニアから発注先を選べることで仕事の質の向上にも繋がっていると思います。

 二つ目に、モノやサービスの価格が製造原価に紐づかなくなってきているという潮流があります。たとえば“本”の値段について、これまでは印刷代、著者の印税、発行部数などから逆算して決められていました。しかし、Amazonが電子書籍の値段を9.99ドルで統一するということを始めた。さらには定額で読み放題という書籍サービスも複数登場してきた。音楽ではSpotify、映像ではHuluなども定額制を実施している。つまり、リアルなモノの原価に紐づいて価格を決めて売るということが通じなくなってきたわけです。この変化に対応する答えの一つがクラウドソーシングだと思っていて、グローバルではそうした事例が多数出てきています。

■「貨幣経済」から「共感経済」へ!大きな変化の中にあるクラウドソーシング

 2008年にはスターバックスが「My Starbucks Idea」というコミュニティサイトを立ち上げました。一般の衆知をビジネスに利用するクラウドソーシングの考え方を活かし、コーヒーの味から紙コップの形、スイーツの提案や支払い方法、店舗の立地まで、あらゆるアイデアをユーザーから募集、集まったアイデアから何を採用して実行したかを公開する仕組みになっています。

 10万以上のアイデアが提案されている中で面白かったのが「旅と共にあるスターバックス」という、世界中のスタバにご当地マグカップを作るというプロジェクト。どんな国や地域でスタバに行っても同じメニューでつまらないと感じたユーザーが発案し、採用されたもので、今は世界各地のスタバでご当地マグカップが作られて話題になっています。旅の思い出として、コレクターズアイテムとして、かなりの優先順位を持って買われるようになっているそうです。ここで重要なのは、旅の思い出として、わくわくして購入するものであるため、価格をあまり気にしなくなるということ。製造原価ではなく、ユーザーに与えている体験が原価になって価格が決まっているからです。このように、物やサービスを作る過程に人々が参加して、共感が生まれて、それが価格の源泉になっている流れがあります。

 クラウドソーシングは、貨幣経済から共感経済へと移る大きな変化の中にあると思っていて、クラウドワークスでも顧客と共に想像するコ・クリエーションのような分野の仕事が徐々に増えてきています。単に安くではなく、色々な人の知恵を借りて、「わくわくするものを作りましょう!」という動きになってきています。

――国内企業の事例についても教えてください

 国内では、ボンカレーの事例があります。新商品のキャッチフレーズをユーザーとともに作るというキャンペーンをクラウドワークスを使って実施していただきました。従来であれば、広告代理店のコンセプターが「このキャッチフレーズで行きましょう!」と決めて、高い費用をかけて作成し、テレビ等で一方的にプッシュ配信していく。これに対して、今回のプロジェクトにはほとんどお金が掛かっていません。その中でユーザーと一緒に作ろうということで、作る過程そのものがプロモーションになっている。結果、7日で4700案の提案が集まり、キャンペーンが話題になったことで新商品の認知も向上しました。ボンカレーというどちらかといえば固いイメージのある会社が、クラウドソーシングを使ってキャッチフレーズを作成するということも意外性があったようです。

 その他、地ビールのメーカーが3万円の予算でラベルを募集し、38件の提案が集まった事例や、震災復興支援として宮城県のバッグ工房がデザインを1万円で募集したところ、その想いに共感した人たちから42件の提案が集まった事例などもあります。これは大きな出来事で、クラウドソーシングは上場企業のあり方も変えていますが、限られた予算でも世界中の誰かに仕事を直接依頼できるということで、個人や小さな事業者に対してもモノづくりの可能性を開いているわけです。

――広く一般のアイデアを求めるという面では、FacebookなどのSNSサービスでも出来そうな気がします。クラウドワークスの強みはどんなところにあるのでしょうか

 まず、報酬の支払いに関する仕組みを持っている点が挙げられると思います。採用報酬だけでなく、参加報酬もお支払いできる。かつ、そのお金をエスクローという仕組みを使って前金でお預かりするので、安心してお支払いが可能になっています。また、仕事をするために集まった13万人のユーザーがいる。そういった要素も大きいでしょう。情報の粒度というか、単純にSNSだとみんながおもしろおかしくやってしまう懸念もあります。今回の場合、今後のプロモーションで使っていくボンカレーのキャッチコピーという、れっきとした仕事という点も意識されて、選んでいただいたのかもしれません。

■共感が決済につながる
――今後のクラウドソーシング業界について、新しい動きを教えてください

 クラウドワークスに一つ面白い兆候があります。サービス開始当初は完全に企業側、発注側が強く、お金を出す人にみんなが応募して、選んでもらっていました。それが今、少しずつ受注側が強くなってきています。クラウドワークスでは、何件受注して、どんな満足度だったかという、人の共感が実績として可視化されています。そして、評価の高い個人に対して企業がエントリーし、受注するワーカー側が企業を選べる状態が発生しつつある。なので、ここから10年後、20年後を考えると、共感を集めている人が優位になっていく、そんな未来になっていく気がしています。

 共感の可視化という部分ですが、クラウドワークスには「ありがとう」ボタンというものが設けられています。クラウドワークスは自分が社長として2回目の起業なのですが、1度目が上手くいかなくて、2010年の年末に一人で会社にいた時に、取引先からお歳暮が届きました。その孤独な時に、自分の事を覚えてくれていると感じて、お金が届くよりはるかに嬉しかった。働くというのは人とのつながりなんだと思い、それをインターネットの世界にも反映させていきたいと、このボタンを付けました。頼んだ仕事が「思ったより速かった」「思ったより質が高かった」と、感謝の気持ちを伝えたい時に押していただきます。押された側には届いたありがとうが溜まっていき、仮に2000回ありがとうと言われている人がいれば「この人は熱心に仕事をしてくれる人なんだな」と、その人の仕事の過程が可視化されます。今、このボタンは50万回以上押されています。「時間と場所にとらわれず働ける」というのは確かに魅力ではありますが、プラスアルファ、人とのつながりが感じられるようなコミュニケーション設計にしています。

 また、今はスクエアやコイニーといったサービスもあり、決済が簡単になってきています。この先ウエアラブル端末の普及が進めばさらに様々な決済が簡単になるでしょう。そうなってくると、最終的には人の共感=小額の決済、といった経済活動が起こってくるのではないかと考えています。そうすると、共感を集めている情報に対してもう少しカジュアルに貨幣が消費されることが予想できる。たとえば、恵比寿の東三丁目でランチを食べたい時に、ウエアラブル端末にアクセスするとその辺りに詳しい人がピックアップされ、その人にランチ情報を尋ねるなら100円、その友達にまで聞くなら200円というようなことが起きるかもしれない。今後は特定の人に依存した情報でないと価値がなくなると思っていて、代替がきくものはどんどんコストダウンが起きる。逆に言うとその人個人にしかできないことを追求すれば、そこでお金が集まる可能性があります。

■「仕事」「教育」「社会保障」が揃って初めて、個人の新しい働き方のインフラに
――クラウドワークスの今後の展望について聞かせてください

 クラウドワークスは、当初はプロフェッショナルの層に特化してスタートしました。お小遣い稼ぎや、アフィリエイターの延長といった手軽なイメージではなく、プロのエンジニア、デザイナーのクラウドソーシングとしてハイクオリティな仕事に集中してスタートした。現在は多様な職種、仕事のやり取りがなされていますが、今でもエンジニアやデザイナーに関しては一定の評価をいただいています。今後は、こうしたプロとアマチュアの切り分けが早期に起きるだろうと思っていて、ライティングでも、プロと主婦で仕事を分けることによって、市場の価格を安定させることができると思っています。

 個人のワーカーに関しては、仕事だけではなくて教育、社会保障が揃ってこそ、はじめて個人の新しい働き方のインフラと呼べると思っています。教育面では、今マイクロソフトとコラボして、個人に対してライセンスの認定をクラウドワークス上で付与できるようにしていたり、美術やライターの学校と手を組んでスキルアップの口座を定期的に持っていたりします。社会保障については、実際に実現しているのは、ベネフィットワンのサービスだけです。今後は正社員が受けられる福利厚生のサービスについて、在宅の主婦でも自由に使えるようにしたい。さらに、万が一のけがや病気のために、共済・保険のような仕組みも検討している状況です。

 我々は、「『働く』を通して人々に笑顔を」というスローガンで、とにかう笑顔を提供するということに日々集中しています。クラウドソーシングも今後はコモディティ化が進んで、あと2、3年すれば差別化ができなくなると思います。そうなると、笑顔を提供することが唯一の競合優位性と言えるかもしれません。ネットの向こう側にいる人を一所懸命サポートし、そこで毎日ありがとうと言ってもらえるかどうか、笑顔になってもらえるかどうか、これを指標にやっていくつもりです。
《白石 雄太@RBBTODAY》

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